ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
近年、スーパー、コンビニ、アパレル店などで、顧客が自身で商品会計を行う「セルフレジ」が増えている。店舗側は、人件費削減や生産性の向上につながる。顧客側も、点数が少ないときや素早く買い物を済ませたいとき、新型コロナウイルスの影響で人との接触を減らしたい場合など、なかなかありがたい。また、最近では商品バーコードの読み込みを店員が行い、支払いを顧客が精算機で行う「セミセルフレジ」も増えており、スキャンのみを顧客が行うといったシステムも存在する。
メリットも多く普及しつつあるセルフレジだが、問題も起きている。それは、故意な不正(万引き)や、顧客が操作を誤って未決済商品を持ち帰ってしまうことなどで生じる「ロス」の増加だ。
ある新聞記事によれば、窃盗容疑で現行犯逮捕された男性は、「セルフレジでバーコードを読み取った音を聞いた」と主張して否認したものの、調べが進むと、同様の手口で何回も商品を盗んでいたことが判明したという。
故意か過失か、判断の難しい部分もあるが、店舗側にとってはロスになるのは間違いない。実際にセルフレジを利用すると、1人の作業なのでミスに気付きにくい、と思える。慌て者の筆者は作業に焦って挙動不審になりがちで、それで疑われたら嫌だなぁ、としばしば思うこともある。
全国スーパーマーケット協会の「2022年スーパーマーケット年次統計調査報告書」によると、セルフレジ設置率は25.2%で増加傾向が続いている。保有する店舗数や売場規模が大きい店舗を保有する企業ほど設置率が高く、都市圏に比べて地方圏のほうが設置率はやや高いとされる。
また、同報告書によると、セルフレジを新たに設置したい企業は28.7%。「設置数を増やしたい」企業は12.9%となり、企業分類別にみると保有店舗数26~50店の企業が「新たに設置したい」は45.2%と高く、51店以上では「設置数を増やしたい」の割合が50%超となっている。セミセルフレジについては、全体の設置率が75.1%で増加傾向が続いている。保有店舗数11店以上の企業で設置率が8割超え、都市圏で設置率が高い傾向にあることが読み取れる。
一方、セルフレジが普及しつつある現状には、万引きなどの犯罪が増加するのでは、との懸念を感じる。例えば、全国万引犯罪防止機構の「第12回 全国小売業不明ロス・店舗セキュリティ実態調査分析報告書」によれば、万引きを含めた年間の総売り上げに対する不明ロスは、コンビニ・ミニスーパーで2.21%、スーパーで0.88%を占める。ロスを減らすための取り組みを進める中で、防犯対策などの諸課題をどのように解決するのか。これらが今後の大きな焦点になるだろう。
セルフレジでの不正手口を考えるに、品物を故意にスキャンしない、というのは誰でも思い付く。通そうとして失敗したなど、あくまでミス、と言い逃れもしやすい。大きな商品や高価な商品をカート下段などに置き、精算を忘れたふりをして出るといったさまざまな手口がある。
これらの対策としてポピュラーなのが防犯カメラの活用だ。店舗の各所に設置するのはもちろん、セルフレジでは、購入者の顔や手元を写す専用カメラも有効だ。この点、最近、注目を集めているのが「AI防犯カメラ」。防犯カメラの映像をAIがリアルタイムに解析し、万引き犯が取りやすい行動パターンに合致する動きを判定、スタッフのスマホなどに通知を送る。
会計前後の重量を監視するシステムや、重量監視に加えAIでスキャンをスキップした商品を検知するシステムもあるという。顔認識や動き判定を行うカメラ、セルフレジと併せて商品在庫も管理できるシステムなど、さまざまなソリューションが存在するので自社のニーズに合ったものを検討するとよいだろう。
AI防犯カメラの検討は1つの選択肢だ。セルフレジの導入時には、機器に付属する防犯対策機能の活用も併せて検討しつつ、人員配置やシフト、店舗全体のレイアウト、キャッシュレス決済への対応、既存の防犯カメラの個数と配置なども総合的に見直すとよいだろう。
店舗や店舗の運営企業は、顧客との信頼関係を保ちたい気持ちは常にある。顧客側も、あまり厳しく監視されたら愉快ではなく、足が遠のくこともあり得る。あくまで自然に店舗と顧客双方に有利な展開を考えるのがスマートだ。セルフレジに慣れない顧客も多いので、分かりやすい操作案内や疑わしい行為を発見したときのフォロー体制を整えるのも大切だ。
今、長らくの間、私たちが利用してきた有人レジシステムが大きく変わろうとしている。そこには決済手段の多様化やモバイル機器の普及、AIの進化など、さまざまな要素も絡んでいる。今後を考える際には、コストとロスのバランスに加えて、「店舗も顧客も信頼関係を保ちつつ気持ちよく利用できるにはどうすればよいか」を出発点として、ICTの専門家の知見を活用するなども視野に入れながら柔軟に対応していくのが賢いだろう。
執筆=青木 恵美
長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。
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