IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第16回) テレビ業界に新潮流「インターネット放送」

IT・テクノロジー

公開日:2017.06.02

 パソコンやスマートフォンで見るインターネット放送や、オンデマンドビデオサービスの出現で、一般ユーザーのテレビに対する向き合い方や考え方が変わりつつある。特に2016年4月11日に本放送を開始したインターネット放送「AbemaTV」の勢いが止まらない。

 AbemaTVでは、ニュースチャンネルをはじめ28チャンネルがノンストップで番組を流す。テレビ受像機やアンテナも不要。手持ちのスマホやパソコンで、いつでもどこでも無料でテレビ放送が楽しめる。このスマホ時代に重宝されないわけがない。

 こうした状況下、「スマホさえあれば十分」と、テレビを持たない人も増えているという。そんなこんなで従来のテレビ放送の需要は落ち込み、広告収入がガタ落ちともいう話もある。企業PRの重要な媒体の1つであるテレビが、大きく様変わりしようとしている。昨今のテレビ放送の勢力図と、広告媒体としてのあり方を探ってみよう。

テレビ界に殴り込み。「AbemaTV」

ネットを通じてテレビ局ライクな放送を行う「AbemaTV」のWebページ。現行では28のチャンネルが放送される

 AbemaTVは、サイバーエージェントとテレビ朝日の出資で設立されたインターネットテレビ局だ。2016年の4月11日に放送を開始した。

 AbemaTVの前身である、生放送やライブカメラを中心に誰しもが見て、そして放送もして楽しめる動画配信プラットフォーム「FRESH!」を、筆者はサービス開始時から見ていた。AbemaTVの初期にはFRESH!チャンネルが放送されていたこともあって、AbemaTVを先行放送(3月1日~)から見守ってきた。

 AbemaTVの初期は、生放送としては面白いものの、テレビ放送としては内容が薄く冗長に思える番組も見られた。ドラマや音楽PV、アニメなども、他媒体のコンテンツが多く、いわゆるテレビとは一線を画するものに思えた。

 しかし徐々に進化する。テレビ朝日という現行のテレビ局が絡んでいたこともあり、テレビ朝日のコンテンツのまとめ放送などとともに、局アナが司会を担当したり、現行の人気番組と連動した特別版を放送したりなどで、オリジナル番組の質を上げていったように思う。

 それに加えて、インターネットならではの即時性や速報性の高い情報の配信、テレビ放送の枠にとらわれないアクの強さやハプニング性を重視しているほか、電波に乗せないため、チャンネルは増やし放題ゆえ、趣味性の高い専門チャンネル(釣り、将棋、マージャン、ゴルフ、鉄道など)も充実。アニメやドラマなど、過去のテレビ資産を長時間まとめて放送している。また、コメントを入れられる利点を生かし、出演者とユーザーが対話する番組を制作するなど、工夫を凝らして今に至る。

 AbemaTVが大きく注目されたのは、サービス開始直後に起こった熊本地震といわれる。AbemaTVでは、震災直後からテレビ朝日の報道特別番組のサイマル配信に切り替えた。通常編成はすべて打ち切るなど、最新情報の配信にいそしむ姿勢に好感を持った人も多かった。このフットワークの軽さと、スマホさえあれば最新情報をチェックできる便利さが大きく評価され、その後の発展にもつながったといえる。

放送の勢力図が大きく変わる

 AbemaTVの視聴は簡単だ。スマホにアプリをインストール。起動すると、24時間ニュースを流し続ける「AbemaNewsチャンネル」が現れる。チャンネルの切り替えは左右にスワイプ、パソコンからはブラウザーでAbemaTVを開き、見たいチャンネルをクリックする。

 ビジネスパーソンが利用するメリットは、ニュースチャンネルを開けば最新ニュースを閲覧できる点だ。映像なので、ランチを食べながら、ちょっとした作業を行いながら流しておける。

 サイバーエージェントの決算発表によれば、アプリは1600万ダウンロードを超えたものの、まだまだ営業利益は赤字だと分かる。1周年記念で5月7日に放送された「亀田興毅に勝ったら1000万円」は、視聴数が延べ1420万回に達し、一時サーバーがダウンする事態にもなった。同時配信していたYouTube Liveも73万人に達したという。

 AbemaTVやAmazonプライム・ビデオ、Huluなどのビデオオンデマンドサービス、YouTubeなどの動画共有サービスのほうが、それぞれ好きな番組を手元で見られる。そのため、家族が一時、個々のスマホでバラバラに放送を楽しむ傾向が見られた。ところが筆者宅もだが、居間のテレビにAmazonの「FireTV」やGoogleの「Chromecast」を導入して、ネットコンテンツをみんなで楽しむケースも増えているように思う。筆者宅では、現行放送とAbemaTVを半々ぐらいの比率で見て(若干AbemaTV多め)、面白い番組がないときはAmazonのオンデマンドを楽しむ、というような状況だ。

 ネット放送やオンデマンドサービスは、スマホでも大画面テレビでも、閲覧にはどちらも選べ、併用もできるのが利点だ。大画面テレビで映像を見て、スマホでコメントをチェック、などの使い方もできる。こうしたネットサービスも楽しめるテレビが重宝しそうだということで、米AmazonがFireTV内蔵の4Kテレビの販売を開始した。

 各テレビ局も、有料のオンデマンドサービスはもちろん、見逃した番組を1週間、ネット上にて無料で見られる「TVer」というサービスを立ち上げている。公式サイトで最新情報や番組表を発信するのはもちろん、テレビ局にもネットは切り離せないものになりつつある。

映像広告のあり方も変わる

 ところで、企業にとってテレビは企業PRの手段として重要な媒体の1つでもある。ネット放送なら、テレビ放送よりもリーズナブルに広告が行えるケースが多い。費用対効果でも、ネット放送を多く見る年齢層、特定の趣味チャンネルを見る層など、ターゲットを絞れる利点もある。広告形式ではなく番組を制作することも、地上波に比べれば実現しやすいだろう。AbemaTVや各種オンデマンドサービスの台頭で、変わりつつあるテレビ放送。今後の傾向を見守り、ビジネスへの活用も考えたい。

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

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