IT時事ネタキーワード「これが気になる!」(第149回) マイナ保険証、利用率1割に届かず。現行保険証の廃止まで5カ月

時事潮流 デジタル化

公開日:2024.08.30

 いわゆる「マイナ保険証」は、マイナンバーカードの健康保険証利用のことだ。そして、現在、マイナンバーカードは医療機関・薬局で健康保険証として利用できる。利用の際はカードを自分で顔認証付きカードリーダーに入れて受付を行う。顔認証付きカードリーダーを利用することで、「これまでよりも正確な本人確認や過去の医療情報の提供に関する同意取得などを行うことができ、より良い医療を受けることができる」という点がその趣旨だ(詳しくは厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用について」を参考に)。

「利用率1割に届かず」との発表。現行保険証の廃止期限迫る

 このマイナ保険証だが、2024年6月の利用率は9.9%。つまり、1割にも満たない状況というデータが先日公表された。ご存じと思うが、現行の健康保険証発行は今年12月2日で終了し、マイナ保険証の利用を基本とする仕組みに移行する。移行期日までにあと4カ月の状況で、利用率が1割を切る、現状には危機感を抱く。マイナンバーカードの保険証利用は2021年10月20日から始まっている(デジタル庁「マイナンバーカードの健康保険証利用の本格運用がスタートしました」)はずで、それから約3年が経過している。

 筆者自身は、かかりつけ医に行く場合、必ず受付カウンターにあるカードリーダーでマイナンバーカードを読み取る。あとでデータなどがチェックできて便利だからだ。ただ、受付では毎回、紙の健康保険証の提出も求められ、医院事務は紙の保険証で行われているようだ(なお、自分の他にマイナ保険証は、1回誰かが読み込ませているのを見ただけでカードリーダーはほぼ使われていない状況に見える)。

 先ほど触れた厚生労働省のWebページ内の「現行の健康保険証の新規発行終了について」では「2024年12月2日時点で有効な健康保険証は最大1年間有効とする経過措置が設けられています」とあり、少しほっとする。

 ただし「経過措置期間中に発行済保険証の有効期間が到来した場合や、転職・転居などで保険者の異動が生じた場合は失効します」とのただし書きからすると、フルに1年使えるとは限らなさそうだ。例えば、筆者の健康保険証には、有効期限「令和7年(2025年)7月31日」とあり来年7月には失効する。

 このような経過措置において、マイナ保険証にすべてを移行させる(10%を100%にする)ことは可能なのだろうか。多少なりとも疑問が残るところだ(なお、カードは作っただけでは健康保険証として利用できない。申請や登録、受付など手続きが必要なので注意が必要だ。現状では紙の健康保険証しか使っていない場合であっても、「マイナンバーカードの健康保険証利用方法」に従いって登録しておこう)。

「メリット感じない」「持ち歩きづらい」など課題は多数。解決の糸口は?

 マイナ保険証、なぜここまで普及の歩みが遅いのだろう。以下では、その糸口を探っていこう。まず7月3日の厚生労働省「マイナ保険証の利用促進等について」を見てみる。「医療機関等におけるマイナ保険証の利用時に生じる主な事象・課題への対応」として、主な事象や課題について「解決に向けた対応」が書かれている。

 多くの人々にとって大きな不安は、ここに記載されている「マイナ保険証がエラーで使えない」「別人に紐づけられている」などのトラブルだろう。例えば、「病院や医院に行って、保険証が無効とされて診療費全額(10割負担)を請求されること」や「診療が受けられない、手続きに手間取ったために処置が手遅れになる」など事態は避けたい。こうしたリスクがある中では、(有効な限り)確実な紙の健康保険証を使いたい、と、患者も医療機関側も思ってしまう。

 いわゆる「マイナンバーカード詐欺」のニュースもよく聞く。例えば、マイナンバーカード情報を聞き出して偽のマイナンバーカードを作ってスマホを契約したり、お金を借りたりするなどの手口などだ。詐欺行為が横行するなら、「マイナンバーカードは使わない、見せない、持ち歩かないのが一番」、と思う人も多いだろう。筆者はマイナンバーカードを持ち歩いているが、もしサイフを落としたり、かばんを置き忘れたり、読み取り機に入れたまま忘れるなどでカードを紛失したら、悪意ある者の手に渡ったらという一抹の不安を心に残したまま使っている。

 では、マイナ保険証のメリットとはどのようなものだろうか。改めて整理したい。厚生労働省の「マイナンバーカードの健康保険証利用のメリット」によると(1)データに基づくより良い医療が受けられる、(2)手続きなしで高額療養費の限度額を超える支払いが免除される、(3)マイナポータルで確定申告時に医療費控除が簡単にできる、(4)医療現場で働く人の負担を軽減できる、という4点だ。ここには「マイナンバーカードと従来の健康保険証との比較」や「マンガでわかるメリット」の他、動画「どうやって使うの?実践編」もあってわかりやすい。

 もっとも、これらの利点を享受するには、すべてのデータが間違いなく整っている、システムがエラーなくちゃんと動く、皆(患者も医療機関側も)がスムーズに使える、の3拍子が前提となる。利用率が10%を切る現状から、「マイナンバーカードの健康保険証利用のメリット」を見ると、その実現には並々ならぬ努力が必要かと思われる。

マイナ保険証、今後どうなる? 保険証利用に慎重な声も

 冒頭で紹介した「マイナ保険証の利用促進等について」には、マイナ保険証の現状(主な事象や課題)と、今後(解決に向けた対応)が書かれている。また、マイナンバーカードによる資格確認ができない場合の対応や、医療機関・薬局にマイナンバーカードを持参された方の資格確認と請求の流れなども詳細に整理されている。

 しかし、これだけのものを医療機関や薬局の受付の方が覚えて、使いこなすのはなかなか難しそうだ。日々の診療や業務に追われ、それでなくとも人手不足な世の中だ。慎重な姿勢を見せる例も多々ある。例えば、全国保険医団体連合会は「2024年秋の保険証廃止方針は撤回を」といったメッセージを発信し、さまざまな情報を挙げている。多くの医療機関などでは、他の業界と同様に人手不足に悩まされるケースも数多い状況だ。そんな中で、マイナ保険証は、自分(もしくは付き添いの人が介助しつつ)カードを読み取り機に入れ、顔認証やデータ提供に同意などを行わなくてはならず(「どうやって使うの?実践編」)、すべての人がスムーズにできるのだろうか。さまざまな混乱を生みかねない状況で、マイナ保険証を押し切ってしまうのは、あまり「良い選択」とは思えないのは、筆者だけだろうか。

 一般に、物事を滞りなく行うには、環境を整えて、リハーサルを重ね、ミスなくできるようになって初めて本番を迎えるというステップが必要だ。これは演劇やイベント、ビジネス上のプレゼンテーションなどでも普通のことだ。筆者の感覚では、マイナ保険証は、現在の利用率10%から、12月までにおおよそ20~30%に届く程度なのではと予想している。利用が一般的になるまでは、まだ時間がかかるだろう。利用率が40~50%近くになったあたりで本格運用し、利用率80%~90%となり多くの人にとって身近な存在になった段階で紙の保険証を廃止する。その上で、残りの10~20%の人をサポートするという肌感覚でないと政府構想の実現は難しいのでは、と思う。高齢化社会における、「高齢者患者が増え続ける現状」と、「業務に追われる医療現場」という実情も忘れてはならない視点だろう。医療現場の現状と将来像を踏まえ、拙速にことを進めるのではなく堅実に整備を進めていく姿勢が必要ではないだろうか。

 もちろん、今のままのスケジュールでもかまわない。ただし、先述のようにデータの整合性やシステムエラーなどが発生しないという条件が実現できれば、の話である。これまで、マイナンバーカードにまつわる話題ではエラーやトラブルが数多かった。関連する詐欺が撲滅できてないのも多くの人々にとっての関心事だ。データの流出などセキュリティ対策にも疑問が残るところだ。気になる論点は話題に尽きないが、政府の掲げる「誰一人取り残されない」という理念に基づき、丁寧に、ムリのない状態で普及が図られていくことを願っている。私たちも様子を見守りつつ、心とカードの準備をして、「マイナンバーカードの健康保険証利用のメリット」が実現できるよう、努力していこう。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

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