IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第75回) 音声SNSに次々と参入の動き

IT・テクノロジー スマホ

公開日:2021.05.13

 「Clubhouse(クラブハウス)」という名前を聞いたことがあるだろうか。クラブハウスは、米アルファ・エクスプロレーションが開発した招待制の音声SNS。サービス開始は2020年4月でiOS端末のみ、専用アプリでやり取りする。

 2020年末ごろ、日本のアーリーアダプターが使い始め、徐々に国内でも名前が知られるようになった。2021年1月23日、国内向けアプリのベータ版が公開。完全招待制なうえ、iOS端末のみの対応にもかかわらず、1月28日にはアップルのアプリストアでランキングのトップに位置するほどの人気となった。

 音声のみに特化したユニークさと、招待制のプレミア感が人気を呼んだ。LINEのグループ通話のように友だちと集まって会話できるのはもちろん、会話は公開が可能で有名人や専門家の「ここだけの話」を聴ける。筆者も2月ごろから友人たちとの会話に使いつつ、最近はタレント、クリエイター、経営者などの会話を聴いて楽しむ用途が多い。

 現在、クラブハウスは頻繁に話題になることもなくなってきた。招待枠がないか聞かれる機会もめっきり減ったものの、毎日の通知の数から根強い人気を感じる。ただ、リアルタイムで聴かなければならない、録音は禁止、巻き戻しや早送りもできずアーカイブも残らないなど、利用しづらい点も否めない。Androidユーザーも使えない。そんな折、TwitterやFacebookが、音声SNS機能を追加するニュースが飛び込んできた。

有名SNSが音声に進出

 2021年5月3日、Twitterは2020年から試験サービスを始めている音声配信機能「Space(スペース)」を本格的に展開すると発表した。現在、国内版のAndroid/iOS版のTwitterアプリで利用が可能となっている。7日にはTwitterがクラブハウスの運営会社の買収に向けて一時交渉を進めていたニュースが流れたが、交渉は成功していない模様だ。

 一方Facebookは2021年4月、ユーザーが音声で交流できる「ライブオーディオルーム」を夏までに始めると発表した。Facebookは同級・同窓生や趣味のグループ、会社関係などさまざまな関係で知り合いとの交流に使う機会が多い。集まって話したり、久しぶりに古い知り合いの声を聞いたりもできそうで期待が持てる。

 こうした音声SNSの利用方法は、まず自分がホストとしてルームを立ち上げ、一緒に話したい友だちを招待する形が多い。ルームを公開すれば、会話している人をフォローするユーザーなら誰でもリスナーとして会話を聴けるシステムだ。Twitterもほぼ同様の形式だが、現状では600人以上のフォロワーがいるアカウントのみルームを立ち上げられる。

 音声SNSに今なぜ有名どころが参入するのだろうか。

「配信」を視野に本家も投げ銭システム導入。国産「パラレル」も急上昇

 動画配信分野では米GoogleのYouTubeが台頭、毎日多くのユーザーがライブ配信や動画配信を行っている。人気の配信者の動画を見ると、多くの人が「投げ銭」(寄付)を行い、配信者の支援ややりがいにつながっている。クラブハウスは4月5日、投げ銭(ペイメント)機能を追加すると発表し、現在は実際に配信者のプロフィールから投げ銭を行えるようになった。

 動画配信は、自分の姿や紹介内容の映像が必要だ。ブログやSNSでの文字での投稿は文章作成・推敲(すいこう)作業に手間がかかる。ところが音声ならば「絵」を気にせずに、仲間を集めても一人だけでもしゃべるだけで気軽に情報を発信できる。

 そうそう、「スペース」は、ユーザーが有料配信できるシステムを計画中だという。恐らくTwitterも音声での「配信」を視野に入れた導入と思われる。なお、クラブハウスは録音禁止、リアルタイムのみなのは前述の通りだが、スペースは録音可能でデータの保存も可能。テキスト(ツイート)や字幕の表示、リスナーは絵文字でリアクションできるなど、より楽しく使えるようにした。

 Facebookはライブオーディオルームのほか、音声クリップ「サウンドバイト」やポッドキャストの公開などの機能もあるという。AI技術でにぎやかな場所でも雑音なく高音質で配信・録音でき、音声のエフェクトも豊富といわれ面白そうだ。

 こうした流れを受けて、従来サービスも盛り上がる。国産の「パラレル」は、ミニゲームをしながら、一緒にYouTube動画を見るなど画面を共有しつつグループ会話が可能。自分の声を面白く変えるボイスチェンジ機能もあり、国産らしい細やかな機能が見直されて人気が出てきた。

気になる流出、セキュリティ関連

 コロナ禍のテレワークで急速に需要が高まったビデオ会議やテレビ電話。便利な半面、顔が写るストレスも否めない。音声や文字だけで気軽に会話ができる需要は当然あるだろう。

 ただし対面の会話とは異なり、こうしたサービスは原則記録を残せる点が懸念点でもある。機密事項や、つい失言をした会話内容を悪用される可能性は捨てきれない。音声SNSは、まだもろもろが整備途中だと認識しておきたい。音声SNSに限らずチャットなども、特にビジネスで利用する際は、あらゆる可能性・リスクを考えて慎重になるべきだ。ビジネス用のもの、有償だがセキュリティが担保されたものを選択したい。

 とはいえ、外見や状況を気にせずに集まって話せる音声SNSの存在は今後も重宝される可能性は高い。コロナ禍で実際に集まれるのはまだ先になりそうで、コミュニケーション手段の1つとして頭に入れておいたほうがよいだろう。システムや規約をよく知り、利用は慎重にすべきだが、新しいサービスも今後出て来そうで楽しみだし期待したい分野だ。

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

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