ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
「格安SIM」「格安スマホ」という言葉をご存じだろうか。携帯電話、スマートフォンなどのモバイル端末を使う場合、今までは基本的に大手携帯電話事業者3社(ドコモ、au、ソフトバンク)と契約していた。それらよりも端末代金、さらに月々の料金を「格安」にできるサービスが、最近普及し始めている。
こうしたサービスは「MVNO」と呼ばれる事業者から提供されている。MVNOとはMobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事業者)の略で、自前で無線通信回線設備を持たず、既存の通信事業者からインフラを借り受けてサービスを提供する事業者を指す。
サービスの開始は2000年代初め。当初はなかなか普及しなかったが、ここ最近で急速に拡大し、多くの事業者がサービスを提供。価格はもちろん、サービス内容や回線品質、ユニークさなどでも競争が激化している。
大手の携帯電話事業者との契約は、端末を分割払いで購入するプランが主流だ。2年間の継続契約を条件に、分割払いの端末代を割り引く。2年ごとの契約更新月以外は中途での解約や変更には違約金がかかるという仕組みだ(一般的にいう「2年縛り」)。
安定したサービスと手厚いサポートが受けられる半面、端末を2年間使い続けなければならない、契約変更や解約がしづらい、1つの端末が同じ通信事業者しか使えない(SIMロック)、月々の料金が割高など、ユーザーに不便な面が多くあった。
そんな状況を改善するため、総務省による行政指導が5回にわたって行われてきた(携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース)。大手携帯電話事業者に対する行政指導は、料金プラン、2年縛り、SIMロックなど多岐にわたる。ただし、それらに対する事業者側の対応は、「契約更新期間を1カ月から2カ月に延長」「ライトユーザー向け料金プランの追加」「条件付きでのSIMロック解除」など。改善は小手先にとどまっているという見方が多い。
こうした状況に、従来の携帯電話事業者のサービスに飽き足らないユーザーがMVNOに流れている。
MVNOにも弱点はある。MVNOは、基本的に端末の手配や設定は自分で行わなくてはならず、ITに弱い人が利用するには少しハードルが高かった。端末の補償サービスや紛失時のサポートなどの選択肢が狭い、店舗での扱いが少なく通販メーンのためすぐに使えない、MNP(番号ポータビリティ)の場合はさらに手続きが必要になる、などのデメリットもあった。
しかし、端末とセット販売の充実、設定サポートサービスの提供、安価な補償サービスの追加、店頭サービスの拡充などで、これらのデメリットが改善されつつある。MVNOは利用しやすくなってきたといえる。
料金面を比較した場合、データ通信に関してはMVNOのほうが優勢だ。例えば、ドコモでは5GBで5000円(税別、以下同)だが、MVNO大手のDMMモバイルは5GBで1210円。これくらいの開きがある。
ただし、音声通話の料金は大手携帯電話事業者に軍配が上がる。音声通話を多用するユーザーは、やはり基本使用料3000円程度のかけ放題プランを提供する既存事業者のほうが魅力的だ。MVNOでは1時間程度の通話でその料金を超えてしまう。MVNOでは30秒20円(音声通話契約が必要)。MVNO各社は通話料半額(30秒10円)サービスの提供や、安価な追加料金での「5分以内の通話し放題」の提供などで対策を行っているが、それでも分が悪い。
もっとも音声通話に関しては、メッセンジャーやIP電話などで代行する手もある。「LINE」などをコミュニケーションの中心としていて、携帯電話回線による音声通話はほとんどしないというユーザーなら、音声通話の料金問題はそれほど重視する必要はないだろう。
こうした料金面を考慮すると、音声通話もデータ通信もたくさん使う人なら、通話は既存事業者のかけ放題プランを契約した端末、データ通信にはMVNOのデータ専用SIMを利用という双方の「いいところ取り」をする方法もある。家族で考えれば、仕事でたくさん通話するお父さんは既存事業者、あまり通話で使わない子どもやシニアに持たせる携帯電話はMVNO、などと使い分けるのもいいだろう。ほとんどのMVNOはドコモ端末で動作するので、不要になった中古端末を再利用できる。
MVNOで使えるSIMフリー端末として、SIMスロットを2つ備え、LTEと3Gの同時待ち受けが可能なモトローラ「Moto G4 Plus」が発売された。これを利用すれば、1台のスマホで音声とデータを分けて別々の通信事業者が併用できる。
このように現状では、通信事業者を利用環境に合わせてうまく使い分けるのがオススメだ。最近のMVNOは、LINEを利用する際のデータ通信量や世界で注目のゲーム「ポケモンGO」を利用する際のデータ通信量がノーカウント(無料)となるなど、ユニークなサービスが増えつつあるので注目だ。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年8月)のものです
執筆=青木 恵美
長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。
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