ビジネスWi-Fiで会社改造(第50回)
5GとビジネスWi-Fiの使い分け ~速度・コスト・利便性で比較
パソコン用のDRAMメモリーが、近頃とても値上がりしていると感じる。話題になり始めたのは昨年末あたりから。気づけば、以前の何倍もの価格で販売されているのだ。Windows 10のサポート延長でひと息つけたとはいえ、今度こそWindows 11対応パソコンへの買い替えが避けられないというタイミングで、この事態は正直歓迎できない。
筆者もある用事のため、もう1台パソコンが必要になり、中古の激安モデルを入手した。ただ、メモリーが高騰しているとの話を聞き、最初からメモリー容量に余裕のあるモデルを選択した。手元にある2台のパソコンも、昨年半ばにメモリーを増設しており、今思えば結果的に助かった形だ。しかし今後、どの程度の性能や構成が必要になるのかは見通せず、不安は募るばかりである。
こうしたDRAM高騰の背景には、生成AI技術の急速な発展がある。ChatGPTやGeminiといった大規模AIモデルでは、サーバー1台あたり1TB以上のメモリーが必要とされるとされ、データセンター向けのメモリー需要が急増しているという。実際、12月初旬には米半導体大手のマイクロン・テクノロジーが、「Crucial(クルーシャル)」ブランドで展開してきたコンシューマー(一般消費者)向けメモリー事業から撤退すると発表した。 生成AI向け需要の急拡大を受け、データセンター向けメモリー事業に経営資源を集中するとの判断という。同社のSSDやメモリーを長年愛用してきた筆者にとって、このニュースは少なからず衝撃だった。
ただ、この発表を目にした時点では、ここまで急激な「パソコン用メモリーの高騰」に発展するとは想像していなかった。マイクロン以外にも、コンシューマー向けメモリーやSSDを供給するメーカーは多数存在すると思っていたためだ。しかし12月後半になると、DRAM価格は従来の約3倍、大容量品では8倍に達するという話まで聞こえてくるようになった。この高騰は、マイクロンの消費者向け事業撤退以前、10月頃から兆しが見え始めていたとされる。生成AI需要によって大量のDRAMメモリーが必要とされる中、メモリーやメモリー用チップの確保を巡る買い占めや争奪が起きているためだという。2025年10月に発表されたSamsung、SK hynix、OpenAIの契約は象徴的な出来事だろう 。この話題をきっかけに、各メーカーがDRAM確保を急いだ結果、在庫不足と価格高騰が顕在化したと見ることができる。
なお、値上がりはDRAMにとどまらない。韓国SamsungがSSDの生産を縮小し、DRAM製造に注力すると発表したなどの事情もあり、SSDやHDDといったストレージ製品の価格も上昇している。さらに、グラフィックスカードをはじめとするパソコン周辺機器全般にも、価格上昇の波が及びつつある。
では、ちまたでささやかれる「パソコン購入はお早めに」という言葉は本当なのだろうか――。筆者の考えは「用途が明確なら早めに、様子見ができるなら慌てない」というものだ。
12月時点では、年明け以降にパソコン価格が確実に上昇するといわれていた。実際、複数のパソコンメーカーが新年からの価格改定を予告している。例えば、マウスコンピューターは12月10日、公式X(旧Twitter)で「悪いことは言いません、なるべく早めの購入をおススメします!!本当に!!買うなら今です......!!」 と投稿、大きな話題を呼んだ。
その後、マウスコンピューターには想定を上回る注文が殺到し、12月26日には「適切な顧客対応と製品品質の維持」を理由に、パソコン製品の販売を一時停止した。年明けからは一部製品の販売を再開しているものの、多くの一般ユーザー向け製品の販売は執筆時点(編注:2026年1月)では再開されていない。また、同社からは「価格改定を2026年1月以降、順次実施する予定」であることも発表されている。この他、12月以前から駆け込み需要が発生し、受注停止に踏み切ったパソコンメーカーやBTOショップもあった。現在は多くが受注を再開しているが、注文集中の影響で出荷までに時間がかかるケースも少なくない。こうした状況では、焦って注文するよりも、必要な構成を冷静に吟味したうえで購入を検討するのが賢明だろう。
ただし、前述の通り、現在のパソコン需要の混乱はDRAMメモリーの確保をめぐる争奪と、それに反応したユーザーの駆け込み需要が重なった結果でもある。この流れにそのまま乗ることが、必ずしも賢い選択とは言い切れない。DRAMや関連製品の値上がりは避けられないとしても、状況が落ち着き、価格がある程度安定するのを待つという判断も十分に現実的だ。マウスコンピューターのツイートから1カ月以上を経た現時点では「とにかく早く買う」ことを最優先すべき局面ではないと考えられる。
今回のDRAM高騰は、生成AIだけが原因というわけではない。実際、ChatGPTに「君たちのおかげでメモリーが高くなって大変だ」と話しかけたところ、「半分は当たっているが、半分は正しくない」と返ってきた。もちろん生成AIや大規模言語モデル(LLM)が大量のメモリーを消費するのは事実だ。学習だけでなく推論においても、GPUだけでなく膨大なメモリー資源が必要とされ、結果としてデータセンターが一般向けDRAMまで吸い上げている状況は否定できない。ただし、これは全体要因の3~4割程度に過ぎないと筆者は見ている。
残る要因の1つは、DRAMメーカー側の事情だろう。過去の価格暴落を経て、減産体制を取らざるを得なかった結果、DRAMは長らく「安すぎる」状態が続き、製造メーカーの利益は圧迫されてきた。そうした中で、安定経営と安定供給を目指す動きと、生成AIの急激な進化による需要拡大が重なった。将来的に生成AIサーバーや一般サーバー、ビジネス用途、コンシューマー用途すべてに安定供給するには、ある程度の価格調整は避けられない。DRAMを安定的に供給できなければ、今後の生成AI時代に必要な計算需要そのものが立ち行かなくなるからだ。
さらに、パソコンやサーバー機器を製造・販売するメーカー側にとっても、生成AI需要が今後さらに膨らむことは、ほぼ確実と見られている。この状況下で、メーカー各社が将来にわたって安定経営・安定供給を実現する体制を整える必要があるのも事実だ。便乗値上げと批判する声が出るのも理解できるが、長期的には避けられない調整が必要な局面に入っているともいえるだろう。
こうした背景から、DRAMだけでなくSSDやHDDといったストレージ製品の品不足・供給不足は、需要と供給のバランスが取れるまで続く可能性が高い。それらを主要パーツとするパソコンが値上がりするのは、AIのせい「だけ」ではない。本質は、生成AI時代を支えるメモリー産業とパソコン産業が、安定経営・安定供給に向けて再編されつつある点にある。つまり、現在の混乱の中で無理に入手を急ぐことはリスクが高いとも言える。一方で、価格がさらに上昇するとも断言できない。従来の3倍とも言われる価格水準は、買い控えを招く可能性もあり、現在が一時的なピークである可能性も考えられる。時代の流れを見据えた、冷静な判断が必要だ。
今回のパソコン値上げ騒動は、生成AIのメモリー需要によって、まず生成AIサーバー向けに資源が優先的に配分され、個人ユーザー向けがやむを得ず後回しにされている、と理解するのが妥当だろうと筆者は考えている。価格上昇の正体は産業構造の変化であり、私たちはすでに「安い計算力」の時代から「計算力に相応のコストがかかる」時代へ移行しつつある、とも思う。
こうした前提を踏まえると、今後、個人ユーザー向けにメモリー製品が十分に回り、価格がある程度、安定したタイミングが必ずやってくると思われるゆえ、急がなければ過度に騒動に振り回される必要はない。一方で「Windows 11非対応機を使用している」「メモリーが16GB未満で日常的に不足している」場合など、早めの入手が望ましいケースでは、新品の動向はもちろん探りつつ、中古品や即納モデルを狙うなどの選択肢も頭に入れ、早めの入手をおすすめする。逆に「十分のメモリーを搭載しており日常利用に支障がない」「買い替え理由が漠然としている」場合は、少し様子を見る判断が賢いと思う。ただし、今後必ず価格が下がると断言できる材料はないゆえ、最終的には自己責任で状況を見極める必要があるだろう。
しかし、企業の利用においては、少し事情が異なる。業務上、パソコンの更新を先送りできないケースも多く、「Windows 11非対応機を使っている」「メモリー不足が業務効率を下げている」といった場合には、値上がり局面でも調達せざるを得ない。このような環境では、まるごとリースやレンタル、アップデートや運用を含めたマネージドサービスの価値が、これまで以上に高まっていると言える。これらのソリューションは、最寄りのベンダーや公共機関への相談、Web検索などで見つけるのがおすすめだ。
今回の値上がりは一時的な品薄ではなく、「計算資源の優先順位が個人からデータセンターへ移った」結果とも言える。まず生成AIを動かすために資源が使われ、生成AIを利用する端末は後回しになっている現状だが、だからといって一般ユーザー向けの供給がなくなるわけではなく、その時はいずれやってくる。これは、生成AI活用が社会全体に広がっていく過程の一段階でもある。その点を踏まえ、冷静に、そして自分にとって納得のいく判断をしていくことが重要だろう。
※掲載している情報は、記事執筆時点のものです
執筆=青木 恵美
長野県松本市出身。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「自分流ブログ入門」「70歳からはじめるスマホとLINEで毎日が楽しくなる本」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経xTECHなど。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。
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