ケーススタディー シゴトに生かすDX(第5回) 情報の一元管理と可視化で、生産・在庫・販売の連携を支える

IT・テクノロジー デジタル化

公開日:2024.10.31

 ビジネスを円滑に進めるためには、社内外でさまざまな情報連携が求められる。例えば、製造業なら、生産から在庫、販売までのプロセスで必要不可欠な情報があり、管理のための仕組みが設けられている。その方法は、Excelによる帳票管理だったり、専用のシステムを開発、導入していたりと、企業規模や管理方針によって異なる。昔ながらの中小企業ならば、社長や熟練の管理担当者が情報を読み解いて適切な対処をしてきたことだろう。しかし、現代はビジネスの不確実性が格段に高まっている。近年だけでも、コロナ禍や半導体不足、国際情勢の変化などにより、ビジネス環境が急速に変化することを経験してきた。情報の連携(一元管理)と可視化を進めておかないと、"いざ"という変化に対応できなくなるだろう。

「PSI管理」をスムーズに行うためのIT活用が不可欠に

 製造業で求められる生産から在庫、販売管理を適切に進めることを、生産(Production)、販売(Sales)、在庫(Inventory)の頭文字を取って「PSI」と呼ぶ。変化が激しい現代では、勘と経験だけでは最適化したPSI管理を実現することは難しい。

 仮に、今の代の社長や管理担当者が高い能力を持って適切に対処できていたとしても、代替わりや退職などによってその知見が引き継がれなくなることもある。この事態に対応するには、データを基にしながら適切な生産計画を立てたり、在庫を最適化したりすることが求められ、ITの役割が高まる。

 PSI管理をまとめて実施する生産管理システムなどを導入すれば、こうした課題が解決できる可能性は高い。一方で、そうした変化は現場にストレスをもたらすリスクもある。現場の仕事の仕方を、新規導入するシステムに合わせる必要が出てくるためだ。こうした大きな変化を一気に追い求めないのなら、現状の業務やシステムを生かしながら情報の連携と可視化のインフラを整えることが業務のDX(デジタル変革)の第一歩になる。各種の業務やシステムの情報をクラウドストレージなどで一括管理し、管理担当者が状況をリアルタイムで把握できるようになるだけでも、デジタル化した基盤でPSI管理が実施しやすくなる。社外取引先などとも情報を連携する必要が出てきたときにも、ストレージやシステムにクラウドサービスを利用していれば、セキュリティを保ちながらデータを共通利用するためのハードルを下げられるだろう。

 そうして多様なデータが集まってきたならば、連携したデータを活用する手法にもデジタル技術を採用しやすくなる。生産や販売などの計画立案のため、複数のファイルやシステムの間で情報をまとめたリポートが必要になれば、RPAなどを活用して集計などの業務を自動化することが容易になる。将来的にAIを活用して情報分析などを推進するときにも、データが集まっていることが必要になる。情報やデータがバラバラに存在している状況から、クラウドなどで一元管理をしておくことで、さまざまな活用の可能性が広がるのだ。

DX先進事例にみる生産、在庫、販売管理へのIT活用

ケーススタディー(1):A社の場合(製造業)

 合成繊維などの製造販売を手掛けるA社では、環境の変化への対応としてDXに取り組むことになった。DX戦略として、DX人材教育による組織力強化、情報分析強化による販売力強化、情報共有、業務効率化と業務プロセスの改革――などを掲げた。

 A社ではIT関連部署に人材やスキルが集中していた点や、社員全体のITリテラシーが高くないなどの課題を抱えていた。この点を踏まえ、DX推進を図る専門委員会を設置するとともに、5年程度の時間をかけ40種類以上のグループウェアや生産管理ツール、チャットツール、クラウドストレージなどを社内の各部門に導入して、情報を連携・可視化した。これにより社内のDX推進機運の醸成だけでなく全部門の工程が円滑化し、結果として生産性が大幅に向上することになった。さらに取引のオンライン化、協力会社とのクラウドによる情報共有なども推進し、社外のステークホルダーに対してもDXの成果を広げることに成功している。ITリテラシーが高まったことで、「メタバースプロジェクト」などDXを加速させるプロジェクトへの参加希望者が増加した他、資材高騰への対応として完成品原価分析システムなどを自社開発することで生産工程効率化も実現している。

ケーススタディー(2):B社の場合(精密板金業)

 B社では、情報処理環境整備に取り組んできた。社内の情報を整理することで効率化を図り、誰でも見ればわかるような情報の可視化を推進した。具体的には「DX戦略会議」グループを新設。クラウドでデータを共有し、改善の見える化を推進することで、課題解決の実現に向けた体制を構築した。さらに社内業務全般でDXを推進し、効率化や省力化により時間を捻出できるようにして、新たな取り組みにチャレンジできるサイクルを作り上げた。

 情報の見える化により従業員のモチベーションが大幅に向上する効果があった。さらに、数字的根拠の無い感情論から、数字的根拠のある情報を共有して最適化を図ることでQCD(品質、コスト、納期)の数値の改善にもつながった。そうした結果、大手企業の取引先から最優秀企業賞を受け、これが売り上げ増加をもたらすことになった。

ケーススタディー(3):C社の場合(製造業)

 従業員の年収向上のためにDXによる業務効率の抜本的改革と付加価値の向上が不可欠と判断し、取り組みを開始したC社。製造・販売業務では、AIやクラウド技術の活用により「ものづくり力/商品提案力」の向上を図った。DX推進の体制は社長直轄とし、クラウドサービスを積極的に使用できる環境整備を行った。こうした施策により、各部門が自らの課題解決に直結したDXを実現できるようになった。

 情報を連携させて活用するための自動化アプリは、ローコードで自社開発をする仕組みを導入。ベンダーに頼らずに最適化を推進できるようにした。その結果、間接業務を90%自動化できた他、経営情報抽出の自動化により日次決算の仕組みを構築し、従業員の残業時間の大幅短縮や有給取得率向上にもつながった。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=岩元 直久

【MT】

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