税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第31回) ここまで勉強!「区分記載請求書等保存方式」

資金・経費

公開日:2018.10.31

 前々回の記事で、2019年10月1日から予定されている消費税率引き上げ後に導入される経理の新制度の概要を解説しました。

 そこで紹介したように、まず仕入税額控除に新方式の「区分記載請求書等保存方式」が2019年10月1日から2023年9月30日までの4年間、適用されます。続く2023年10月1日からは「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」が導入される予定です。このように仕入税額控除の経理処理は大きく変わります。

 経理の実務は、経理担当者だけが知っておけばよいと思うかもしれません。しかし、今回のような大きな変更では、経理担当者の業務負担がどのくらい増すのか、営業担当者や購買担当者などの確認事項がどのくらい増えるのか、帳票などをどの程度変えなくてはならないのかを考えて、経営陣が適切な処置を取る必要があります。そのためには、実務の変化をある程度押さえておかなくてはなりません。

 この記事では、第1段階である区分記載請求書等保存方式の実務と、この期間に一定の事業者に適用される税額計算の特例に関することについて説明します。次回は適格請求書等保存方式に関することや、免税事業者との取引の特例について触れていきます。

現行の請求書と区分記載請求書の違い

 仕入れで支払った消費税額は、帳簿に記載するとともに、客観的な証拠書類として取引相手が発行した請求書を保存することになっています。これが現行の請求書等保存方式という制度です。現行制度では、請求書に「請求書発行者の氏名または名称」「取引年月日」「取引の内容」「取引金額」「請求書受領者の氏名または名称」の5項目が記載されていることが要件となっています。

 これが、区分記載請求書等保存方式に移行すると、さらに2項目が追加されます。追加項目は「軽減税率対象品目である旨」と「税率区分ごとの合計請求額(税込み)」ですが、記載方法については、客観的に分かればよいとされています。国税庁では、客観的に分かる記載方法として「軽減税率対象品目に記号を付す」「請求書内で対象品目を税率ごとにグループ分けする」「税率ごとに請求書を分ける」といったものを挙げています。

 追加項目が記載されていない請求書を受領した事業者は、事実に基づき追記することが認められています。つまり請求書受領者が追記した請求書でも、仕入税額控除が認められます。

 さらに、3万円未満の取引については、現行制度と同じように請求書などの保存は必要ありません。ただし、3万円未満の取引を仕訳する際には、帳簿に「軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨」を記載することが要件となっています。

税率区分が困難な中小事業者への経過措置

 事業や取引の様態によっては、軽減税率が導入されても、売り上げまたは仕入れを消費税率ごとに区分することが困難な事業者もいるでしょう。そのような事業者には、仕入税額控除を行うための経過措置(特例)が設けられています。

 「中小事業者の税額計算の特例」というもので、売り上げ・仕入れにおいて区分が困難な範囲によって適用される計算の種類が異なる、というものです。それらは売り上げで3種類、仕入れで2種類の特例が設けられています。対象は、前々年または前々事業年度の課税売上高が5千万円以下の中小事業者です。

 ただし、売り上げと仕入れで、税額計算の特例が適用される期間が異なりますので注意してください。売り上げの特例は、軽減税率導入から4年間(決算期に関係なく2019年10月1日から2023年9月30日まで)のみに適用されます。一方、仕入れの特例は適用期間が短く、2019年10月1日から2020年9月30日の属する課税期間の末日までです。

売上税額計算の特例は仕入れの区分が可能な範囲で分類

 それではまず、売上税額の計算から解説しましょう。対象は、課税仕入れ(税込み)は区分ができるが、課税売り上げ(税込み)を区分できない事業者です。

 そのような事業者には、課税売り上げ(税込み)の合計額に「一定の割合」を掛けて、軽減税率の対象となる課税売り上げ(税込み)を税額計算するという特例です。その「一定の割合」を算出するのに、仕入れの区分が可能な範囲から、「小売等軽減仕入割」「軽減売上割合」「50/100」という3種類に分けられています。

●小売等軽減仕入割
 1種類目「小売等軽減仕入割」の対象は、卸売・小売業の事業者で、仕入れの総額を税率ごとに区分できる中小事業者に適用されます。例えばスーパーを営み、仕入れは軽減税率対象品の野菜と対象外の酒類などに区分できるが、売り上げの区分ができないというケースです。

 このような事業者は、仕入れた商品をそのまま販売するため、売り上げに占める軽減税率対象品目の割合と、仕入れに占める軽減税率対象品目の割合がおおむね一致するという特徴があります。その特徴から、仕入れに占める軽減対象品目の割合を「一定の割合」と見なし、課税売り上げに係る軽減税率対象品目の消費税額を計算するものです。

 ただし、特例の適用を受けようとする課税期間中に簡易課税制度(業種ごとにみなし仕入率を適用して仕入税額控除を算出する制度)の適用を受けないという条件があります。

●軽減売上割合
 2種類目「軽減売上割合」の対象は、仕入れの総額を区分できないが、通常の連続する10営業日の売り上げは区分できる中小事業者です。この特例は、卸売・小売業という条件はなく、軽減対象資産の譲渡を行う事業者であれば、業種に関係なく適用することができます。

 通常の連続する10営業日を区分けすることで、それを一定の割合である「軽減売上割合」と見なして、課税売り上げに係る軽減税率対象品目の消費税額を計算します。短期間のサンプルを、1年間の総額に割り当てようというものです。

●50/100
 3種類目「50/100」の対象は、「小売等軽減仕入割合」「軽減売上割合」での区分や計算が困難な事業者です。この場合、売上総額の50%を軽減税率対象品目と見なして、課税売り上げに係る消費税額を計算します。主な対象は、軽減税率対象品目を販売するような事業者です。

仕入れの特例は売り上げの区分ができる・できないで分類

 一方、仕入税額計算の特例対象は、課税仕入れ(税込み)を区分できない事業者です。こちらの計算では、売り上げを区分できる・できないの2種類で分類されています。

 1種類目は「小売等軽減売上割合」です。前述の売上税額の特例「小売等軽減仕入割合」の逆で、仕入れの区分はできないが、売り上げの区分はできる卸売・小売業の中小事業者になります。売り上げの区分から仕入れの軽減対象品目の割合を算出し、課税仕入れに係る消費税額を計算します。

 2種類目は「簡易課税制度の届け出」です。対象は、小売等軽減売上割の計算が困難や、売り上げの区分ができない中小事業者になります。課税売り上げに係る消費税額に、業種ごとに定められたみなし仕入率を掛けて、課税仕入れに係る消費税額を、簡易的に算出するものです。

 この簡易課税制度を選択する際には、届け出期間に注意しましょう。本来は適用しようとする課税期間の初日の前日までに、簡易課税制度選択届出書を所轄税務署長に提出することが義務付けられていますが、特例では2019年7月1日以後、簡易課税制度を適用しようとする課税期間の末日までに届け出を提出すれば適用が認められます。

適格請求書等保存方式導入前の準備期間

 今回紹介した区分記載請求書等保存方式の導入期間は、4年間に限定されています。これはその後に導入される適格請求書等保存方式(インボイス方式)へのスムーズな移行のための準備期間であるという見方ができます。

 前述の通り、区分記載請求書等保存方式では、請求書受領者が不足部分を追記可能であるいう特徴があります。もし追記不可なら、請求書発行システムの変更で遅れや漏れなどが発生すれば、再発行という二度手間が生じます。まずは現行の制度をベースとした区分記載請求書等保存方式に慣れることで、その後の適格請求書等保存方式となった際に、経理処理を円滑に継続できるというのが税務当局の狙いです。

 また事業者側で中小事業者の税額計算の特例を適用するか否かを判断する際、軽減税率の区分が困難であるかどうかは、そのときの実態により判断することになります。ですから特例の概要や要件についても、事前に調査・理解しておいたほうがよいでしょう。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年10月1日)のものです

執筆=伯母 敏子

プロフィール:税理士。大学卒業後、大手リース会社の営業職として中小企業経営者に向けた融資、リース契約、保険の販売等さまざまな金融商品の取り扱いを経験。その後、個人税理士事務所へ転職。平成27年に税理士試験合格。平成28年4月に税理士登録、平成29年11月に伯母敏子税理士事務所として独立開業。現在は新宿区神楽坂にて中小企業の経営、事業承継、法人成り、クラウド会計、経理事務改善の提案等のサポートを通じて中小企業経営者向けサービスを提供している。 https://uba-tax.com/

【T】

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