ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
トヨタ自動車とNTTは2020年3月24日、両社間でそれぞれ約2000億円を出資し合い、業務提携を決めたと発表した。両者の持つ技術やノウハウを持ち寄り、IoTやAIを活用したスマートシティーの基盤「スマートシティプラットフォーム」を開発し、国内外への展開をめざす。トヨタとNTTは、17年3月からコネクテッドカー向けの研究開発や実証実験を共同で行ってきた関係だ。
スマートシティーとは、国土交通省によれば「都市の抱える諸課題に対して、ICTなどの新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」だ。官民連携で取り組みが進む。
暮らしの基幹の1つが交通だ。スマートシティーの交通は、MaaS(ICTを活用して交通をクラウド化、マイカー以外の交通手段をシームレスにつなぐ新たな移動の概念)とコネクテッドカー(つながる車。ICT端末としての機能を備え、車両の状態や周囲の状況などのデータを取得。ネットワークを介して集積・分析し、新たな価値を生み出す)の2つが大きな要素となる。
トヨタは、社会システムと結びついたクルマづくりをめざす。有事の際は電源としても機能する。クルマの変化は社会の変化そのものだ。クルマは今後、大きなスマートフォンのようになる。スマートフォンと情報ネットワークの先駆者として、NTTとの連携を考えた形だ。
一方NTTは、日本と世界を発展させ、同時に住みやすい街を実現するスマートシティーを広げるべきと考え、自動運転などに取り組むトヨタと連携した。
トヨタは今年初頭、ラスベガスで行われた商品と技術の見本市「CES 2020」で、人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」のプロジェクト概要を発表した。2020年末に閉鎖予定の東富士工場(静岡県裾野市)の跡地、約70万㎡を利用。2021年から着工する。
このプロジェクトは、人々が生活を送るリアルな環境の下、自動運転、MaaS、パーソナルモビリティー、ロボット、スマートホーム、AIなどを導入・検証できる実証都市をつくる。街は、網の目のように道が織り込まれる姿から「Woven City」(ウーブン・シティー)と命名された。初期は、トヨタの従業員やプロジェクト関係者2000人程度が住民となる。
Woven Cityでは、スピードが速い自動運転車両専用の道、歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティーが共存する道、公園内にある歩道のような歩行者専用道の3つの「道」を張り巡らす。街のインフラはすべて地下に設置し、室内用ロボットやAI、スマートホームなどの先進技術で生活の質を向上させる。自動運転車は、輸送だけでなく移動店舗など街のさまざまな場所で活躍するイメージ(動画)だ。
Woven Cityのイメージ
Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)といった「CASE」と呼ばれる新しい領域で技術革新が進む中、これからクルマの概念は大きく変わる。こうした新しいクルマには、先進的な情報通信技術が不可欠だ。販売台数世界トップクラスのトヨタと、5Gなどの最新の通信技術を誇るNTTとの連携は、最強ともいえるだろう。
ちなみにWoven Cityは、既存の都市でスマートシティーの実証実験を行うのではない。新たな街をゼロからつくる意味合いが強い。「人々が実際に住んで、働いて、遊んで、そんな生活を送りながら実証に参加する街」だ。
例えば日本では、自動運転に対して積極的とはいえない。公道実験が難しいから、ともいわれる。Woven Cityの自動運転車専用道なら、実験はし放題だ。歩行者・パーソナルモビリティー共用道なら、自動運転バスなどの新しい交通機関も試せる。住民によるMaaSの実験も可能だ。
ほかにも、住宅に備えられる太陽光発電、水素燃料発電や雨水ろ過システムでの自給自足、センサーによる健康チェック、家庭内ロボットでの補助や介護、好みや興味を分析して自動で番組や情報が提供されるテレビやスマートディスプレー、自動でのゴミ処理や掃除、切れたら自動で配達される生活必需品、(その場での支払いなしに)持ってくるだけの買い物など、想像は尽きない。さまざまな実証実験が可能なこの街により、SF映画に描かれる未来生活の実現が早まるかもしれない。
スマートシティーでは、1つの分野の最適解(個別最適)が都市全体の最適解にならない場合が多々ある。ニーズとシーズに立脚した、都市全体の観点からの最適化(全体最適)が必要とされる。この新たな街構想が、世界中のすべての人が幸せになれる基盤づくりになれば、と思う。
新型コロナウイルスで、すべてが停滞気味の昨今、テレワークの必要性からいっそう効率的で利便性の高い働き方が急がれる。自宅での楽しみ方やエンターテインメントの在り方、オンライン診療の拡充など暮らしが変わっていくかも。人々の知恵は、必ず困難を乗り越え新しい未来を生むと信じよう。
豊田章男社長のWoven City構想と、トヨタとNTTのタッグ。心を1つにして今の危機的状況を乗り越えつつ、明るい未来に期待だ。
執筆=青木 恵美
長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。
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