ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
ロシアのウクライナに対する軍事侵攻は直接の軍事攻撃のほか、情報戦やサイバー攻撃、経済制裁なども組み合わさって「ハイブリッド戦争」というキーワードも出てきている。
ウクライナは「欧州の穀倉」といわれるなど穀物の輸出で有名だが、旧ソ連時代から科学技術が栄え、IT人材が豊富なIT大国としても知られる。米グーグルや韓国サムスンのほか日本企業も開発拠点を置いてきた。ITに関しては、ウクライナのIT人材、IT開発拠点への影響のほか、半導体生産に必要なレアガスやレアメタルなど原材料の一部にロシアやウクライナへの依存度が高いものがあり、長期化している世界的な半導体不足に拍車をかけるといわれている。
3月11日、IT専門調査会社のIDCは、ロシアのウクライナ侵攻が世界のICT市場に与える影響についてのレポートを発表した。それによれば、ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う外交的・経済的対応は、世界にとって重大な転換点になるといわれ、特に情報通信技術(ICT)市場は、紛争そのものだけでなく、米国、EU、その他の国々がロシアに課した経済制裁の影響も大きく受けるとされる。
IDCのレポートでは、ICT市場が受ける影響を6項目で解説している。
1つ目は「技術需要の変動」だ。ロシア経済は西側諸国による制裁の影響を受け、ウクライナの事業活動も紛争によって停止。これにより、2022年に現地市場需要が縮小、両国の技術支出は強い影響を受ける。
2つ目は「エネルギー価格とインフレ圧力」。ウクライナの紛争を巡る緊張は、諸国にエネルギー価格と供給の安全の両方に広範な影響を及ぼす。
3つ目は「スキルとインフラストラクチャの再配置」。多くの企業がウクライナに子会社を置いたり、ロシアで事業を展開したりしているが、紛争によってすでにウクライナで何万人もの開発者が避難、一部のサービスが移転している。
4つ目が「現金と信用」。これまでの金融制裁は、ロシアにおける外国の信用確保に深刻な課題を提示する一方、EU諸国がロシアに行った融資にも潜在的な損失を生み出している。
5つ目が「サプライチェーン・ダイナミクス」。ロシアへの製品や部品の輸出は制裁の影響を大きく受ける。ロシアとウクライナからのハイテク材料供給の大幅な減少で、半導体不足にさらに追い打ちがかかる。また、物流が両国を迂回することでのコストの増大など、サプライチェーンは世界的にさらに混乱すると予測される。
6つ目が「為替レートの変動」。ロシアの通貨は、制裁で価値が急落、ロシアにとってIT機器やサービスの輸入は大幅に高価になる。これによりロシアのPC、サーバー、通信機器メーカーの業務の継続が難しくなる。この地政学的緊張は、他の通貨にも大きな影響を与えるとしている。
帝国データバンクが2022年1月末に行った調査によれば、ウクライナに進出している日本企業は57社。約半数が自動車などの製造業だ。ウクライナはIT産業が発達しているため、ソフトウエア開発企業ではオフショア開発拠点として進出しているケースも見られる。
ウクライナに進出している住友電工、フジクラ、JTなどは工場を停止。別の国での代替生産を協議するなどの動きが広がる。
ロシア侵攻から1カ月でロシアから撤退した米国企業は、400社を超えるともいわれている。ロシアに進出している日本企業も、多くが縮小・撤退の動きを示す。日産自動車、トヨタはロシア工場の生産を停止、花王は化粧品などの出荷を停止、三菱電機はFA機器や空調機器などの出荷を順次停止、パナソニックは家電や業務用カメラなどの商品の供給を停止、日立製作所はウクライナ副首相の要請を受け、建設機械などのロシア事業を停止、ソニーグループや任天堂はゲーム機やソフトの出荷を停止した。
先述のIDCのレポートでは、サイバー攻撃のリスクと、より広範な情報戦の可能性も述べられている。ウクライナ大使館を装ったメールを元に電話会議を設定され、英国の国防大臣が実際にウクライナ首相をかたる人物と電話会談を行ってしまった事件もあった。
先日、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアに降伏すると発表するディープフェイク映像がSNSに公開され話題となった。動画はクオリティーが低く早めに削除されて事なきを得たが、もし精巧な動画を皆が信じてしまったらと思うと恐ろしい。
トレンドマイクロはセキュリティブログで「ロシア・ウクライナ紛争に関連したサイバー脅威動向」として、ランサムウエア攻撃グループによるロシア政府支持表明を紹介し注意を呼びかけた。さらに“ウクライナ”に便乗するスパムメール・不正サイトの急増も示唆する。
サイバー攻撃では、世界中のさまざまなデバイスを踏み台にする。自分は関係ないと言ってはいられない。デバイスを最新の状態に保ち、セキュリティツールを整備する、怪しいメール、添付ファイル、リンクは開かないなどの基本動作をさらに徹底したい。この侵攻を契機に、サイバー攻撃がさらに激化する危険性もある。常に注意を怠らないように気を付けよう。
執筆=青木 恵美
長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。
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