IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第118回) 東京都と日本マイクロソフトが連携~「行政DX」の実現に向けて

IT・テクノロジー 時事潮流

公開日:2023.03.24

 東京都と日本マイクロソフトは2月10日、「東京全体のDX推進に向けた連携・協力に関する協定」(東京都・報道発表資料)を締結した。この協定は、相互協力かつ持続可能な協働により、都政現場でデジタルツールを駆使した業務改革の実践や、都民のQOL(生活の質)向上に資するサービス創出に取り組み、成果を横展開することでデジタルガバメントの実現につなげていくことを目的としている。

知事「デジタルの力を大いに活用しながら東京大改革」宣言、マイクロソフトと連携で

 小池知事は、2月の締結式で「世界的なデジタル先進企業であるマイクロソフトの皆さまがパートナーということで、大変、心強い。都は、デジタルの力を大いに活用しながら、東京大改革を進めている。区市町村とも一緒になって、『爆速』で東京全体のDXに取り組んでいく。グローバル企業としての知見や、クラウドやAIなどの先進技術をお持ちの御社とタッグを組むことで、取り組みは加速する。是非東京というフィールドで、様々なチャレンジをしてほしい。その成果を東京全体、全国、世界にも広げていきましょう」とコメントし、期待感を示した。都と日本マイクロソフトは、これまで東京都高度情報化推進システム(TAIMS)を中心にICT化の促進を連携してきた。今回、改めて東京全体におけるDX推進に向け連携協定を締結する運びとなった。

なぜ都がDXパートナーにマイクロソフトを選定?その理由

 2019年度以降、東京都はDX化を大きく推進してきた。2019年に戦略政策情報推進本部を設置し、デジタル人材登用から着手。2021年にはデジタルサービス局を設置。その後、行政手続きのデジタル化やキャッシュレス、ペーパーレス、FAXレス化などを行ってきたが、東京全体のDX化にはさまざまな課題があるという。課題解決には、海外のデジタル先進都市の優れた開発体制やユーザー目線でのデジタルサービスなどの先進事例を都政に生かすことが有効と見ている。

 2023年度から都と区市町村を含めた東京全体のDXを効果的に進めるため、行政と民間が協働する新団体「GovTech東京」を構想、都デジタルサービス局とGovTech東京の二者が連携し東京全体のDXの飛躍的な進展を図ろうとしている。この一環として、都庁の全庁システム(TAIMS)の全面的なクラウド化を構想、業務を進めつつクラウドへ移行できるデジタルツールとして、1月からMicrosoft 365およびMicrosoft Teamsを利用できる環境が整った。

 日本マイクロソフトは、昨年9月に政府・自治体のDXにおける取り組みに関するオンライン説明会を開催、日本の政府や地方公共団体向けに実施している支援事例を紹介、「誰一人取り残されない」日本のデジタル社会の実現と変革に向けた「かけはし」になる姿勢を示した。この点、日本マイクロソフトは農林水産省や防衛省の他、東京都中野区や大阪府堺市などの自治体と連携協定を結び、DX化に取り組んでいる。堺市においては、昨年9月に日本マイクロソフトと包括連携協定を締結。行政のDX化に加えてICTを活用した教育、ICTを活用した働き方改革の推進、市政の見える化など5分野にわたり、マイクロソフトと連携しDX化を進めている。詳しくは堺市の「日本マイクロソフト株式会社との取組」を参照してほしい。

具体的な取り組みは? 行政DXを進める「4つの取り組み」他

 今回の都と日本マイクロソフトの協定では、「東京のフィールドを活かした先進サービスの創出に関すること」「クラウドインフラをベースとした行政DXの推進に関すること」「都及び区市町村職員の人材育成に関すること」「国内外の行政機関等とのネットワーク構築に関すること」という4つの取り組みを連携・協力して行う。

 協定に基づく活動の第一弾として、2月以降順次開始される具体的な取り組みは、「デジタルツールを活用した業務効率化」「都職員(ICT職)の派遣」の2つだ。

 「デジタルツールを活用した業務効率化」では、都庁職員向けに、1月から導入されたMicrosoft Teamsの操作研修、Microsoft 365の活用研修が行われる。研修のアーカイブは区市町村にも展開、区市町村職員向け業務効率化オンラインプログラムも実施される。「都職員(ICT職)の派遣」では、日本マイクロソフトに1名を4月から1年間研修派遣する予定となっている。これらの都の取り組みは東京デジタルサービス局の「デジタルサービス局の取組」から参照できる。

今後どうなっていくか、傾向と対策

 マイクロソフトはビジネス等で広く使われるMicrosoft 365やMicrosoft Teamsの開発元であるだけでなく、パソコンを動かすOSの開発元でもある。さらにはSurfaceというラップトップパソコンも発売し、オールシステムを欠けなくサポートできる存在だ。今回の東京都の選択は、非常に賢いともいえる。

 現状では、デジタル庁の掲げる「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を進めてデジタル先進国との格差をなくすことから始めることになるだろう。都知事の言う「爆速で」DX化を進めるためには、今のところビッグ・テックの力を借りるのが得策なのかもしれない。

 ただ、願わくば、アメリカのビッグ・テックとの連携ではなく、国内企業との連携でデジタルガバメントを作り上げてほしいという気持ちもある。都の「東京のDX推進強化に向けた新たな展開」やデジタル庁の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」などで見るにつけ、日本が世界の国々をけん引していけるような状態に早くなれればいいなと感じている。私たち自身も、都や国、地方自治体の取り組みを温かく見守り、サービスを利用し、時にはフィードバックなども送りながら所属する企業や団体などのDX化も「爆速で」進めたい。今後の取り組みや成果にも注目しつつ、確かな一歩を歩んでいこう。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

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