オフィスあるある4コマ(第63回)
声の大きな社員
最近、問題視されている「シャドーAI」。以前は部門や個人がIT部門の承認を得ずに独自のITツールを導入・利用する「シャドーIT」が問題となっていたが、シャドーAIはそのAI版だ。IT部門が把握・管理していないAIエージェントを、部門や個人が独自に利用することで、機密情報の漏えいやセキュリティリスクにつながると指摘されている。本稿ではシャドーAIの問題点と、シャドーAIを含むAIエージェントを一元的に管理する「Microsoft Agent 365」について解説する。
■目次
・シャドーAIのリスクを低減する「Microsoft Agent 365」
・シャドーAIに潜むセキュリティリスク
・Agent 365が組織のAI運用を支援する3つの役割
・シャドーAIはセキュリティリスクが高い、今後の課題はどう防ぐか
会社から業務用のAIツールが提供されているにもかかわらず、「会社のAIは遅いし、あまり賢くないから」と、普段使い慣れたGeminiやChatGPTを使っているという話を筆者のまわりでよく耳にする。そうした対応はよくないと分かっているものの、業務効率優先でつい使用しているという。
まさに、今話題になっているシャドーAIだ。利用者に悪意があるわけではなく、業務効率を優先した結果、使われているケースも少なくない。しかし、組織としては「誰が、どのAIを、どのようなデータで利用しているのか」が把握できないことが問題となる。
そんな中、米マイクロソフトがシャドーAIを含めた組織内のAIエージェントを一元的に管理する新製品「Microsoft Agent 365(以下、Agent 365)」というサービスを始めた。同サービスは、組織内のAIエージェントを「観察・統治・保護」するための管理基盤で、自律的に業務を遂行するAIエージェントを「デジタル従業員」と位置付け、人間の従業員と同様のガバナンスのもとで管理することをめざす。専用IDによる権限管理やライフサイクル管理などを通じて、IT部門が把握できない「野良エージェント(シャドーAI)」のリスク低減につなげるとしている。
IT部門が把握・管理していない状態で利用される「シャドーAI」には、機密情報の漏えいだけでなく、さまざまなリスクがある。
まずセキュリティ面では、管理されていないAIエージェントが組織内に乱立することで、攻撃対象となる範囲が広がり、組織全体のセキュリティが弱くなる恐れがある。本来は不要な機密データやシステムへのアクセス権限を持ったまま運用され、悪用される危険性もある。また、プロンプトインジェクションなどの攻撃によってAIエージェントが操作され、内部ツールの不正利用や意図しない処理を実行させられるリスクも指摘されている。
データ保護やプライバシーの面でも問題は大きい。管理されていないAIエージェントが社外秘文書や顧客情報などにアクセスしてしまうと、「誰が、どの権限で、どのデータにアクセスしているのか」を組織が把握できず、適切なデータ管理が難しくなる。
情報漏えいのリスクは、利用者がAIへ入力したデータだけの問題ではなくなっている。AIエージェントが保有する権限を通じて社内データにアクセスし、機密情報や顧客情報を意図せず外部へ漏えいさせてしまう可能性も考えられるのだ。
さらに、ガバナンスやコンプライアンスの面でも課題は多い。作成者が異動や退職をした後もAIエージェントだけが動き続け、棚卸しの対象にもならない「放置状態」が生じる恐れがある。操作ログが残らなければ、不正利用やセキュリティ事故が発生した際の調査や法令・規制、説明責任の対応も難しくなるだろう。
AIの業務利用が急速に広がる中、その存在を把握し、適切に管理することの重要性が問われている。
2026年5月1日、Agent 365の一般提供が開始された。企業内のAIエージェントを一元的に観察・統治・保護するための管理基盤で、従来は人間の従業員を対象としてきたガバナンスをAIエージェントにも適用。AIエージェントを「デジタル従業員」と位置付けて同等の基準で管理する考え方に基づいている。
Agent 365は、次の3つの役割を通じて組織全体のAI運用を支援する。
・Observe(観察する):組織内のAIエージェントを可視化し、誰がどのデバイスでどの権限で使用しているかを追跡、利用状況や稼働状況を把握する
・Govern(統治する):AIエージェントのアクセス権限や使用可能なツールを制御し、社内データの流出リスクを低減する
・Secure(保護する):脅威検知やセキュリティポリシーの適用により、AIエージェントの安全性とコンプライアンスを確保、脅威や脆弱性から防御する
Agent 365はMicrosoft製だけでなく、サードパーティー製やオープンソース製など、あらゆるAIエージェントを管理対象に含めることができ、「Microsoft Entra エージェント ID」を用いてAIエージェントを識別、アクセス制御や行動の可視化、脅威検知までを一貫して行う。Agent 365は企業向けサービスとして提供され、ユーザー当たり月額15ドル。同時期に登場した最上位スイート「Microsoft 365 E7」には標準搭載されている。
Agent 365を導入することで、無秩序に増えていくシャドーAIのリスクを抑え、安全かつ大規模なAI活用を実現しやすくなる。組織のポリシーや導入環境によっては、社員が個人で利用している未許可のAIエージェントも検知・把握し、利用を制御できるようになる点も大きな特徴だ。
このように、社内で利用されるAIエージェントを、許可・無許可を問わず可視化し、一元管理できるAgent 365は、企業でAI活用が急速に進む中、注目を集める製品といえるだろう。
組織内のユーザーが無許可のAIエージェントを利用したり、自作したAIエージェントを社内で運用したりすることは、決して珍しいことではない。生成AIはプログラムなどの専門知識がなくても、日常的な言葉で指示するだけで利用・作成できるためだ。AIの知識が少しあれば、自分の業務に合わせたAIエージェントを活用し、業務効率を高めることも可能だろう。
シャドーAIには情報漏えいや不正アクセス、システム障害などの「入り口」となる可能性がある。こうしたリスクは、企業に経済的な損害を与えるだけでなく、社会的な信用を損なう要因にもなりかねない。
そのために重要なのは、社内でどのようなAIエージェントが利用されているのかを把握することだ。Agent 365のような管理基盤を導入するのも有効ではあるが、それ以外にも、PCの利用状況を可視化するツールを活用し、シャドーAIの利用実態を把握する方法もある。さらにAIエージェントの作成から廃止までの運用ルールを定める、アクセス権限を必要最小限に設定する、社員向けのAIリテラシー教育を実施する、といった取り組みも有効だ。
自社だけで対応できない場合は、ベンダーや公的機関の相談窓口を活用するのもよい。「シャドーAI 対策」などで検索すると、多くのソリューションや支援サービスが見つかるため、自社の規模や運用に合ったものを検討してみる価値はあるだろう。
生成AIが身近になった今、シャドーAIは「特別な問題」ではなく、どの企業でも起こり得る日常的な課題になりつつある。だからこそ、無許可のAIエージェントの利用を禁止した上で、安全に活用できる環境とルールを整備していくことが重要だ。シャドーAIのリスクを正しく理解し、組織全体で適切な管理と活用を進めていきたい。
※掲載している情報は、記事執筆時点のものです
執筆=青木 恵美
長野県松本市出身。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「自分流ブログ入門」「70歳からはじめるスマホとLINEで毎日が楽しくなる本」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経xTECHなど。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。
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