ニューノーマル処方箋(第83回)
今さら聞けない「IPv6」と「IPv4」の違いを簡単に解説。仕組みやメリット・デメリットとは?
いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第27回のテーマはスッキリわかる「パープル企業」です。言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説していきます。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。
「パープル企業」とは、別名「ゆるブラック企業」とも呼ばれ、いわゆるブラック企業のように長時間労働やパワハラが横行するわけではなく、労働環境は良好で、人間関係も円満。しかしその一方、ルーティンワークがほとんどで仕事のやりがいや成長の機会に乏しい、という企業をさします。この言葉が生まれた背景には、働き方改革やパワハラ防止政策の浸透があるとされます。社員に対する過度なプレッシャーを避け、社員の負担を軽減した結果、定時退社で残業がほとんどない、ストレスの少ない職場が増えました。それは悪いことではありませんが、反面、挑戦や学びの機会が減り、社員が「成長できない」環境が多く生まれてしまったと考えられています。
最近では「自分の時間を大切にしたい」と、いわゆるパープル企業を志望する人も一部いるとされます。ただし、その一方、企業側にとっては、競争力やイノベーションが低下し、優秀な人材が離れてしまうことが問題視されています。社員にとっても、やりがいや収入が頭打ちになりがちで、士気や生産性が落ち、企業の将来性も損なわれ、外部評価や企業ブランド、信用などが失墜するおそれもあります。
今回はパープル企業の定義や概要、メリット・デメリット、自社がパープル企業に該当するかどうかがわかるチェックポイント、該当する場合の改善策を紹介します。社員がやりがいと安心感を持って働ける、会社としても将来有望な「ホワイト企業」を目指すために、現状を見直すヒントにしていただければ幸いです。
「パープル企業」という言葉が生まれた背景には、2019年4月から始まった働き方改革や2022年4月からすべての企業に義務付けられたパワハラ対策の浸透があります。それに加え、コロナ禍以降、柔軟な働き方の普及や人材の多様化が進み、職場環境の大きな変化が起こっています。これらの変化につれて、これまで問題視されてきたいわゆる「ブラック企業」は減少。その一方で、労働環境は良好ながらも成長の機会に乏しい「パープル企業」が増加してきたのです。
ブラック、ホワイト、パープルなど、企業をカラーで分類すると、以下のようになります。ただし、これらは一般的な呼称に近く、はっきりとした定義はありません。
・ホワイト企業...適正な労働環境と充実した福利厚生が整っており、社員がやりがいを感じながら働ける。離職率も低く、社会の変化に柔軟に対応し、持続的に発展している
・ブラック企業...長時間労働や不透明な評価制度、日常的なハラスメントなど、過酷な労働環境が常態化
・グレー企業...ブラックほど顕著ではないが、ホワイト企業ともいえず、法令順守ギリギリのグレーゾーンにとどまっている
・パープル企業...労働環境は悪くないが、業務はルーティンワーク中心で社員の成長機会が乏しく、企業としての発展も停滞しやすい
働き方改革とパワハラ対策の影響で、企業は労働時間を抑えながらも、パワハラとみなされないよう、指導のトーンを抑える傾向が強まり、「ことなかれ主義」的な方向が強まりました。さらに、残業を減らすために余裕を持った生産計画を立てるなど、あらゆる場面で負荷をかけない配慮が優先されたことで、"安定はしているものの成長できない"パープルな環境が生まれたと考えられています。
では、こうしたパープル企業のメリットとデメリットを見ていきましょう。筆者視点で、思いつくままに挙げてみました。
◆メリット
・残業や休日出勤が少ない...時間外労働がほとんどないため、プライベートや趣味などを充実できる
・仕事がキツくない...ルーティンワークが中心。体力的にも精神的にもラクで、ストレスをためずに働ける。特別なスキルも不要
・働きやすい環境...パワハラもなく職場の雰囲気も人間関係も良いことから、和気あいあいと仕事ができる
・プレッシャーやストレスが少ない...パワハラ防止により皆が指導や指摘を控え、ノルマや目標数値もない、もしくは緩めで、伸び伸び仕事ができる
・社員が辞めにくい...従業員の満足度が高く、働きやすい環境が整っていることから、社員の離職率が低めの傾向にある
・コストを抑えられる...長期雇用を前提とした育成方針のため、短期的に成果を求める研修や再教育などが不要、新しいことへの挑戦も少ないため、導入コストなどさまざまなコストが抑えられる
◆デメリット
・社員の成長の機会が少ない...ルーティンワークなど単調な仕事が多いため、スキルを学習する機会が少なく、実務経験やノウハウが身に付きにくい
・昇給が難しい...特別な技術やスキルが不要な業務が多く、収入が上がらず、社員のモチベーションが低下
・仕事にやりがいが感じられない...毎日単純な仕事の繰り返しで、評価や昇進も見込めないため、仕事にやりがいを感じられない
・優秀な人材が集まりにくい...給与が上がりにくく、業務も定型的でやりがいを感じにくく、成長を求める人材が集まりにくいうえ、優秀な人材が不満を感じて離れてしまう
・組織全体の活力が落ちる...定型化された業務が多く、新しい業務に挑戦する機会も少ないため、社員が自らアイデアを出すなど自主的に行動する機会が減り、組織全体の活力が落ちる
・長期的に企業ブランド・社外評価の低下を招く...長くパープル状態が続くと、企業の競争力やイノベーション力が低下、外部からも「成長できない企業」と評価され、企業ブランドの低下を招いてしまう
どちらにせよ、パープル企業でいることは、あまり良いことではありません。多少のメリットはあれ、企業の将来性などを考えると、いつかは衰退する姿が見えています。次の項目では自社がパープル企業に当たるかどうかチェックし、対策をお話ししましょう。
ここでは、自社がいわゆる「パープル企業」に該当するかどうか、ここまで解説してきた特徴などを交えて10項目のチェックリストにまとめました。ぜひ確認してみましょう。チェックシートのうち5項目以上該当する場合、自社はパープル企業の傾向が強く改善が求められるでしょう。3~4項目該当であれば「予備軍」と捉え、今から施策を講じていくことが重要です。
■「パープル企業」診断チェックシート(10項目)
① 残業や休日出勤が少なく、定時退社が基本となっている
② 日々の業務が定型的・パターン化されており、変化が少ない
③ 人間関係は良好だが、競争や刺激が少なく成長を実感しにくい
④ 柔軟な働き方(テレワーク、フレックス、育児や介護との両立など)の導入があまり進んでいない
⑤ ノルマや責任が軽く、仕事に対する緊張感があまりない
⑥ 福利厚生は整っているが、教育や研修の機会が少ない
⑦ 新しい仕組みやシステムの導入が少なく、現状維持が中心
⑧ 給与水準の上昇が緩やか、または昇給の機会が少ない
⑨ 新しいアイデアや改善提案が出にくく、挑戦的な土壌がない
⑩ 社員の主体性が乏しく、会議や業務に活気がない
パープル企業にならないためには、下記の施策が考えられます。
①マネジメント層への教育を強化
現代の管理職は、多様な働き方、Z世代や外国人社員など多様な人とのコミュニケーション、DX推進、AI対応、ハラスメント防止など、きわめて多様な課題に直面しています。これらに柔軟かつ的確に対応できるよう、管理職向けの継続的な研修やフォローアップを実施しましょう。
②社員の成長を促す仕組みをつくる
経営ビジョンに基づいた明確な目標設定と進捗管理、面談による社員の価値観の把握やキャリア支援、ストレッチ目標の設定などを通じて、社員の主体性と成長意欲を引き出す環境を整えます。あわせて評価制度を見直し、成果が昇進や報酬に結びついて、社員のやりがいにつながる仕組みを整備しましょう。
③多様で柔軟な働き方の推進
テレワーク、フレックス、長期休暇、育児・介護と両立できる勤務体制の整備などを進めることで、社員一人ひとりのライフスタイルに合った働き方が選択できる環境を提供するよう努めましょう。結果として社員の士気が上がり、企業全体の生産性やモチベーション向上が期待できます。
④福利厚生・スキル支援の充実
社員の生活をサポートする休暇制度や各種手当、外部セミナーや資格取得の補助制度などを導入し、社員の満足度とスキル向上を両立させることで、持続可能な成長につなげます。
以上のような多角的なアプローチによって、単なる「働きやすいだけの会社」から、「働きがいのある成長する会社」への転換が可能となるでしょう。
近年、就職・転職サイトなどでも「パープル企業」という言葉が注目されるようになってきました。多くの記事では「うっかりパープル企業に入らないよう、しっかり見極めるべき」と警鐘を鳴らしています。ただしその一方で、Z世代やミレニアル世代を中心に「むしろパープル企業に入りたい」という声も見られ、「パープル企業の探し方」「働きやすい企業ランキング」なども話題になっています。
こうした傾向の背景には、「年収や昇進だけがすべてではない」「自分の時間や心の余裕を大事にしたい」という価値観の多様化があります。成長を最優先とする企業文化よりも、無理のない働き方を選びたいと考える人にとって、パープル企業のような環境は魅力的に映るのかもしれません。とはいえ、変化の激しい世の中の流れにおいて、企業としての将来性という視点で見れば、パープル企業には問題や課題が多いのは事実でしょう。社員の成長や主体性が損なわれ、イノベーションも生まれにくく、長期的には企業ブランドや社外評価の低下につながるおそれがあり、放ってはおけません。
もし自社がパープル企業に該当する可能性があると感じたら、前章で挙げたような施策を早急に実施すべきでしょう。さらに、Web上にはパープル企業から脱却するための研修プログラムやソリューションも数多く紹介されています。なお、DXによる自動化やITツールによる業務効率化で生まれる余裕をベースに、人材育成や企業文化の見直しを進めていく方法もおすすめです。これらについては最寄りのベンダーや公共のIT相談窓口にアプローチするのも有効でしょう。
※掲載している情報は、記事執筆時点のものです
執筆=青木 恵美
長野県松本市出身。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「自分流ブログ入門」「70歳からはじめるスマホとLINEで毎日が楽しくなる本」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経xTECHなど。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。
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