オフィスあるある4コマ(第50回)
新入社員への電話のレクチャーに大苦戦
いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第24回のテーマはスッキリわかる「バーチャル秘書」です。言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説していきます。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。
コロナ禍以降、リモートワークや多様な働き方が定着する中で、「バーチャル秘書」が改めて注目を集めています。このバーチャル秘書は、オンライン秘書、バーチャルアシスタントなどとも呼ばれ、オフィスに常駐せず、オンラインで業務をサポートする人材やサービスのことをさします。対応業務は、スケジュール調整やメール・電話対応、会議準備、資料作成、経理、SNS運用など多岐にわたります。ニーズの背景には、コロナ禍以降のリモートワークやフレックスタイムの普及、フリーランスやスタートアップを中心とした柔軟な働き方の広がりがあります。バーチャル秘書は、常駐せず必要なときに必要な業務だけを外部に委託できる合理性も支持され、業務効率化の1つの手段として活用されています。サービスはスキルを持ったプロフェッショナル人材で行うため、一定のクオリティーとスピードが期待でき、バックオフィス業務など特定業務を任せることで、自社の人材をコア業務に集中させることが可能となり、生産性の向上が望めます。
注意したいのは、近年話題の「AIエージェント」や「AI秘書」とは異なる点です。これらは生成AIが業務を自動的に代行・補助するもので、バーチャル秘書はあくまで実在する人材が対応します。サービス提供企業には、経験豊富なワーカーが多数在籍しており、個人またはチームで対応します。サービスは一般的な秘書業務にとどまらず、人事・経理・マーケティング、WebやSNS運用まで、幅広い分野をカバーする場合も多く、人材不足に悩む企業での導入が進んでいます。
なお、バーチャル秘書サービスは内容や料金体系もさまざまなので、目的や体制に合わせて最適なパートナーを選定することが重要です。サービスを利用する場合、まずは何をアウトソーシング(外部委託)するかをピックアップし、それらの業務を委託できるサービス会社を探してどれぐらいの業務をカバーできるかをコストとともに検討するとよいでしょう。
関連する出来事などの背景
2019年頃から広がったコロナ禍は、私たちの働き方に大きな変革をもたらしました。感染拡大防止対策として、在宅勤務やリモートワークが一気に普及、それまでの「オフィスに出社することが常識」という価値観が大きく揺らぎました。さらに、フレックスタイム制やフリーアドレス、ワーケーションといった柔軟な働き方も注目されるようになり、働く時間や場所に対する制約が緩やかになっていきました。
コロナ禍と同時に、企業は限られた人材とリソースで成果を出す必要に迫られ、業務の一部を外部に委託するアウトソーシングも加速しました。こうした環境の変化の中で、「必要なときに、必要な業務だけをプロに依頼する」考え方が浸透、バーチャル秘書のような新しい支援スタイルが注目を集めるようになったと考えられます。さらに経済活動やインバウンドの流入などが再び活況となりつつある現在では、少子高齢化と優秀な人材不足が再び大きな問題となっています。「限られた人材を効果的に生かすため」や、「貴重な人材の離職や流出を防止するため」などの需要の高まりを背景に「バーチャル秘書」へのニーズが大きくなっているともいえるでしょう。
では、「バーチャル秘書」にまかせられる業務は、何があるのでしょうか? 思いつくまま挙げてみました。
■バーチャル秘書が対応可能な主な業務(例)
●秘書業務
・スケジュール調整・管理
・会議や打ち合わせの日程調整、参加者への連絡、調整
・交通機関や宿泊施設、飲食店などの予約手配
・メールの確認、整理、転送、代理返信
・電話やFAX、チャットなどの1次対応
・はがきや手紙の受け取り、郵便物の通知、転送、代理返信
・ダイレクトメール、メールマガジン等の作成と送信
●事務業務
・書類や資料の作成(議事録、報告書、企画書、会議資料など)
・プレゼンや営業資料の作成と整備
・データ入力、整理
●人事業務
・求人票の作成、更新
・応募者への対応、面接日程の調整
・労務関連、勤怠管理のサポート
●情報収集・調査系
・インターネットでの情報検索、リサーチ業務
・競合調査や市場動向の要約
・ニュースクリッピングやリポート整理
●経理・事務処理系
・経理記帳、紙伝票のデータ化
・見積書、請求書、領収書の作成、送付
・経費精算の処理サポート
・顧客データの管理、更新
・売り上げ、入金確認
●翻訳業務
・外国語文書の翻訳
・外国語でのメール対応
・外国語での情報収集
SNS・広報サポート系
・会社案内、パンフ、Webサイトの作成、更新
・ネットショップの運営と管理、サポート対応
・SNSへの投稿とスケジュール管理
・投稿文案の作成、画像素材の整理
・コメントやメッセージへの1次対応
(囲みここまで)
ここに挙げたのはほんの一部ですが、これらを基本に「どんなことをアウトソーシングすれば、自社の人材を十二分に生かし、コスト削減・生産性の向上が望めるか」と考えれば、活用の裾野はぐんと広がっていきそうです。
企業に与えるインパクトは?
バーチャル秘書は「多様な働き方」を受け入れる社会の中で、企業の業務体制を柔軟かつ強固にする手段として活用が進むと考えられます。人材不足に悩むイマドキの企業の救世主ともいえそうな「バーチャル秘書」。以下では、それぞれのメリットとデメリットを考えていきましょう。
導入の最大のメリットは、業務を切り出して任せることによって、社員がコア業務に集中でき、生産性向上を狙えることです。バーチャル秘書は、専門サービスによるコストパフォーマンスの高さとクオリティーの高さ、スキルの幅が広いのもメリット。常勤の秘書や事務スタッフを雇うよりも、必要なときに必要な分だけ依頼できるため、固定費削減にもつながります。繁忙期や急な欠員対応にも柔軟に対応できるのも大きなメリットですね。先ほど挙げたように、対応業務が幅広く、スケジュール調整やメール対応、資料作成といった日常的な業務から、経理やSNS運用、リサーチ業務まで柔軟にカバーできる点もメリットです。さらに、専門スキルを持った人材をすぐに活用できるため、自社での人材育成に時間やコストをかける必要がないのも魅力の1つ。地理的な制約もないため、全国または海外の優秀な人材にアクセスできるのも強みといえるでしょう。
一方、バーチャル秘書の導入には慎重な判断が求められる側面もあります。まず大きな課題は、コミュニケーションの難しさです。基本的にオンラインでやり取りを行うため、指示が曖昧だったり、ニュアンスが伝わりにくかったり、顔が見えないことによる不安などで、業務の行き違いや手違いが発生したり、時間やコストのロスが発生する可能性があります。
また、外部人材に業務や企業内の情報を預けるので、情報漏えいやセキュリティリスクにも十分な配慮が必要となります。加えて、自社の経営方針や社内文化、業務プロセスへの理解が不足するなどの面で、きめ細かな対応が行き届かない場合も考えられます。特に、プロジェクト・チームとの連携や即時対応が求められる環境では、オンラインサービスの限界を感じる場面もあるでしょう。社内にノウハウが残らないのもデメリットの1つ。サービスの品質が一律ではなく、担当者のスキルや経験によって成果に差が出るといった懸念も残るため、導入前にサービス提供元の信頼性を見極める必要があります。
確かに、バーチャル秘書は便利な仕組みです。しかし、その特性を理解して適切な業務を選定・管理する体制で臨まなければ、期待する効果が得られない場合もあるので注意が必要です。
これから予測される課題は?
バーチャル秘書サービスは基本的に、人が行うサービスゆえのコスト高は当然あるでしょう。というのは、比較として挙げられるのが近頃はやりの生成AI、だからです。大企業が自社仕様にカスタマイズした生成AIサービスを導入していたり、社員に生成AI組み込みのオフィスツール(Microsoft 365 Copilotなど)やパソコン(AIパソコン)を導入していたり。生成AIの利用はうなぎのぼりです。これらはチャットベースで自社の情報にアクセスできる、翻訳、メールや文書、プレゼンなどの作成にたけており、長い文書の要約、スケジュール管理など「秘書」的な役割を担ってくれます。最近では、目標達成に向けて自律的に行動できる「AIエージェント」も登場してきました。AIは、開発や導入にコストはかかるものの、運用は人を雇うのに比べれば当然コスト安になります。
ただし、AIを使いこなすには、それなりに各社員のITリテラシーやノウハウ教育が必要です。場合によっては「バーチャル秘書」サービスのほうが現実的かつ即戦力になる面もあります。特に、ITリテラシーの差が大きい組織や、即座に成果を求められる現場においては、AIを導入・活用するまでのハードルが思いのほか高くつくケースも少なくありません。
結局のところ、AIと人、それぞれに得意・不得意があり、万能な解決策は存在しません。重要なのは、自社の体制や課題、目的に応じて、最適なリソースを柔軟に選択していく姿勢です。バーチャル秘書も、単なる一時的なブームではなく、業務の一部を「人に任せる」という新しい選択肢として、今後も有効な手段であり続けるでしょう。場合によっては「バーチャル秘書」とカスタム生成AIの併用も考えられます。
「バーチャル秘書」サービスは現在、Web検索してみるとたくさん見つかりますし、カスタム生成AIやAIエージェントなどのソリューションも数多く見つかります。それらを見渡して自社に合ったものを検討してみてもいいかもしれません。「バーチャル秘書」サービスの中には、総務省「テレワーク先駆者百選」(現「テレワークトップランナー」)にて総理大臣賞に選ばれた企業もあり、そうしたお墨付きの企業やベンダーを優先で検討してみるのも良いでしょう。場合によっては最寄りのベンダー、もしくは相談機関・窓口などに相談してみるのも手かもしれません。変化の絶え間ない企業環境だからこそ、「バーチャル秘書」などのサービスを使いこなして自社の抱える課題を柔軟に解決していきましょう。
※掲載している情報は、記事執筆時点のものです
執筆=青木 恵美
長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。
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