IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第23回) 娘のiPhone X動画投稿で解雇。その顚末

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公開日:2017.12.13

 アップルから最初のiPhoneが発売されて10周年。2017年9月12日(現地時間)、アップルのスペシャルイベントで「iPhone X(アイフォーン・テン)」が発表された。全面ディスプレー、裏面にガラスパネルを採用した特別デザイン、画期的な顔認証、ホームボタンの廃止など、アップルが開発した中で最も高度なテクノロジーを盛り込んだ。発表以来、大きな話題を呼んでいる。

 iPhone Xの発売をみんなが心待ちにする10月21日、未発売のiPhone Xを手にする動画がYouTubeに公開された。実はこの動画、アップルのエンジニアの娘が投稿した。アップルの社員食堂で撮影され、iPhoneは父親が持つ検証用の実機と思われる。動画はすぐ削除されたものの、世界中に拡散してしまった。

 アップルはこの父親を解雇したが、iPhone Xに対するみんなの期待に応えようとする娘、家族の思い出として撮影を許した父の立場など、スマホ+ネットで何でもすぐに世界中に知らせられるインターネット時代の世相と教訓がうかがえる事件だ。

なかなか買えないiPhone X

 9月のスペシャルイベントでは、通常のラインアップのiPhone 8/8 Plusの発表とともに、最後に発表された。「デバイスそのものがディスプレー」と紹介されたように、iPhone Xは、ほぼ全面を覆う5.8インチの有機ELディスプレーを搭載する。裏面はガラスパネルを採用、ワイヤレス充電規格のQiに対応した。それまでiPhoneに搭載されてきたホームボタンは廃止され、スクリーン下部に常にホームインジケーターを表示。ホームインジケーターを上にスワイプしてホームに戻るという、他のiPhoneとは異なる操作体系だ。

アップルのiPhone Xの紹介ページ

 また、従来のTouch ID(指紋認証)に代わり、3次元顔認識を用いた革命的な認証システム「Face ID」(顔認証)が採用された。これは新たに搭載されたTrueDepthカメラにより実現する。カメラも、背面レンズの広角側と望遠側の両方に手振れ補正機構が付いた。この「特別な」iPhone、64GBで11万2800円、256GBで12万9800円(いずれも税別、Apple Storeでの価格)と、値段も特別なのにもかかわらず、11月3日の発売には当日在庫目当ての行列ができた。

 今回のiPhone Xは発売以来、需要に供給が追いつかない状態が続いた。執筆現在、まだ品不足が続く。ちなみに、アップルのオンラインストアでの待ちは1~2週間程度と、かなり改善はされてきている。

 ところで、iPhoneの通常のラインアップは、3G→3GS→4→4S→5→5s→6/6 Plus→6s/6s Plus→7/7 Plusと「S」の付くマイナーバージョンを経て、1つずつ数字を上げてきた。だが今回、通常ラインアップは7Sを飛び越して8となった。Xと同じく背面をガラスパネルにすることでワイヤレス充電に対応、「8」を名乗ったのは背面パネルの変更というところからだと思われるが、次は「8S」なのか「9」なのか、そして「X」があることでその次はどうなるかなど、興味は尽きない。

娘が投稿したのはどんな動画だったか

 最初に述べたアップルの技術者の話に戻ろう。発売前のiPhone Xの動画が撮られたのは、クパチーノにあるアップルの現社屋の、社員が同伴すれば一般の人も入れるCaffe Macs内だった。動画では、父親がiPhone XのApple Payで支払う様子、娘さんが操作を行う様子、カメラ、アニ文字などが紹介されている。

 両親とともにドライブをしたりショッピングをしたり――。休日に外出する家族の楽しい一場面として、父親の職場を訪れてランチを食べる様子を娘さんが撮った動画。そこに発売前のiPhone Xが写っていた。しかもユーチューバーの動画よろしく、製品を紹介してしまった。過ちは発売前だったこと。これで父親は職を失ってしまう。

 発売前の製品や職場の風景を、娘が動画で撮るのを許した父親の責任は大きい。ただし、娘さんが動画をまさかYouTubeに投稿するなど、予想しなかっただろう。最近の子どもたちはスマートフォン操作には手慣れている。普通にSNSにも投稿する。そのリテラシーを侮るべきではない。未成年の行動は、基本的に親が管理すべきもの。そのあたりの教育はきちんと行いたい。

 父親は、発売前の新製品の守秘については分かっていたとは思う。大人の行動としては、あらゆる可能性を考えて、最低でもiPhone Xに対して、「それ写しちゃダメ」と撮影を止めるべきだったのだ。

明日は我が身

 注目を浴びたのは、娘さんのざんげの動画だ。彼女はエンディングで「父親を責めないで」と号泣する。彼女は、愛する父親の運命を変えたことを大きく後悔している。大きな心の痛手を受けたに違いない。

 そんな苦痛を我が子に与えたくはない。今はインターネットで何でもすぐにシェアできる。軽い気持ちで行った投稿が、想像もつかない早さで拡散してしまう。人ごとではない。あらゆる事態を想定した行動の必要性を、改めて気付かせる事件だった。

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

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