ビジネスWi-Fiで会社改造(第49回)
テレワークでの通信障害対策を考えよう
公開日:2025.12.03
Wi-Fi 5やWi-Fi 6に対応したコンシューマー向けWi-Fiルーター(以下「ルーター」)を使い続けている場合、すでにサポート期間が終了している可能性がある。ルーターのサポートは、製品の生産終了から3~5年程度で打ち切られるケースが多く、現在では初期のWi-Fi 6ルーターにもサポート切れが発生している。これは重大なセキュリティリスクにつながるため、すぐに買い替えるなど、速やかな対策が必要だ。
業務用のルーターであれば、情シス部門やベンダーが管理していることが多く、サポート切れのリスクは低い。しかし、店舗の来客用、個人のリモートワーク用や家庭用として設置されたルーターは、多くがコンシューマー向け製品であり、サポート状況が見過ごされやすい。こうしたルーターは、ファームウエアの更新によって不具合や脆弱性が修正されるが、サポートが終了した機器はアップデートが提供されず、脆弱性が放置されたままとなり、結果、不正アクセスやマルウエア感染のリスクが高まる。
新しもの好きの筆者は2年に一度ぐらいのペースでルーターを買い替えており、つい先日もWi-Fi 7対応製品に更新した。頻繁に買い替えている場合、サポート切れのリスクは少ないが、「まだ使えるから」「設定が面倒だから」といった理由で古いルーターを使い続けているケースは多いのではないだろうか。Wi-Fi機器の設定は複雑で、操作が苦手なユーザーほど対応が後回しになりがちだ。
Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)は、2013年に登場し、現在ではさすがに利用者も少ない。一方、2019年に登場したWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)は、安定性や性能の高さから現在も広く使われている。ルーターは新規格の登場以前に発売される製品が多いため、現行のWi-Fi 6ルーターでも、サポートが終了しているもの、あるいは終了間近のものも出てきている。最近こうしたルーターのサポート終了問題を取り上げたニュースも多い。
ところで近年、複数のルーターメーカーが、サポート期間を「生産終了後5年」から「3年」に短縮する方針へと転換、一般的に「サポート終了後の製品には、脆弱性が発見されても修正ソフトは提供しない」というのがセオリーだ。
つまり、サポート切れのルーターを使い続けることは、"無防備なアクセスポイント"を放置することになる。自宅や店舗にあるルーターの型番を確認し、メーカーの公式サイトでサポート期限をチェックすることが重要だろう。
サポートが終了したWi-Fiルーターを使い続けることは、想像以上に大きなリスクを伴う。サポート切れによりファームウエアなどのセキュリティアップデートが行われなくなり、既知の脆弱性が修正されないままとなる。
これにより、Wi-Fiルーターが攻撃者の格好の標的となる可能性がある。悪意ある第三者に乗っ取られたルーターは、マルウエアの配布元や、外部からの攻撃の中継地点として悪用される恐れがある。さらには、ルーターを経由してネットワーク内に侵入、ランサムウエアによる暗号化被害や、個人情報・機密情報の漏えいにつながるケースもある。
2025年5月、米国連邦捜査局(FBI)は古いWi-Fiルーターに関する重大な警告を公式文書で発表した(注意喚起、公共広告)。この中でFBIは、「古いルーターは攻撃者にとって絶好の標的となる」と明言している。攻撃者はメーカーのサポートが終了したルーターを意図的に狙い、既知の脆弱性を悪用するという。
FBIの報告によれば、攻撃者はこれらの機器を利用して、不正なプロキシネットワークの構築、フィッシング攻撃やマルウエア配布の中継地点として利用、匿名化された攻撃の発信元として利用しているとのことだ。さらにFBIは2014年に発見された「TheMoon」マルウエアにも言及している。TheMoonはパスワード不要でルーターに侵入でき、開いているポートをスキャン、発見した脆弱なルーターにコマンドを送信してマルウエアに感染させ、さらにそのマルウエアがサーバーに接続、サーバーが感染機器にさらに他のルーターをスキャンさせて感染を拡大させる、仕組みだ。こうした手法は組織的かつ自動化されており、もはやアメリカ一国の問題ではなく、世界中の誰もが関係ある、現実の脅威ともいえる。
特に注意が必要なのは、サポート切れのルーターであっても、通常どおりインターネット接続可能、見た目には問題なく動作するため、危機感を抱かずに使い続けてしまう点だ。加えてファームウエアの更新確認が面倒で、放置されがちなのも問題だ。一般的に、何のメンテもなしにIT機器を使い続けるのは、危険な行為ともいえる。気を付けよう。
ルーターのセキュリティを確保するために、使用している製品のサポート状況を把握し、必要であれば計画的に買い替えを行うことが重要だ。まずは、現在使用しているルーターのサポートが有効かどうかを確認することから始めよう。
一般的にWi-Fiルーター製品のサポート状況はメーカーの公式サイトで確認できる。例えば、NECプラットフォームズが提供するAtermシリーズに関しては、「Atermのサポート期間について」というページが用意されており、サポート期間や対象機種が一覧で示されている。このページによれば、サポート期間は従来の「販売終了から約5年間」から「2025年12月1日以降は販売終了から約3年間」へと短縮されることが明記されおり、長年使い続けてきた機器が想像以上に早くサポート切れになる可能性もある。一覧表で自分が使用しているモデルが「サポート終了」となっていた場合、速やかに買い替えを検討しよう。
他メーカーも「商品サポート一覧」や「サポートステータス情報」といったページを公開しているため、自分の機器について同様に確認できる。情報が不明な場合は、メーカーのサポート窓口に直接問い合わせるのが確実だろう。
なお、現在サポート期間中のルーターであっても、定期的なファームウエアの更新確認とアップデートの適用は必須だ。これを怠れば、サポート期間内でも脆弱性を突かれて攻撃されるリスクがある。さらに、サポート終了予定日を念のためメモしておき、近づいてきたら更新・買い替えを検討することが望ましい。忙しさの中で忘れてしまいがちなため、カレンダーやスマートフォンのリマインダー機能の活用も有効だろう。
先述のFBIの警告では、手持ちのルーターに対し、以下のような対策を推奨している。
・古いルーターは速やかに交換する
・ファームウエア更新状況を定期的に確認し、更新を行う
・ルーターの「リモート管理」設定を無効にしておく
・不要なポート・サービスは閉じ、ログで不審なアクセスを監視する
・使い回しでない16~64文字の強力なパスワードを設定し、ヒント機能も無効化する
・不審な挙動を確認したら、関係当局やセキュリティ専門機関に速やかに報告する
このように、ルーターは「ただ動いていればよい」機器ではなく、継続的なメンテナンスと意識的な管理が求められる重要なインフラと考える、意識改革が必要だ。
現在、世の中で使われているルーターの多くはWi-Fi 6対応製品で、6eや7はまだまだ、といった状況だ。それだけWi-Fi 6は広く普及し、多くのユーザーが日常的に利用している。筆者は先日Wi-Fi 7対応ルーターに買い替えたが、接続機器であるスマートフォンなどはまだWi-Fi 6止まりのため、少々先走り過ぎたかもしれない感がある。
ルーターのサポート期間の確認や設定方法がわからない場合は、メーカーのサポートはもちろん、メーカーや電器店チェーンなどによる設定・設置サービスなどを活用するのが有効だ。最近では、サポート付きのレンタル・リース型のサービスや、パソコン・周辺機器をまとめてサポートするサービスも登場しており、これらの利用検討も1つの手だ。最寄りのベンダーや、自治体などのIT相談窓口に問い合わせるのも良いだろう。
FBIの注意喚起からわかるように、コンシューマー・ビジネス向けにかかわらず、自宅や職場のルーターのサポート有無の確認は、緊急の対策ともいえる。FBIが注意喚起を行ったのは2025年5月。その警告が現実味を持つほどに、攻撃の手は中小企業や家庭、個人までにも迫ってきている。日本企業へのサイバー攻撃も激化、実際にランサムウエア攻撃を受けた企業の中には、今なお出荷など業務に支障をきたしているところもある。知らぬ間に自身のルーターがそうした攻撃の踏み台や侵入経路に使われるようなことは、誰しも望まないはず、気を付けよう。自分の暮らしを守ることが、社会全体のセキュリティの強化につながる。まずは「自分のルーターが、守られているか」を確認することが、すべての第一歩となる。
※掲載している情報は、記事執筆時点のものです
執筆=青木 恵美
長野県松本市出身。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「自分流ブログ入門」「70歳からはじめるスマホとLINEで毎日が楽しくなる本」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経xTECHなど。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。
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