ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
米マイクロソフトは、3月に開かれたオンラインイベント「The Future of Work: Reinventing Productivity with AI」において、Microsoft 365にChatGPTベースのAI機能を組み込んだ「Microsoft 365 Copilot」を発表した。Microsoft 365 Copilotは「仕事上の副操縦士」と呼ばれ、私たちの時間やエネルギーを奪う単調な作業から解放し、創造の喜びを再発見できるようにするという。
マイクロソフトは今後数か月以内に、Word、Excel、PowerPoint、Outlook、Teams、Viva、Power Platformなどのすべての生産性向上アプリにCopilotを導入するという。価格とライセンスの詳細については、近日中に発表される。
デモの動画には、Microsoft 365でCopilotを使い娘の卒業パーティーを開く事例が描かれる。招待状やスライドショー、パーティーのプログラム、ToDoリスト、スピーチの原稿などを、指示を与えてCopilotがドラフトを作成。ドラフトを保持するか、修正するか、破棄するかをユーザーが決定し、修正する場合はさらに指示を与える、あるいは編集を行うなど、対話を通じて作業が進んでいく。ユーザーは「創造的」な指示や編集のみでコントロール、単調な作業はCopilotが肩代わりし、大きく時間を節約できる。
Copilotの本当の力は、ビジネスで創造性を解き放つ方法にあるという。デモではCopilotが指定した文書から提案書のドラフトを作成、編集や加筆を入れつつ「過去のファイルに見た目を似せて」「要約を入れて」「FAQを生成して」などの指示で完成させるさまが描かれる。できたWordファイルを瞬時にPowerPointに変換。「もっと視覚的に」「アニメーションを付けて」「サステナブルな取り組みのスライドを追加」など、Copilotとの対話とともに完成させる様子も興味深い。
またExcelではCopilotに売上データの分析を依頼。要約やシミュレーションを盛り込み売上分析ワークシートを作成する。Outlookでは優先すべきメールをCopilotが提案。モバイルでは長文メールの要約や返事のドラフトを生成する。こうしてCopilotにより大幅に作業のプロセスを節約し、ユーザーは「創造性」に集中できるというわけだ。
対話型AIは、AppleのSiri、GoogleのGoogleアシスタント、AmazonのAlexaなどが身近だが、最近は人間のように高度な答えを返す対話AIが大きく話題となっている。それは米OpenAI社が2022年11月に公開したAIチャットボット「ChatGPT」だ。
ChatGPTは、対話型のチャットサービスで、ユーザーが入力した質問に対して、人間が答えるような自然な対話形式で、幅広い分野の質問に詳細な回答を生成する。公開されるやいなや、回答精度の高さが話題となり、無料で利用できることもあって、飛躍的に利用者が増えた。ChatGPTの公式サイトの「TRY CHATGPT」から利用できる。ページは英語だが、下記の例のように日本語にも対応している。
「TRY CHATGPT」で複雑な質問を試す。インターネットの膨大なデータを学習しておりなかなかの回答を出している。ただし、正確ではない回答を返す可能性もあるので、注意が必要だ
ChatGPTは、小説や、ゲーム内での会話を生成する用途で作られた「GPT」という言語モデルがベース。インターネット上の膨大な情報を学習し、複雑な語彙(ごい)や表現も理解できる。無料で利用できるChatGPTは、GPT-3.5上で調整されている。
そして今年3月、OpenAIは後継バージョンの「GPT-4」を公開、「GPT-4は、高度な推論機能でChatGPTを上回ります」「GPT-4は、これまで以上に創造的で協力的です。曲の作成、脚本の作成、ユーザーの執筆スタイルの学習など、創造的および技術的な執筆タスクを生成、編集、および反復できます」と紹介されている。GPT-4はChatGPT以上に高度な対話型AIとして、大きく話題を呼んでいるが、現状では月額課金の有料サービス「ChatGPT Plus」、またはアプリやサービスのデベロッパー向けのAPIでのみ提供されている状況だ。
この一方でマイクロソフトは2月、Bing検索エンジンとEdgeブラウザーに、チャットとコンテンツ生成機能をもつ人工知能を搭載したと発表し、これを「Webの副操縦士」と呼ぶ。現在、ここにGPT-4が導入されており、「Bing.com」でプレビュー版が試せる。話題を新しいMicrosoft 365に戻せば、Microsoft 365に搭載されるCopilotは、「GPT-4」および各アプリとGPT-4を仲介する「Microsoft Graph」で構成される。
Microsoftの「Bing.com」を試す。検索結果の詳細情報のリンクも示されなかなか親切だ。ChatGPTと使い比べてみてもいいかもしれない
新しいMicrosoft 365により、単調な業務から解放され、創造的な業務に集中できるのは大きなメリットだ。まるで優秀な秘書や部下のように、Copilotに指示を与え、編集や加筆を行うだけで望みのものが出来上がる。忙しいビジネスパーソンに有用なのはもちろん、経営的な側面としてとは、経費削減、業務の効率化につながる可能性もあり、期待が高まるところだ。
デメリットとして考えられるのは、いくら高度なAIでも、限界があることだ。デモで示されるのは理想でしかない。目的や作業によっては、最初から人手で行ったほうが効率的な可能性もある。また、AIがはじき出す答えは高度だが、しばしば間違いもある。間違いを見分ける、真実を検証するのにさらなる手間がかからないか、なども気になる。ソフトウエアで新機能の追加時に起こる不具合や混乱にも注意が必要だ。本当に使い物になるには、ある程度の年月がかかる場合もある。Copilotはユーザーや組織のデータを利用するが、情報漏えいなどのセキュリティも気にかかる。
今回参照したデモは英語圏のものだ。これらが日本語にすぐに対応できるのか、日本における敬語や慣習、企業体制にも対応できるのか、今の日本の企業のDX化の進み具合や、われわれユーザーのITスキルでどこまで使いこなせるかも未知数だという点も考慮したい部分だろう。
とはいえ、新Microsoft 365のCopilotがどれだけ助けになるか、期待がかかる。今回のデモも興味深かった。日本のビジネスパーソンがCopilotを使いこなし、バリバリ創造的な仕事をすれば、日本は目覚ましく発展するのではないかという気もしている。企業のDX化においては、近年、日頃の定型業務を自動化するRPAがさまざまな分野に導入され、効率化のため大いに役立っているという。Copilotは高度なAIをベースに、人間の行う業務も肩代わりし効率化できるとされる。さらなるDX化の高度なツールとして新しいMicrosoft 365にも期待したい。
※掲載している情報は、記事執筆時点のものです
執筆=青木 恵美
長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。
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