IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第20回) 宅配クライシスを乗り切るITまとめ

脅威・サイバー攻撃 IT・テクノロジー

公開日:2017.09.29

 インターネットとIT機器の普及で、ネット通販やフリマ、オークションが盛んとなり、宅配便の取扱個数は急速に伸びている。一方、宅配便の約2割が受取人不在による再配達といわれる。この再配達による運送会社の労働環境悪化や人手不足、それに伴う環境問題の深刻化が社会問題となっている。

 宅配便の大手であるヤマト運輸は10月、佐川急便は11月に基本運賃を引き上げる。ただし、これで再配達問題が解決するわけではない。

 再配達による「宅配クライシス」に関して、国が再配達防止の呼びかけやキャンペーンを行う動きも盛んとなっている。運送会社は、メールやLINEを使ったり、スマホから気軽に利用できる宅配ロッカーサービスと連携したりなど対策を行っている。そのほか、一般人が空き時間を使って荷物を運ぶクラウドソーシング、ドローンを使った無人配達など、ITを利用した方策が徐々に実現しつつある。

 ここ十年来で、買い物スタイルは確実に変化した。誰しもがネット通販やネットオークションなどの活用を実感しているのではないだろうか。筆者宅にも3日に一度、もしくはそれ以上の頻度で、宅配便の荷物が届く。宅配便の取扱個数は、ネットが普及しつつあった1998年あたりの約2倍に急増している。

宅配便取扱個数の推移(国土交通省「平成28年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法」を基に作成)

宅配便の急増と深刻な再配達問題

 通販がここまで普及したのは、Amazonプライムなど送料無料の通販サイトの存在と思われる。通販を利用するには基本的に送料を負担する必要があるが、実際のお店での買い物に比べ、送料が余計にかかるのはできる限り避けたい。通販サイト側も、「○円以上は送料無料」「キャンペーン商品を含めれば送料無料」など、送料負担の軽減を画策する。

 そこで、通販サイトの送料軽減の割を食うのは運送会社だ。飛躍的な宅配の個数増加で運送会社はウハウハかと思いがちだが、通販サイトからの相次ぐ「ボリュームディスカウント」(たくさん発注することで値下げを要求すること)で、利益率が下がりつつあるのが現状だという。

 それに加え、深刻なのは再配達問題。再配達にかかる燃料や人件費、荷物の保管費用などは現状、運送会社の負担となる。これにより、ドライバーの残業や長時間労働、休憩時間も取れないなど労働環境が悪化し、ドライバーのなり手が減るなど人手不足も深刻化してしまっている。

 再配達により消費されている労働力は1.8億時間。これは10人に1人のドライバーが1日中再配達している計算だ。再配達のトラックから排出されるCO2は42万トンともいわれ、国土交通省が「宅配便の再配達削減に向けて」という告知、環境省が「できるだけ1回で受け取りませんかキャンペーン」といった取り組みを行うほど事態は深刻だ。

ITを使って再配達問題を乗り切る

 業界最大手のヤマト運輸では、従来のメールやWebサイトによる通知や受取日時などの変更のほか、スマートフォンアプリLINEを使ったサービスを行っている。LINEに配送予定や不在連絡を通知、トーク画面から受取日時や場所(自宅のほか、営業所、宅配ロッカー、コンビニなど)の変更が気軽に行える。

 自宅で荷物を受け取れないユーザーのため、スマートフォンなどから簡単に利用できる宅配ロッカーサービスも首都圏などでは開始されている。パックシティの「PUDO(プドー)ステーション」などが代表的な例だ。ヤマト運輸は積極的にこのサービスと連携を行う。

 米アマゾンでは昨年12月、ドローンを使った初めての無人宅配を行った。同じく米セブン-イレブンやドミノ・ピザもドローン配送をスタートさせている。国内でもこうした無人宅配の実験が行われ、近いうちに実現しそうな勢いだ。

 また、一般人がスマートフォンアプリを頼りに空き時間を使って荷物を運ぶサービスが、米アマゾンにより実現しつつある。国内でも「DIAq」というクラウドソーシングサービスが始まった。

 通販サイトも、再配達防止に動きを見せている。メールなどでの連絡はもちろん、楽天が商品を配達1回で受け取るとポイントを通常の3倍付与するキャンペーンを行った。靴とファッションの通販サイト「ロコンド」の「急ぎません。便」も大きな話題となった。

 統計では再配達となった理由の約4割が「配達が来るのを知らなかった」、再配達になった荷物の7割が「時間指定をしていなかった」からだという。これらは主にコミュニケーションの問題なので、ITサービスの利用によりあらかた解決が可能なはずだ。再配達防止だけでなく、宅配問題全般に対し今後ITが果たす役割は非常に大きい。

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

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