税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第117回) 令和8年度改正で変わるインボイス制度 ――経理担当者がつまずきやすいポイントを解説

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公開日:2026.04.21

 令和8年度税制改正法案が可決されたことにより、インボイス制度に関する経過措置が見直されることとなりました。そこで今回は、新たに制定された「3割特例」と、それにより経理担当者が注意すべき事項について、分かりやすく解説します。

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3割特例とは何か ――制定の背景と対象事業者

 令和8年度税制改正において、インボイス制度に関する改正のメインともいうべきものが2点あります。

 1つ目は、適格請求書発行事業者となる小規模個人事業者に係る税額控除に関する経過措置、いわゆる「2割特例」が廃止され、新たに「3割特例」が制定されたことです。

 2つ目は、適格請求書発行事業者以外の者から行なった課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置、いわゆる免税事業者等からの課税仕入れについて80%の仕入税額控除の適用を受けられましたが、2026年10月1日以降、段階的にこの控除可能割合が縮小されます。

 3割特例が制定された理由としては、2割特例の終了後は簡易課税制度への移行が主となりますが、本来であれば免税事業者であるところ、適格請求書発行事業者としてこれまで2割特例の対象となっている事業者のなかでも、特に個人事業者については、インボイス制度の定着に向けて事務負担への配慮がより必要だと考えられたからです。

 つまり、今回の令和8年度税制改正では、基準期間の課税売上高が1000万円以下で、適格請求書発行事業者の登録を受けている個人事業者について、2027年(令和9年)および2028年(同10年)の申告で、3割特例が適用できることとされました。

 したがって法人は、どんなに小規模な事業者であっても、2026年10月1日以後に開始する課税期間では、簡易課税制度を選択するか、本則課税による申告に切り替える必要がありますので注意が必要です。

2割特例から3割特例へ ――納税額シミュレーションで見る影響

 以前、このコラムで2割特例を設ける趣旨について説明しましたが(第103回「2割特例」ってどんな制度?)、簡単におさらいすると、この背景にあるのは、売手が免税事業者であり、買手が本則課税を適用している場合における80%の仕入税額控除が認められる経過措置が2023年(同5年)当時にあったことです。この経過措置により、例えば、売手がサービス業を営む免税事業者で、買手が本則課税を適用している事業者で1100円の対価を支払っている場合、買手は、2023年9月30日以前であれば100円の仕入税額控除をできました。しかし、10月1日以降は80円しか仕入税額控除ができなくなります。そこで、売手側として免税事業者だと100円中の20円を負担させられるのであれば、適格請求書発行事業者となって2割特例を選択し、20円を納税することで、まず国には一定の税収が得られます。次いで、買手側も100円の仕入税額控除ができますので、売手側も20円を買手側に払うか国に納めるかの違いだけです。つまり買手側とこれまで通りの条件での取引が可能となります。まさに「三方よし」ということでした。

 この考え方からすると、2026年10月1日以後は、80%の仕入税額控除が認められる経過措置が50%しか認められないことになりますので、さすがに2割特例を5割特例に変更しても、不動産業の第6種事業の者にしかメリットがありません。そのため、2割特例は終了するものと考えていたところ、2026年10月1日以後は、メインの改正ポイントの2つ目である段階的控除可能割合の縮小により70%の仕入税額控除の適用が新設されました。つまり、3割特例が2年間の限定で適用可能になったのです。

 例えば、これまで2割特例の適用を受けていた課税売上高が税込1100万円の法人だと、売上げに係る消費税額は100万円の20%、つまり20万円を納税することとなります。これを課税売上高に占める消費税の負担割合で考えると20万円÷1100万円で約1.8%となります。しかし、2026年10月1日以後に開始する課税期間から簡易課税制度を選択すると、事業形態にもよりますが、サービス業であれば第5種事業に該当するため、課税売上高が同額の税込1100万円の場合、売上げに係る消費税額は100万円の50%、つまり50万円を納税することになります。課税売上高に占める消費税の負担割合を考えますと50万円÷1100万円で約4.5%、納税額が2.5倍に跳ね上がることが分かります。

 不動産賃貸業であれば、第6種事業で60万円の納税となり、3倍になります。納税額が大幅に増加しますので、納税資金をきちんと確保しておくことが重要です。

簡易課税制度への移行における手続き上の注意点

 3割特例の対象期間が経過した後、うっかり簡易課税制度選択届出書の提出を失念した事業者に配慮した措置もとられています。

 具体的には、3割特例(および2割特例)の適用を受けた適格請求書発行事業者が、簡易課税の適用を受けたい課税期間の確定申告期限までに簡易課税の選択届出書を提出した場合は、その提出した日の属する課税期間から簡易課税の適用が受けられます。

 例えば、令和8年分の課税売上高が1000万円を超えると2028年(同10年)分は課税事業者となるため、2年間の特例期間内でも3割特例の適用ができなくなる課税期間が生じます。その場合、2028年(同10年)分について簡易課税制度を適用したいときは、2028年(同10年)分の確定申告期限である2029年(同11年)4月2日までに簡易課税の選択届出書を提出すれば適用できるようになりました。

 今回の改正では、3割特例が個人事業者限定であり、適用期間も2027年と2028年の2年間のみである点、また、3割特例から簡易課税制度へ移行する際は、2割特例から移行する事業者も含めて、適用を受けたい課税期間の確定申告期限までに届出書を提出すれば足りる点に変わりました。経理担当者はこれらの点に特に注意が必要です。

 他にも改正事項がありますので、国税庁ウェブサイトの「インボイス制度特設サイト」内「令和8年度の税制改正特集」もあわせてご確認ください。

執筆= 名取 和彦
税理士 名取和彦税理士事務所所長 (一社)租税調査研究会主任研究員
東京国税局課税第二部統括国税調査官(間接諸税担当)付総括主査、東京国税不服審判所 国税副審判官、税務大学校総合教育部教授、東京国税局総務部税務相談室主任税務相談官、同局成田税務署副署長、仙台国税局築館税務署長、東京国税局大森税務署長等を経て、令和3年7月退職。同年8月税理士登録。

監修・編集= 宮口 貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。

*一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は56名。会員会計事務所は約100会計事務所。

【TP】

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