ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
働き方改革を実行するため、生産性の向上に努める中小企業経営者の方も多いでしょう。その手段の1つとして、売上管理ソフトや顧客管理ソフトといった生産性の向上に寄与するソフトウエアの導入があります。今回は、自社が利用する目的でソフトウエアを導入した際の経理・税務処理について確認しておきます。
税務上、ソフトウエアとはコンピューターを動かすプログラムのことを意味します。広い意味では、プログラムが処理するデータも含まれます。コンピューター自体や周辺機器など目に見える機器をハードウエアと呼ぶのに対し、ソフトウエアは目で見ることができないものです。
ソフトウエア自体は具体的な形がないので税務上は無形固定資産となり、固定資産税はかかりません。購入した場合、ソフトウエア本体の購入代金だけでなく、自社で使えるようにするための設定費用やカスタマイズした際の費用が発生した場合も、取得価額として取り扱われます。
今まで使っていたシステムを新システムにバージョンアップする費用は、将来の収入獲得または支出削減が確実と認められる場合には資産として計上し、それ以外の場合には損金として処理します。
ソフトウエア1つの取得価額が10万円未満の場合は、事業年度に損金として処理します。青色申告を行っている中小企業は、30万円未満まで全額を損金に算入できる特例があります。この特例の1事業年度の総額は300万円までになっています。
単年度に損金処理をするのではなく、減価償却をする場合、その期間は、ソフトウエア開発や研究目的でなければ5年間です。10万円以上20万円未満の場合には、3年間に3分の1ずつ損金計上する一括償却資産として均等償却も選択できます。ただし、2年以内に売却や廃棄などをした場合でも、3年にわたって償却しなければならないので注意が必要です。
ソフトウエア購入時に支払った消費税は、購入した事業年度に仕入税額を全額控除することができます。
パッケージとして購入するのではなく、料金を月払いや年払いするサブスクリプションモデルでソフトウエアを利用することもあると思います。その場合、月支払いであれば損金処理ができます。年払いの場合、支払った日から1年以内に提供を受けるものであれば短期前払費用となり、同じく損金処理することが可能です。
最近は、ソフトウエア(システム)やデータをサーバーに置いて利用しているケースもあるでしょう。そうしたサーバーを自社で所有している場合、固定資産の器具および備品に該当するため、5年にわたって減価償却します。また、固定資産税の課税対象となります。
しかし、同じようにサーバー上にシステムやデータを置いていても、レンタルサーバーやクラウドを活用している場合の使用料は、資産計上をするのではなく損金処理ができます。サブスクリプションと同様に、前述した短期前払費用として損金算入することも可能です。固定資産税は課税されません。
自社ウェブサイトのプログラムを修正したり、自社でソフトウエアを開発したりした場合は、原則として、ソフトウエアを購入した場合と同様に、無形固定資産として資産計上します。
IT専任の従業員を雇用している場合は、従業員に対して給与を支払うので消費税は発生しません。毎月の給与についての源泉徴収義務や年末調整業務を行うこととなります。対して、業務をアウトソーシングした場合は、外注費として経理処理され、支払額の消費税は仕入税額控除の対象となりますので、自社の消費税を減税する効果があります。
近年、ITの利用形態は多様化しています。購入した場合は消費税の全額を控除できるメリットがあり、サブスクリプションの活用やレンタルであれば損金として処理できます。減価償却できるものを選ぶのか、それとも損金処理できるものを選ぶのか、自社の税務処理や資金繰りを考慮して、適したものを取り入れてみてはいかがでしょうか。
ITの導入については2019年、中小企業・小規模事業者向けに「IT導入補助金」制度が実施されました。ソフトウエアなどの導入費用の2分の1までを補助する制度です。2020年度予算の経済産業省の概算要求にも、同制度の実施が盛り込まれています。こうした補助金を積極的に活用して、生産性向上に役立つソフトウエアを積極的に導入し、今回の紹介したポイントに注意して、会計処理を実行してください。(2019年度分「IT導入補助金」の公募期間は終了しています)
※掲載している情報は、記事執筆時点(2019年9月30日)のものです
【関連記事・参考資料】
国税庁HP:短期前払費用として損金算入ができる場合
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5380.htm
執筆=並木 一真
税理士、1級ファイナンシャルプランナー技能士、相続診断士、事業承継・M&Aエキスパート。会計事務所勤務を経て2018年8月に税理士登録。現在、地元である群馬県伊勢崎市にて開業し、法人税・相続税・節税対策・事業承継・補助金支援・社会福祉法人会計等を中心に幅広く税理士業務に取り組んでいる。 https://namiki-kaikei.tkcnf.com/
【T】
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