IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第11回) 身近になるVR。小さい企業もビジネスにできるか

IT・テクノロジー デジタル化

公開日:2017.03.07

 Oculus VR(Facebookが2014年に買収)の「Oculus」や、ソニーの「PlayStation VR」、HTCの「Vive」など、ヘッドマウントディスプレーを備えたコンシューマー向けVRシステムが大人気だ。スマートフォン(スマホ)を利用した気軽なVRも盛り上がり、2016年はVR元年といわれた。現在も勢いは衰えない。「VRで部屋を内覧」「観光名所のVR体験」など、VRビジネスも盛んだ。実際に体験するより安価かつ安全。場所や時間の縛りがない、また好きにカスタマイズもできるといった自由度の高いVR。中小企業もビジネスに利用しない手はない。

VRの歴史は50年。一気に身近に

 VRとは、バーチャルリアリティー(virtual reality)の略で、ユーザーの五感を含む感覚を刺激して、理工学的にあたかも現実のような状態をつくり出す技術やシステムを指す。仮想現実とも呼ばれる。

ハコスコは国内サービスが故に、身近なアーティストや施設のコンテンツが豊富

ハコスコは国内サービスが故に、身近なアーティストや施設のコンテンツが豊富

 VRといえば、ヘッドマウントディスプレーを装着してコンピューターでつくり出されたサイバースペースを歩き回る近未来を想像しがちだが、歴史は意外にも長い。バーチャルリアリティーは1989年にできた言葉だが、仮想空間に没入できるVRで不可欠なヘッドマウントディスプレーが作られたのはなんと1964年だ。イベントや遊園地、ゲームセンターなどで、映像はもちろん、立体音響、風や香り、イスやハンドルの振動、本体そのものの動きなどもVRの一種。こうした仕掛けは子どもの頃から普通に味わってきただろう。

 2016年末に発売されたPlayStation VRは発売後すぐに売り切れ、現在も品切れ状態だ。こうしたコンシューマー向けVRシステムが大人気な一方、スマホを使って楽しめる手軽なVR、「スマホVR」もある。ビューアーにスマホを挿して見る。Googleの「Google VR」では、数百円から買える「Cardboard」という紙素材のビューアーで、豊富なVRコンテンツを楽しめる。同じく「ハコスコ」も紙素材のビューアーだ。

ハコスコビューアー。1000円ちょっとで手軽にVRが味わえる

ハコスコビューアー。1000円ちょっとで手軽にVRが味わえる

 

触感を再現する技術も

 3月発売の任天堂「Nintendo Switch」。テレビにつないでみんなで楽しめる「TVモード」、スタンドを立て、テレビのない場所でも2人対戦ができる「テーブルモード」、携帯ゲーム機として持ち歩く「携帯モード」の三様に変化するスタイルで話題だ。

 テーブルモードでは左右一対のコントローラー「Joy-Con」を使い、2人で対戦ゲームが楽しめる。対戦は、卓球、早撃ち、乳搾り、ひげそり、グラスに入った氷の数を当てるなど、さまざまな所作に対応する。これは、あらゆる日常的な感触を再現できる「HD振動」という技術だ。VRの一種として興味深い。

 VRの映像空間に、五感を刺激する音響、風やにおいなどを組み合わせれば、現実感や臨場感が増す。従来のゲーム機に付属するコントローラーやスマホの振動も、かなり工夫され進歩してきてはいるものの、SwitchのHD振動は別次元品質といわれる新技術。将来、VRコンテンツとHD振動が組み合わさったら、どんな仮想現実が描けるか期待がふくらむ。

アイデアを凝らせば、ビジネスチャンスも

 VRを使ったビジネスも続々と登場している。リニューアルストアの「中古ミテクレ」は、中古マンションや中古住宅をVRで内覧できるサービスだ。スマホ用のアプリとヘッドマウントディスプレー(CardboardやハコスコでOK)で、現状に加え、リフォーム後もVRで体験できる。リフォームすればこうなるという未来を、実際に見るというアイデアだ。

 旅行会社の場合は、内部や眺望などをVRで見せた上でホテルの部屋を選ばせたり、名所旧跡や施設などを360度で下見をさせたり、といったことに取り組めば顧客満足度は高まる。エイチ・アイ・エスでは、パンフレット上のQRコードをスマホで読み込み、店舗で配る専用メガネにスマホをはめ込んでのぞくとVR体験ができるサービスを行っている。

 家具やインテリアを扱う会社なら、VR空間に家具を配置したり好きな内装を選べたりするVRショールームが考えられる。IKEAはカタログの家具を、実際の部屋に配置できるスマホ用ARアプリ(IKEAカタログ)で以前話題となった。最近、バーチャル空間に家具を配置、色や素材などもリアルタイムで選べるVive用VRアプリ「IKEA VR Experience」をリリースした。

 店の中を仮想的に歩き回って選んだ商品をカゴに入れ、バーチャルな買い物ができる「VRショッピング」をオーストラリアのeBayが開始したというニュースもあった。VRショッピングに関しては、Amazonがひそかに計画中という噂もある。

 先述のGoogleVRにもハコスコにも、コンテンツ作成用のカメラや作成キットなどが安価で用意されるなど、気軽にVRコンテンツを作成する環境も整いつつある。VRコンテンツ専門の作り手もどんどん名乗りを上げてきた。事業規模の大きくない中小企業でもVRに参入しやすくなったといえる。アイデアを凝らして客が喜ぶシステムをつくれれば、事業成功への確率はぐんと高まる。実例を参考に、VRサービスの提供を検討してみてはどうだろうか。

※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

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