ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
(2024.6.17更新)
6月になると気になるのが、夏のボーナスではないでしょうか。一般財団法人労務行政研究所が、東証プライム上場企業のうち114社から回答を得た集計結果によれば、2024年夏のボーナスの妥結額は、全産業平均で84万6021円。対前年同期比で4.6%の増加です。
2020年に新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化し、2021年夏のボーナスは▲2.5%と大幅ダウンしました。2022年夏からは3年連続の増加で、2024年は1970年の調査開始以来、妥結水準額が最高額の80万円台になりました。
ところが、多くのビジネスパーソンは、平均額よりも「自分の会社は、自分の場合はいくらなのか」が重要で、他の会社と比較しても仕方ないと、少なからず考えています。ボーナスの支給後に転職するケースもあり、支給額の高低は社員のモチベーションを左右する1つといっても過言ではないでしょう。
そこで、今回は社員のモチベーションを上げる効果的なボーナスの支給について考えてみます。
社員の多くは会社の業績を肌感覚で分かっています。特に中小企業の場合はそれが顕著です。そのため、マスコミで報道される全国平均と比べて自社のボーナスが少なくても、支給されるだけでも「ありがたい」と思う人もいるでしょう。こうした雰囲気が社内にあるのならば、経営者は「皆さんの働きのおかげでボーナスを支給できた。冬のボーナスはさらに還元できるように頑張るので、社員の皆さんも会社を盛り立ててほしい」など、感謝の心を伝えつつ、リーダシップを発揮しながら今後につなげることが重要です。
自分たちの行動や結果とともにボーナスの金額が上がっていけば、社員のモチベーションも変わってきます。つまり、「ボーナスは自動的に出るものではない」という認識の共有が何より大事ではないでしょうか。中小企業の場合、財務状況に影響するボーナスは、一律に決めにくい部分もあります。それゆえ、ルール化できない場合は、社員に「業績に応じて決めていく」といった説明をしっかりして、納得してもらえる努力をしなければなりません。ここで最も気をつけなくてはならないのが、配分方法をできるだけオープンにすることです。経営者がうそをついて社員のボーナスを低く設定していると誤解される場合があるからです。
決算期に支給する「決算賞与」も、うまく使えば有効な節税になるほか、社員にとってもモチベーションアップにつながります。
ボーナスが夏・冬の年2回支給なら、効果的な支給の仕方を考えてみましょう。夏・冬というのは、単に世間の風潮に合わせているに過ぎません。これは、税務戦略と社員のモチベーションアップという面から考えると最善策とはいえません。
年2回支給で効果的なのは、決算期とその半年後です。支給時期が決算期なら「決算賞与」にでき、決算賞与はその年の会社の利益を社員に分配するという意味合いがあります。決算賞与を出している会社は少なくありませんが、夏・冬のボーナスが主で、決算賞与は副次的な扱いになっています。
しかし、税務戦略と社員のモチベーションアップを考えると、決算賞与こそメインのボーナスにするべきだと考えます。なぜなら、決算賞与は会社の利益を調整するのに適したアイテムであり、このままではかなりの納税になると想定されるなら、景気よく決算賞与を出して、利益を吐き出せばいいのです。
社員にとっても、業績が上がった分の見返りがあればモチベーションアップにつながり、会社拡大の大きな力になっていきます。最近では人手不足問題がありますが、社員の定着率アップにもつながっていくと考えられます。利益が出たら同じだけ決算賞与を出せば利益はゼロになるため、法人税をはじめ会社の利益にかかる税金は発生しません。
決算賞与で注意が必要なのが、法人税法上、社員(使用人)に支給するボーナスの額は、適用要件を満たさなければ損金計上できない点です。決算賞与の支給時期は、法人税法施行令72条の3第2号にて企業の決算月から1カ月以内と定められています。例えば決算月が9月である場合、企業は9月中に金額を決定し、社員に通知して10月末日までに支給します。
決算賞与を損金算入するには、法人税法施行令第72条の3第2号に定められている要件を満たす必要があります。要件は以下の3つです。
1.支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知をしている。
2.1の通知をした金額を通知したすべての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1カ月以内に支払っている。
3.支給額につき1の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしている。
上記をすべて満たす場合に、決算賞与を損金算入できます。
決算期の半年後にボーナス支給を決めておくメリットの1つは、そこでまた利益調整ができるからです。新年度になり、思った以上に売り上げが伸びていないのなら、決算期から半年後のボーナスで調整すればいいのです。年間支給するボーナスは大まかに何カ月分と決めておき、1回のボーナスの額は会社側で任意で決めると社員にアナウンスする。社員としては、年間の総支給額が変わらないのであれば、1回のボーナスの額が増減しても異存はないはずです。
会社で損金計上できるアイテムの1つに福利厚生費があります。福利厚生費とは、社員の福利厚生などにかける費用です。
利益を見込める事業年度は、社員への慰労や社員同士のコミュニケーションを深めることを目的に、会社が負担する社員旅行の実施もよいでしょう。社員旅行は節税対策と社員のモチベーションアップを期待できます。会社が負担した旅費は、「福利厚生費」として経費にできます。
ただし、すべてを福利厚生費として計上できるわけではありません。社員旅行の規模によっては福利厚生費と認められず、社員への給与と認定される場合があるので、一定のルールを知っておく必要があります。国税当局は、どの程度の社員旅行なら経費として認めるのでしょうか。
(1)旅行の期間が4泊5日以内であること(海外旅行の場合は外国での滞在日数が4泊5日以内)。
(2)旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であること。
上記が国税庁の基準になります。工場や支店などの職場を単位とした社員旅行を実施する場合は、それぞれの職場の人数の50%以上の参加が必要です。会社が負担する費用にも一定の目安を設けており、おおむね1人15万円程度までなら給与課税されないと思われます。国内か国外かは関係ありません。あくまで金額ベースで考えるとよいでしょう。
ここで注意すべきは、自己都合で旅行に参加しなかった社員にお金などを支給する場合です。旅行の不参加者に金銭を支給すると、参加した人に対しても不参加者に支給した金銭の額について給与課税されてしまいます。そのため不参加社員には金銭を渡すのではなく、土産を渡す程度にとどめておけばよいでしょう。この場合の土産は世間の常識の範囲というのが一般的で、3000円前後であれば国税当局も認めてくれるはずです。
いずれにしても、来期の会社の成長に寄与するのは社員であり、そこに投資するのは価値あるお金の使い方といえます。ボーナスの支給は賞与であれ社員旅行であれ、節税面だけでなく来期の財務・投資効果などを総合的に勘案し、検討していきたいものです。
執筆=一般社団法人租税調査研究会
一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は55名。会員会計事務所は約100会計事務所。
主な著書に『一冊ですべてわかる!暗号資産の税務処理と調査対応のポイント』(第一法規)、『国税OB税理士による 税務調査のすべて』(大蔵財務協会)、『加算税の最新実務と税務調査対応Q&A判決・裁決・事例で解説』(大蔵財務協会)、『税目別ケースで読み解く!国際課税の税務調査対応マニュアル』(ぎょうせい)等多数。
監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。
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