IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第163回) 大阪・関西万博で触れる「Beyond 5G」。次世代通信は生活をどう変えるか

時事潮流 デジタル化

公開日:2025.06.17

 2025年4月13日、184日間に及ぶ「2025年日本国際博覧会」(以下、大阪・関西万博)が開幕した。「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマの下、世界各国によるパビリオンの他、多くの先端技術も集結している。

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大阪・関西万博で行われた総務省「Beyond 5G ready ショーケース」とは?

 その中でも注目したいのが、大阪・関西万博において5/26~6/3に行われた「Beyond 5G ready ショーケース」だ。催しは、「5Gの次世代通信技術であるBeyond 5Gの実現により、未来の社会・生活がどのように変わるのか、映像・体験・展示の3つのゾーンを通して紹介する」イベントだ。

 総務省(総務省総合通信基盤局電波部移動通信課新世代移動通信システム推進室)の主催で、西ゲートからすぐのEXPOメッセ「WASSE」にて開催された。(詳しくは総務省「大阪・関西万博における"Beyond 5G ready ショーケース"の開催」および「Beyond 5G ready Showcase」を参照しよう。万博の公式情報も参考になる)。総務省は、2024年8月に、次世代情報通信基盤であるBeyond 5Gの実現に向け、「AI社会を支える次世代情報通信基盤の実現に向けた戦略 - Beyond 5G推進戦略2.0 -」を公表し、各種政策を推進中だ。

 「Beyond 5G ready ショーケース」は、この戦略に基づく大阪・関西万博における取り組みの一環で、Beyond 5Gに関するわが国の取り組みを世界に情報発信する。イベントでは、万博に来場する幅広い層を対象に、Beyond 5Gが実現した未来の社会・生活のイメージをリアリティや没入感を重視した体験方式で提供し、併せてBeyond 5Gに関連するわが国の研究開発や最先端技術の展示を実施。国際連携や標準化活動での仲間づくりや社会実装・海外展開をさらに推進していく目的だ。また、世界中の多くの人々に体験してもらえるよう、万博会場のイベントと共通のコンテンツをWeb上からバーチャル空間で体験できる「バーチャル催事」を併せて実施する。バーチャル体験は10月13日までの万博開催期間いっぱいまで利用できるので体験してみるとよい。

 話は戻って、リアルイベントの会場は3つのゾーンに分かれている。ZONE1「プロローグシアター」は、通信の歴史と未来について180度スクリーンを使った映像で紹介し、通信技術の夜明けから電気通信のはじまり、インターネット元年、携帯電話の誕生からスマートフォンの普及、現代の高速・大容量・低遅延・多数同時接続が可能になった5G、そして2030年以降のBeyond 5Gで実現する未来像が描かれる。

 ZONE2「未来都市エリア+技術体験ブース」では、Beyond5Gで実現する5つの未来が疑似体験できる。ここで体験できるコンテンツは、「未来のからだ」(遠隔にいる人、もしくはAIとリアルタイムでのキャッチボールを体験できる)、「未来のしごと」(月までの通信ネットワークが一般の人にも開かれ、月と地球での時空間同期が実現する未来を体験)、「未来のしぜん」(通信システムやデジタルツインが稼働し、遠隔操作されているロボットが海洋を掃除する様子を観察できる)、「未来のくらし」(未来では、サイバー空間においてさまざまなシステム間の調整役としてオーケストレータというシステムが活躍する。そんなオーケストレータが担う産業シミュレーションを直観的に体験できる)、「未来のあんしん」(災害が発生し、通信インフラに障害が発生。災害地域まで高高度を飛び続ける無人飛行機【HAPS、High Altitude Platform Station】を飛ばして、安定した通信を提供するお手伝い体験する)となる。

 ZONE3「技術展示」では、Beyond 5Gの最新技術をパネル展示、映像、実機で紹介する。総務省・国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)のBeyond 5G基金事業などで今まさに研究されている最新技術を紹介し、ZONE2で体験した未来の通信を実現する技術を具体的に学べるしくみになっている。

Beyond 5Gとは? 5Gの先にある、次世代の情報通信基盤

 イベントは「5Gの次世代通信技術であるBeyond 5Gの実現」とうたわれているが、そもそも「Beyond 5G」(つまり6G)とは何か、おさらいしてみよう。5Gは「今」、Beyond 5G(6G)は「これから」の技術となる。「Beyond 5G」についての総務省の動きは「Beyond 5Gに向けた技術戦略の推進」を参照するとよい。

 資料によれば「Beyond 5Gは、2030年代に導入される次世代の情報通信インフラであり、あらゆる産業や社会活動の基盤となることが見込まれて」いるのだという。「Beyond 5Gでは、従来の移動通信(無線)の延長上だけで捉えるのではなく、有線・無線や陸・海・空・宇宙等を包含した統合的なネットワークと考えられて」おり、「5Gの特長である高速・大容量、低遅延、多数同時接続の機能を更に高度化することに加え、新たに超低消費電力、通信カバレッジの拡張性、自律性、超安全・信頼性どの機能の実現が期待されて」いる。

 「Beyond 5G推進戦略2.0」の関連資料の1つである「Beyond 5G推進戦略-6Gへのロードマップ―」によれば、アクセス通信速度は5Gに比べて(以下同様)10倍、コア通信速度は100倍。遅延は10分の1、多数同時接続数は10倍、消費電力は100分の1という。なお、この戦略がなければ、将来、IT関連消費電力が現在の約36倍になってしまうという。持続可能な開発目標(SDGs)には、この戦略の実現が不可欠、ともいえそうだ。

 Beyond 5Gにより高速でつながることで、現在のような「家にWi-Fiがある」「外では5Gでつながる」レベルではなく「都市と自分が常時つながっている」生活が実現する。具体的にいえば、現在のIoTがさらに発展し、自動車、家電、医療機器など、すべてのものがリアルタイムでつながり合う未来だ。クラウド処理やAIの高速化により「待ち」のない、止まらない通信が実現、離れていても、同じ場所で作業しているのと同等に共同作業、遠隔操作が可能となる。これは、効率化はもちろん、多くの命を救い、あらゆる人材や才能を生かし、皆が生き生きと暮らすことができる。

 生成AIなどの先端技術がビジネスや生活のパートナーとなりつつある今、AIなどの先端技術を人間が思いのままに使いこなし、常に起こる問題を解決しつつ皆が幸せに共存していける世の中がもうすぐそこに来ている。それには遅延なく途切れず安定、しかも低消費電力な通信が不可欠だ。「Beyond 5G推進戦略」は、2030年代に期待される我が国が目指すべき未来社会の姿であり、「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」を実現させる「Society5.0」実現のための取り組みといわれるが、大阪・関西万博での展示はこの計画のマイルストーン(中間地点)、と位置づけられる、という話だ。日本の姿勢と過程を世界にアピールするいい機会、ともいえそうだ。

 そうそう、総務省の「Beyond 5G ready Showcase」ページを下にスクロールすると、関連動画が4つある。これらは対談やレポ形式で、わかりやすくイベント(リアル/バーチャル)を紹介、動画なので見るだけでわかりやすく、おすすめだ。

総務省サイト内のバーチャル催事は10月13日まで。会場催事と共通のストーリー・コンテンツの簡易体験ができる

 「Beyond 5G ready ショーケース」のイベントはすでに終了してしまったが、バーチャル催事は万博の終了まで利用できるので、ぜひ体験してみよう。バーチャル催事入り口はこちらからアクセスできる。

 パソコンとスマホに対応している。「推奨環境」を確認して、適合を確認したら「START」を押してバーチャル世界に入ろう。ページに「ようこそBeyond 5G ready ショーケースへ。次世代の情報通信基盤であるBeyond 5Gの実現により、未来の社会・生活がどのように変わるのか、バーチャル催事で体験しよう!」というメッセージが流れる。

 バーチャルで入場する未来都市には5つのブースがあり、Beyond 5Gの描く未来が体験できる。5つのブースを回るには「Beyond 5G ID」を使うのだが、5つのブースを回遊して「IDパーツ」を集めることで、サイバー空間におけるもう1人の自分であるアバターができあがる、という達成感のあるイベントだ。

 筆者もさっそくやってみた。まずは「あなたが楽しみにしている未来のテーマはどれ?」という問いに、5つの中から選び、「OK」を押す。次にバーチャル空間の中で移動したり、空間にいるアバターたちと会話しながら5つの技術体験ブースを訪れ、それぞれの体験を行ったり対応する先端技術を学ぶと、アバター・パーツが手に入る。5つのパーツが集まったら中央のポータルキャンバスに向かい、集めたパーツをアクティベートすると、自分だけのアバターができあがる。アバターをダウンロードすればSNSなどで「Beyond 5Gのサイバー世界でのもう一つの自分」としてシェア&活用できる、というしくみ。

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筆者が体験した「Beyond 5G ready ショーケース」のバーチャル催事体験の一部。読者のみなさんもぜひ体験してみてほしい

 ゲーム感覚で楽しくバーチャル世界を回りながら、気が付くと最先端技術にも詳しくなっていて、なかなか興味深かった。筆者はパソコンを使ったが、ほぼ矢印キーのみで移動でき、3D空間に最初はとまどうものの、慣れれば操作は簡単だった。なお、操作に慣れていない人が行う場合、3D酔いを起こす場合があるので、休憩と水分をとりながらマイペースで楽しむのがおすすめだ。

今後どうなる?傾向と対策

 万博会場でのイベントは終わってしまったが、バーチャルイベントは10月まで続いている。2月に出された総務省総合通信基盤局の「大阪・関西万博における総務省主催の催事「Beyond 5G ready ショーケース」について」を見渡してからバーチャルイベントに参加すると、さらにいろいろ納得できる。

 このPDFに描かれている「未来都市エリア+技術体験ブース」コンテンツ、災害により通信が途絶した地域に、HAPSを操縦して通信の復旧を行う臨場感型体験ブース「HAPSリカバリー」、地球から月面基地のロボットをリアルタイムで遠隔操作して月面作業を行う、VRゴーグルを活用した没入感型体験ブース「リモートムーンオペレーション」、海中ロボットを地上から遠隔制御し、海洋環境維持体験ができるシアター型体験ブース「オーシャンクリーニング」などがバーチャルでも体験できるのはなかなか貴重だ。

 PDFによれば、Beyond 5G時代には「個別分野に特化した小規模・分散化した多数のAIや、これを駆動するデータセンター等の計算資源群を連携させ、モノ(自動車、ドローン、ロボット等)やセンサーを含む多様なユーザとを場所を問わずに繋ぐことが可能な、低遅延・高信頼・低消費電力な通信インフラが実現」する、という話。

 いつどこで誰か急に病気になったり怪我をしたりしても即座にリモートで治療が可能となれば、高い確率で助けられる。それには遅延なく高速で安定、低電力な通信と発展しつつある先端技術で、可能となる。どんなに離れていても、家族の介護などの事情を抱えていても、高速通信と技術があれば、リモートで仕事ができ、オンラインで皆が共同作業できる。災害が起きたら、HAPSを打ち上げて高速通信を可能にし、救助や復旧作業に当たれる。宇宙や海底、危険だったり人が生きづらい場所はAI搭載のロボットにまかせたり人間がリモートしたりなど、魅力的なの未来社会が、すぐそこに来ている。

 「通信なんて"ただつながればいい"」という時代は、もう終わったと感じる。通信は、現代社会を支える重要な基盤であると同時に、業種・業態を問わずAIやクラウド活用、DX推進などを図るうえではその通信速度の最適化が求められる。万博の会場やバーチャル催事で垣間見えるのは、遅延なく高速で低電力でずっとつながり合って、いつ誰がどこにいても助け合える"つながりが社会そのものになる未来"。すべてがつながり、幸せに生きていける世界。未来インフラは、すでに動き出している――。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

【TP】

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