ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
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地方から都市部に就職したり、勤めている会社で転勤になったりした際に、住宅手当や社宅があるとありがたいものです。似たような制度にも思える住宅手当と社宅ですが、実は会社や従業員にとって、税金などの取り扱いが変わってきます。
自社で住宅手当、社宅の制度導入を検討する場合には、相違点に注意しなければなりません。今回は、「住宅手当と社宅ではどちらがお得なのか?」という視点から、両者の違いについて確認してみたいと思います。
住宅手当は、生活保護あるいは福利厚生などを目的として、一定の基準を満たす従業員に支給する手当になります。具体的な支給基準は各社で定める支給規程などに従うことになりますが、一般には「世帯主であること」や「実家に住んでいないこと」などを要件とする場合が多い手当です。
これに対して、社宅は従業員のために会社が用意した住宅であり、従業員から一定の賃料を徴収して使用させることが一般的です。従業員は通常の家賃より安く住宅を借りることができるため、こちらも福利厚生として機能します。社宅には、自社が保有する物件を使用する「社有社宅」と、会社が他者から賃借した物件を使用する「借り上げ社宅」があります。
住宅手当は金銭として支給するのに対して、社宅は住居という現物を提供します。そのため住宅手当は従業員に対する給与という性格を持ちますが、従業員から一定の賃料を徴収している社宅は、必ずしも給与とはならない点で異なります。
従業員の視点でみると、住宅手当と社宅ではどちらがお得になるでしょうか。結論としては、社宅のほうがお得になる場合が多いといえます。これは住宅手当が「給与」として扱われることに起因します。
例えば、家賃の月額が7万円のワンルームマンションを従業員に社宅として提供するケースを考えてみましょう。従業員からは月額4万円の賃料を徴収するケースでは、その差額の3万円が従業員にとっての経済的利益となります。そして、この3万円の実質的な利益には基本的に税金などがかかりません。
これに対して、3万円を住宅手当として給与と一緒に受け取った場合には、従業員にとっての給与所得となりますので、所得税や住民税が課税されます。また住宅手当は社会保険料などの算定基礎にも含まれますので、健康保険、厚生年金保険、労働保険などの保険料も増えることになります。
では逆に、経営者(あるいは会社)にとってはどのような違いがあるでしょうか。社宅のケースでは、会社が負担する3万円相当が福利厚生費として経費処理されます。つまり、会社の所得が経費の分だけ減ることになるため、法人税などの節税効果があります。
同じ3万円を住宅手当として支給するケースでは、給与支給と同じ扱いになりますので、会社の経費として処理される点では変わりません。しかし、従業員の給与が増えた分だけ、会社負担分の社会保険料が増加するため、社宅の場合より会社の負担額は多くなります。
このように、従業員にとっても、会社側にとっても、社宅のほうがお得になることが多いといえます。しかし、いくつか注意しておかなければならない点もあります。
まず、社宅が給与として課税されないためには、「賃貸料相当額」の50%以上の賃料を従業員から徴収する必要があります。「賃貸料相当額」というのは、(1)「その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%」と(2)「12円×その建物の総床面積(平米)/3.3(平米)」と(3)「その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%」の合計額になります。一般的には、通常の家賃相場より「賃貸料相当額」のほうが低くなる傾向にあります。
仮に社宅を無料で従業員に使用させている場合は、上記の賃貸料相当額が給与として課税されることになります。また、賃貸料相当額より低い賃料を会社が受け取っている場合は、原則として賃貸料相当額と受け取った賃料の差額が給与として課税されます。しかし、賃貸料相当額の50%以上の賃料を会社が受け取っている場合には、差額分について課税されないことになっています。
社宅を従業員ではなく役員に使用させている場合には、その住宅が「小規模な住宅」に該当するかどうかで、賃貸料相当額の算定式が異なってくることになり、注意が必要です。また、いわゆる「豪華社宅」に該当する場合には、算定式が適用されず「通常支払うべき使用料に相当する額」を元に課税関係が決められます。なお、小規模な住宅や豪華社宅や通常支払うべき使用料に相当する額などについての判断は、税法や通達で定められた数値基準によって行うことになります。
住宅手当を支給するケースと異なり、社宅を提供するケースでは物件管理や契約管理が必要となります。特に、社有社宅の場合だと、初期投資の負担に加え、固定資産税や都市計画税などの支払い、老朽化への対応なども必要となってきます。それらの負担を回避できるという点では、住宅手当の支給にも一定のメリットがあるといえるでしょう。
従業員にとっては、社宅のメリットは大きいものの、転居の自由度が制限されるという難点もあります。その点、住宅手当であれば、会社に気兼ねなく自由に転居できるという良い面もあります。
以上のように、一般的には、税制面で社宅のほうがお得な場合が多いです。しかし、実際の導入にあたっては、税金などの金銭面だけでなく、事務処理上の手間や従業員にとっての利便性なども考慮の上、住宅手当と社宅の優劣を比較検討してみることが大切といえます。
執筆=北川 ワタル(studio woofoo)
公認会計士/税理士。2001年、公認会計士第二次試験に合格後、大手監査法人、中堅監査法人にて金融商品取引法監査、会社法監査に従事。上場企業の監査の他、リファーラル業務、IFRSアドバイザリー、IPO(株式公開)支援、学校法人監査、デューデリジェンス、金融機関監査等を経験。2012年、株式会社ダーチャコンセプトを設立し独立。2013年、経営革新等支援機関認定、税理士登録。スタートアップ企業の支援から連結納税・国際税務まで財務・会計・税務を主軸とした幅広いアドバイザリーサービスを提供。
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