IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第97回) ドローン登録制度始動。機体登録義務化とその影響

自動化・AI IT・テクノロジー

公開日:2022.06.21

 2022年6月20日以降、機体重量100g以上の無人航空機(ドローン、ラジコン機)に登録が必要となり、登録なしには飛行ができなくなった。国土交通省の「無人航空機登録ポータルサイト」では、「確実な登録を」と呼びかけている。

 これまで無人航空機の定義は、重量が200g以上とされてきたが、今回100g以上の機体が航空法の規制対象に変更された。6月20日以降、100g以上の無人航空機の全機体に登録記号を表示、識別情報を電波で遠隔発信するリモートID機能を備える必要がある。

 登録は「申請(オンラインまたは書類提出)」「入金(申請通過後、手数料を納付)」、「登録記号発行(申請した無人航空機の登録記号を受け取り機体に表示)」「リモートID書き込み(スマートフォンアプリを利用して書き込む)」という4つのステップで行われる。登録は機体ごと、3年ごとに更新する必要がある。詳しくは先述の「無人航空機登録ポータルサイト」や同省の「無人航空機登録ハンドブック」「ドローン登録システム」を参考にするとよいだろう。

 ところで、無人航空機登録ハンドブックによると、登録義務化にはドローンなどの無人航空機による不適切な飛行が課題となっている点が指摘されている。この点を以下で考えていこう。

義務化の理由。利活用の一方、事故や無許可飛行が頻発。安全確保も課題

 近年、空撮をはじめ、調査や監視、物資運搬などでドローンの利活用が増加傾向にあるが、人や建物、物体への危害、空撮によるプライバシー侵害や嫌がらせ行為、墜落や紛失などの問題が多発する中で、「機体所有者を特定できない」「安全上必要な措置を所有者に講じる必要が生じた場合に適切な対策をとることができない」などが課題とされてきた。

 ゆえに、無人航空機の所有者を把握することが極めて重要になっている。これらの背景を踏まえ、無人航空機の利活用拡大における安心・安全の確保のため、無人航空機の登録制度が創設された、というわけである。

 経過としては、2020年6月24日に公布された改正航空法において「所有者等の把握、危険性を有する機体の排除などを通じ無人航空機の飛行の安全の更なる向上を図る」目的で、無人航空機の機体登録制度が創設された。その後、手続きなどの詳細が規定され、2021年12月20日から事前登録が受付開始、2022年6月20日に義務化、といった流れだ。

操縦には免許制などの検討も

 機体登録と所有者特定の実現によって、相次ぐ事故や事件の報道に危惧を抱いていた我々にとって、ドローン利用に統制が取れる方向に一歩進んで、ほっと胸をなでおろした部分もある。

 ただし、機体登録は行われても、心配なのは操作の問題だ。現状、日本ではドローンの操縦に免許は不要だ。しかし、航空法をはじめ小型無人機等飛行禁止法、道路交通法などさまざまな法律に基づいた安全な操作や管理を行わなければ、処罰対象にもなり得る。できれば、授業や実技などの講習会、免許・資格制度があればありがたい。

 国土交通省の「レベル4飛行の実現に向けた新たな制度整備等」において、「操縦ライセンス制度の概要」に「無人航空機を飛行させるために必要な知識及び能力を有することを証明する制度(技能証明)を創設」とある。制度は2022年7月までに要件策定、12月に施行される予定だ。

 なお上記において、現行で飛行が認められていない「レベル4」の飛行(有人地帯における目視外飛行)が可能となる。これは「第三者上空を飛行しての荷物輸送等」が実現できることを意味し、ドローンのさらなる利活用が現実となる。

 また航空法の附則(平成二七年九月一一日法律第六七号)には、「無人航空機に関連する技術の進歩の状況、無人航空機の利用の多様化の状況その他の事情を勘案し、無人航空機の飛行の安全に一層寄与し、かつ、無人航空機を使用する事業の健全な発展に資する方策について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」とある。

ドローンのビジネス活用あれこれ

 飛行機やヘリコプター型でリモコン操作を行う、いわゆる「ラジコン」は玩具や趣味、もしくは農薬散布などの実用で古くから使われてきた。また、3つ以上の回転翼を備えたマルチコプタータイプの「ドローン」は、第二次世界大戦中に開発されたとされ、主に軍事用に研究が重ねられてきた。

 ドローンが娯楽用として広まるきっかけが、2010年にフランスのParrot社が発売した「AR Drone」だったという。「AR Drone」は、初めて登場した一般消費者向けのドローンで、スマートフォンで操縦可能で、空撮映像をリアルタイムに視聴できる画期的な機能が備わりドローン・ブームの火付け役となった。

 ドローンの恩恵が一番分かりやすいのが「空撮」だろう。これらは現在、映像ドキュメントやテレビ番組、映画、スポーツ中継など、あちこちで見ることができる。それまで有人のヘリコプターや飛行機、無人で撮影を行う場合はポールやワイヤなど大がかりな装置が必要だった。しかし、空撮によって撮影はドローン1台で容易に実現されるようになった。そのほか、農薬散布や点検用といった広範な産業においても利活用が盛んになった。

未来展望~業務効率化などに人手を介さないテクノロジー活用広がる

 上記で紹介した各種の動きが加速しているのは、今まで人が行っていた作業をドローンが行うことで人手不足対策やコスト削減、危険を伴う作業負担軽減など多くのメリットが得られるためだ。さらに、離島や山間部の過疎地域や災害で孤立している地域への物資供給、ドローン利用の宅配など可能性は無限に広がる。

 そのほか物資運搬や大規模測量、施設点検など、AIや多様なIoTを活用したセンシング、データ解析技術なども組み合わせたさまざまな実証実験が各地で行われている。ドローン以外でも、人手を介さないことで業務効率化や精度向上をもたらす各種のテクノロジーは枚挙にいとまがない。弱いAIと称されるRPAなどはその代表格といえる。こうしたテクノロジーの動向を踏まえ、積極的に業務に採り入れていきたい。

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

【T】

あわせて読みたい記事

連載バックナンバー

IT時事ネタキーワード「これが気になる!」