IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第87回) IPAが公開した「DX白書2021」が話題

IT・テクノロジー デジタル化

公開日:2021.12.13

 IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が公開した「DX白書2021―日米比較調査にみるDXの戦略、人材、技術―」が話題だ。「DX推進のカギとなる戦略・人材・技術を徹底解説!」というキャッチで、デジタル化時代を生き抜くため、企業にDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が求められる中、DXをさまざまな観点から網羅した1冊だ。

 DX白書2021は10月11日のデジタルの日に創刊。約400ページにわたり、日米のDX推進状況の比較データや先進的な取り組み事例、企業でのDX推進のヒントなどが盛りだくさんにまとめられている。DXの全体像が理解できるだけでなく、DXを推進する企業にとってよい参考書にもなるだろう。

 DX白書2021はPDF形式で無償提供され、このページから読める。手元に置きたい場合は「すべてをダウンロード」から入手するとよい。なお、20ページに要点をまとめたエグゼクティブサマリーも提供され、時間のない経営陣が概要を理解するのにも、大まかに眺めをきかせるのにも有用だ。

そもそもIPAとは。「IT人材白書」「AI白書」「DX白書2021」

 IPAではこれまで、2009年から「IT人材白書」、2017年から「AI白書」を刊行し、IT人材や新技術の動向について情報を発信してきた。ITとビジネスの関係性が深化してきたことを受け、これまでの「人材」、AIなどの「技」に加えて「戦略」という経営的な要素を加え、構想されたのがDX白書だ。

 そもそもIPAは「Information-technology Promotion Agency」の略で、日本のIT国家戦略を技術面・人材面から支えるために設立された独立行政法人だ。所管官庁は経済産業省。1970年10月に特別認可法人情報処理振興事業協会として創立され、2004年に現在の形に改組され、頼れるIT社会の実現をめざす。

 IPAの主な事業は、情報セキュリティ対策の実現、IT人材の育成、IT社会の動向調査・分析・基盤構築の3つ。人材育成分野では、国家試験である「情報処理技術者試験」「情報処理安全確保支援士試験」の実施機関として知られている。

 情報セキュリティ関連では、「セキュリティセンター(IPA/ISEC)」で、コンピューターウイルス・不正アクセス・脆弱性の発見や被害の届け出を受け付ける。そのほか啓発情報の発信、情報セキュリティを高める技術開発・調査研究なども行う。

 人材育成分野では、情報処理技術者試験をアジア各国と連携、国境を越えたIT人材の確保を支援する。ITを駆使して独自のイノベーションを創出できる若い人材の発掘・育成を目的とした「未踏事業」、将来のIT産業の担い手となる若い優れた人材の発掘・育成を行う「セキュリティ・キャンプ」なども特筆すべき活動だ。

 IT社会の動向調査・分析・基盤構築については、社会基盤センターから、DX白書のほか、新たなIT社会の動向に関する調査レポート、IT人材白書、AI白書、情報セキュリティ白書など刊行物を閲覧できる。ほかにも地方での取り組み支援、各種ツールや教材の提供も行う。

DX白書2021を読み解いてみた。人材育成運用から従来ビジネス脱却まで

 IPAはDX推進のため、2020年5月15日施行のDX認定制度により、DX推進に優良な取り組みを行う企業を認定、認定企業の公表を行っている。ただし企業の中には、どのようにDXに取り組めばよいのか分からない、DXを推進する人材が不足、ITシステムを改革する技術やスキルがないなどで、取り組めていない割合も低くない。

 そんな企業にこそDX白書2021がうってつけだ。今回はほぼすべての統計は日本と米国で比較されている。総論やサマリーをざっと読んだだけでも、取り組み状況や戦略、人材確保や技術において、日本の状況が米国よりはるかに遅れた現実を突き付けられるだろう。

 ただし、嘆いてばかりはいられない。この現実を真摯に受け止めなければ、今後の未来はない。DXは「進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること」と定義される。白書はDX推進のバイブルともいえる。

 総論を見渡し終えたら、第2部でDXへの取り組み状況、戦略の全体像と進め方、戦略立案上のポイントを見てみよう。コロナ禍、気候変動をはじめとする外部環境変化への取り組み方、デジタル技術によってもたらされる影響や効果について、経営者とIT部門、業務部門が協調できる組織づくり、最新技術の活用、データの獲得と活用など身近な課題が満載だ。「コロナ禍を契機とした企業の取組」企業インタビューも興味深い。

 第3部はデジタル時代の人材について扱っている。DXに取り組むための人材確保、社員のデジタル化、ITリテラシーなど、IT時代を乗り切る要点が分かる。第4部はデータ活用、AI、IoTなど、現在のDXを支える最新技術についてまとめてある。

DX白書をうまく活用すべし。当てはまる課題を見つけて解決へ

 DX白書2021を読むことで、自社の位置付けをベンチマークとして把握できる。さらに、日本の先を行く米国の状況から、今後めざすべき方向性もつかめる。例えば、旅行に出掛けるときには天気予報を見るように、あらかじめ全体の流れを知っておくと手を打ちやすくなるのと同じだ。

 特にコロナ禍以降、ビジネスにおけるITの重要度は増している。テレワークの推進、キャッシュレス・スマホ決済、WebやSNSでの情報発信、ECサイトなどのニーズは増える一方だ。さらにAIやIoTをはじめとする先進技術の導入が、効率化や経費削減にとどまらず、ビジネス変革につながっていく可能性も大きい。

 DX白書2021に加え、IT時代には情報セキュリティも両輪で押さえておきたい。中小企業向けの「サイバーセキュリティお助け隊」が役立つ。広報誌「IPA news」の購読もお薦めだ。最新号の特集では「DX白書2021」を扱っている。過去にも「サクサク導入、バッチリ対策。中小企業のIT、基本のキ」「乗り越える企業、落ちる企業の分岐点」など、役に立ちそうな情報を掲載する。

 確定申告のデジタル化が義務になるのも目の前だ。何もかもがデジタル化する必要に迫られている。DX白書を片手に自社の抱える課題を前向きに解決するヒントにしてはいかがだろうか。

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

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