ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
「AWS」とはAmazon Web Servicesの略で、Amazonが提供するクラウドコンピューティングサービス(ウェブサービス)。サービスは全世界で18の地域に提供され、クラウドサービスのジャンルで世界シェアは30%以上で世界第1位(2018年時点)。2位のMicrosoft Azureを大きく引き離す。もちろんAmazonの小売り関係のサイトは、すべてAWS上で動いている。
最近多くの企業が利用するAWSの公式サイト。簡単に始められる、1年間の無料試用が可能など、魅力的なコピーが並ぶ
AWSは優秀でコスパもよく、多くのWebサービスやゲームがAWSで動いている。AWSのサイトを見ると、クラウドストレージや仮想サーバー、データベース、監視システム、IoTや人工知能・機械学習など、サービスは多岐にわたる。AWSは2011年に日本でデータセンターを開設して以降、国内での顧客を増やし、現在、数十万件の契約があるという。
去る8月23日の12時36分(日本時間)から数時間にわたり、AWSのサーバー設置エリア(リージョン)の1つである東京で大規模な障害が発生した。Amazonの発表によれば、障害は東京リージョンの4つあるデータセンターの1つで起こった。空調設備の管理システムに障害が発生し、一定数のサーバーがオーバーヒートで停止した。冷却装置は15時21分に復旧。18時30分には大部分のサーバーが復旧したが、一部、回復に時間がかかったものもあった。すべてが復旧したのは22時過ぎ、障害は約9時間半にわたった。
この障害により、決済アプリのPayPayで一部の利用者の支払いやチャージが行えなくなった。ファミマの決済サービス・ファミペイでも支払いやチャージに支障が出た。ユニクロ、東急ハンズ、ドスパラ、Anker公式オンラインストアなど、各種ECサイトでも、ログインや商品購入ができなくなった。
ソーシャルゲームプラットフォームサービスGREE(グリー)やDMM GAMESの複数のスマホゲームでログインやプレーが行えない不具合が出た。SNSでもmixi(ミクシィ)、ラクマや楽天チケット、朝日新聞デジタルや日本経済新聞電子版、ローソン、スターバックスコーヒージャパン、ピザハットなどのサービス、アクサ生命保険や日本相撲協会、東京ヤクルトスワローズなどの公式サイト、駅すぱあと、SmartNewsなどのスマホアプリに障害が発生した。ドコモのバイクシェアでは自転車の貸し出し返却や、マイページへのアクセスができなくなり、「シェアした自転車が返せない」ユーザーのツイートが話題になった。
このように、8月23日はたくさんのサイトやサービスで障害が発生し、多くのユーザーに影響を及ぼした。筆者もその日、パソコンのパーツを探していつも利用する通販サイトにアクセスしたが動作せず、買い物ができなかった。
少し前までこうしたサービスは、自社サーバーでの運用、データセンターでも単体サーバーでの運用が主流だった。障害が発生してもサービス単体、もしくはグループ企業での発生が主だった。ところが、AWSをはじめとするクラウドサービスが主流になると、障害が広範囲に及ぶ可能性が大きくなった。
筆者は、独自ドメインでのサーバーサービスを20年来利用している。最初はデータセンターでの単体サーバーの運用だったが、途中で仮想サーバーサービスでの運用にシフトした。同じサービスを利用する企業リストを閲覧し、何かトラブルがあればこれらの企業のサービスに支障が出るのだな、と感じた。
企業の公式サイトやECサイトが利用できない程度なら、トラブルが収拾するまで待ったり、他のサイトを利用したりすればよい。ところが、自宅の鍵、照明、ガレージの開閉、風呂や空調、各種家電の制御などのIoTシステムに支障が出たら恐ろしい。
今回のAWSサービスに関してはこれまで大きなトラブルもなく、皆が安心していたからこそ衝撃が大きかったともいえる。安心、安定の裏には“依存”が隠れているものだ。
今回、クラウドサービスの弱さが露見した。クラウドサービスの利用には、例えば複数のサービスやデータセンターを併用する、緊急対策用のサブシステムを用意しておく、などの対策も必要だ。この機会にサポートやしかるべき機関に相談を行っておこう。
ユーザー側は、日ごろ利用するあらゆるサービスについて、「これが使えなかったら」「これがトラブったら」「各種災害が起こったら」などの想定で、対策を考えたりマニュアル化を行ったりしておこう。例えば停電に備えて、電池式の明かりを用意しておく、緊急用の電源や充電電池を用意しておく。もちろん、家族や近所などで、緊急時に備えた事前打ち合わせも大切だ。
生活がどんどん便利になると、その裏に過信や依存が増長する。日々の生活や仕事で手いっぱいと思いがちだが、あらゆる事態を想定して生活を守っていこう。
執筆=青木 恵美
長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。
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