IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第30回) IoTとAIで“トイレソリューション”

自動化・AI IoT・インフラ

公開日:2018.09.04

 トイレのために長蛇の列に並ぶのは、誰しも効率が悪いと感じる。トイレの空き状況をITでという試みは、以前から行われているが、最近話題になったのは小田急電鉄だ。小田急電鉄は、新宿西口地下改札内のトイレ入り口のディスプレーに、トイレの利用状況や、新宿駅にある2つのトイレの空き情報を表示する。状況はスマホアプリでもチェックできる。「こんな機能を待っていた」と、SNSで共感の声が相次いでいる。

 今年の3~5月、IoTとAIを用いた最新技術でトイレの混雑を回避する実証実験が有楽町マルイで行われた。トイレの空き情報をリアルタイムに配信するほか、混雑のない時間帯にはAIが情報を分析して広告配信を行う。ほかにも、利用状況に応じた節電や節水、清掃やメンテ、オフィス全体の利用状況の表示など、サービスは多方面に広がっている。「トイレ」のIT化について、探ってみたい。

空き状況を確認できる「IoTトイレ」サービスの実現や実証実験が続々

 イベントなどでは、長蛇の列のトイレがあるかと思えば、余裕のあるところもある。だからといってトイレ専用の係員を置くのも非効率。トイレの状況がスマホでリアルタイムに分かれば、と思う。オフィスのトイレも同様だ。特にお昼時などだ。仕事を中断してトイレに行ってみたら満室で、いったん席に戻り、またタイミングを改めてトイレに行くとまたもや満室ということがよくあり、これもITで効率化できれば、と思う。

スマートフォンの「小田急」アプリで確認できる新宿駅トイレの空き状況

 小田急電鉄のシステムは、KDDIのトイレのIoT化支援サービス「KDDI IoTクラウド ~トイレ空室管理~」を利用して構築されている。個室トイレのドアに付けられた開閉センサーと、男子トイレに付けられた人感センサーを利用する。

 このように空き情報が事前にチェックできる「IoTトイレ」は、基本的にはトイレのドアの開閉を感知するという、比較的シンプルな仕組みで実現できる。万人がメリットを享受しやすく、導入のハードルもそれほど高くない。そういえば小田急電鉄だけでなく、東京メトロも昨年末から今年初頭にかけ、池袋駅で「トイレ空室状況提供サービス」の実証実験を行っている。そんな感じで今後、さまざまな場所で実現されていきそうな気配だ。

トイレのハイテク化は加速する!?

 ところで、トイレのIoT化は、空き状況だけでなく、トイレの節電・節水など省エネ・省コスト方面、清掃や故障への対応などメンテ方面、広告配信による収益拡大などさまざまな方向に加速しつつある。

 導入でも触れたが、今年の3~5月にかけて丸井グループ、AGC旭硝子、バカンの3社が、共同で有楽町マルイにて行った実証実験が話題を呼んだ。トイレや授乳室の空き状況を入り口のデジタルサイネージへリアルタイムに表示するほか、サイネージの画面に表示されるQRコードをスマホやタブレットで読み込むことで、Webブラウザー上からも状況が確認できる。このサービスでは、利用者の混雑緩和を図りつつ、混雑のない時間帯にはAIが空き情報を分析して広告配信に切り替え、広告による収益拡大につなげていく。

 KDDIでは先述のトイレ空室管理のほか、個室内にセンサーを設置し利用者が滞在する時間を計測、滞在時間の長さに応じて必要な水量を流し分け、ムダな洗浄水を削減する「KDDI IoTクラウド ~トイレ節水管理~」も提供している。

 その他にも、NTTファシリティーズが提供する「トイレ洗浄水量削減サービス AQUA-Remoni」は、利用者の滞在時間や使用頻度に合わせ、トイレの水量調整や自動洗浄を行う。トイレ洗浄水を、最大40%削減するソリューションだ。そのほか、利用者の倒れ込みや漏水など、トイレ内での異常を感知して通知する機能も備える。

 ユニアデックスの「AirFacility Aqua」は、トイレ施設の稼働状況を把握して、トイレの空き情報を提供するほか、稼働状況(長時間利用やポンプ障害など)を施設管理者に通知したり、利用時間や回数といった収集データを分析したりすることで、計画的な保全業務や、混雑状況に応じた清掃業務、保全業務の最適化などを実現する。

 このようにトイレのIoT化が盛んなのは、利便性が身近で万人に理解されやすいのが大きな理由だろう。利用しやすいトイレの提供は、顧客の満足度や信頼度を上げ、企業イメージの向上にもつながる。さらに、IoTを活用した節電や節水によりコスト削減はもちろん、エコに貢献する企業姿勢もアピールできる。トイレを足掛かりにIoT化の一歩を踏み出し、皆が便利で暮らしやすい世の中が実現していくといいなと思う今日このごろである。

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執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

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