IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第29回) 忙しい人に朗報。オンライン診療が保険算定対象

IT・テクノロジー ヘルスケア

公開日:2018.08.17

 2018年4月から、パソコンやスマートフォンを使い、インターネットを通じて医師が患者を診察する「オンライン診療」に健康保険が適用されるようになった。これは、オンライン診療の実用化を意味し、歴史的な改定ともいわれている。

 ただし、オンライン診療を行う医療機関がまだわずかだ。オンライン診療を受けられる条件も厳しく、ハードルは高い。まだ始まったばかりのオンライン診療は、アプリやインターフェースの統一化、セキュリティ対策、診療場所の安全性、IT機器を持たない人や操作に不慣れな人への対応など、多くの課題を抱えている。いわば、よちよち歩きの状態なのは否めない。

24時間予約可能、待ち時間もなし

 オンライン診療は、基本的にパソコンやスマートフォンのビデオチャット機能を使い、医師が患者と会話しながら診察する。電車を乗り継いだ上に、混み合う病院で長時間待った揚げ句、診療時間はごくわずか。会計や薬の受け取りにも時間がかかる。通院は一日仕事だ。オンライン診療が実現すれば、高齢、多忙、遠隔地などで容易に通院できない人にも、手軽に診察を受ける環境が提供される。高齢化社会では、通院への付き添い負担も軽くない。介護の負担も減る。

 オンライン診療が実現すれば、24時間いつでも予約可能だ。通院時間や待ち時間もない。会計はキャッシュレスで手間いらず、薬や処方箋は自宅まで配送、受付の必要がない。事前に血圧や体温などのデータを送れ、時間も短縮できる。日ごろの通院ストレスがずいぶんと軽減される。

 オンライン診療は2015年に事実上の解禁になったものの、医師法では医師が患者と対面して診療することが原則で、へき地などを除き、認められてはいなかった。それがICT技術の飛躍的な進展に合わせ、遠隔診療を広く求める方針に転換。この4月の診療報酬の改定で「オンライン診療料」「オンライン医学管理料」を新設する運びとなった。

 本来、診療とは医師が患者と対面して行うのが原則で、すべてオンラインで行えるわけではない。現状でも、初診は対象外、同じ医師の下に6カ月以上通院している患者に限られる。また、対面診療を行う医師と同一の医師がオンラインも担当、3カ月に1回は対面診療を受ける、などが条件として決められていて、そこそこ敷居は高い。

スマホで医師とつながる

 とはいえ、条件に合う状態で対面とオンラインを組み合わせた診療を受けられる人が増えれば、なかなかよさそうだ。オンライン診療の普及で、もっと敷居が低くなっていけばさらにいいかな、とも思う。

 オンライン診療の流れはこうだ。病院で6カ月以上の対面診療を受け、医師がオンライン診療可能と判断した後、手持ちのスマートフォンなどにアプリをインストールする。医療機関から提供されたコードを入力してユーザー登録、オンライン診療の予約を行う。予約時間になったらアプリを起動し、映像と音声で医師の診察を受ける。アプリに登録した決済方法で会計、薬や処方箋が郵送などで送られる。

 スマホのアプリストアで探すと、10個程度のアプリが見つかる。いくつかインストールしてみたが、コードを入力して初めて動作するものがほとんどで、動作確認はできなかった。なお、医療機関により使うアプリが異なるため、複数機関で診療を受ける場合など、インターフェースが煩雑になる可能性もある。

 IT機器で医師とつながれば、気軽に医療相談ができたり、診察を受けたりできる。患者の生活習慣や心身の状態に目を向けることも可能なので、重症化の防止にも役立つだろう。現状では、事前のデータチェックとビデオチャットによる診療が、通常の対面診療よりも時間が長く丁寧で質が良いという声もある。患者、医療機関ともに効率化すれば、余裕も生まれ、診療もより充実していくのではないかと思う。

ITが命を救う今後

 今はスマートフォンと連携できる機器がいろいろある。血圧計や体組成計、歩数計などIoT機器の活用や、体に装着してあらゆるデータを測定・送信できるウエアラブル機器を活用していけば、さらに診療の幅は広がるだろう。データが蓄積すれば、病気の早期発見で、ITが命を救う可能性もある。

 高齢化社会で、一人暮らしの老人なども多い今日このごろ、働く世代は人手不足に悩まされて、各世代がそれぞれになかなか通院できない問題を抱える。まだ始まったばかりで課題も多いが、オンライン診療で1人でも多く、手軽に健康が確保できる未来が来ればいいな、と思う。多忙などで病院になかなか行けない人は、かかりつけの病院がオンライン診療に対応しているかチェックしてはいかがだろうか。あるいは、オンライン診療が可能な医療機関を検索してはどうだろう。今後ますます普及が見込まれるオンライン診療に注目しておこう。

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

【T】

あわせて読みたい記事

  • 脱IT初心者「社長の疑問・用語解説」(第87回)

    5Gにも慣れないのに、もう6G?

    IT・テクノロジー デジタル化

    2025.02.05

  • ケーススタディー シゴトに生かすDX(第6回)

    ビジネス変革も最初の一歩から。紙を減らしてデータドリブン経営に軸足を移す

    IT・テクノロジー デジタル化

    2024.11.29

  • ケーススタディー シゴトに生かすDX(第5回)

    情報の一元管理と可視化で、生産・在庫・販売の連携を支える

    IT・テクノロジー デジタル化

    2024.10.31

連載バックナンバー

IT時事ネタキーワード「これが気になる!」