税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第45回) 令和元年分確定申告では改正事項に要注意

資金・経費

公開日:2020.01.27

 中小事業者や法人の経営者で所得税確定申告の対象となる場合は、毎年2月16日から3月15日までに申告しなければなりません。令和元年(2019年)分の申告期限は、暦の関係で令和2年2月17日から3月16日までになります。

 今回は、2019年分の確定申告について、改正事項を中心に解説します。

令和元年に適用される主な改正事項

 2019年の税制改正では事業所得などにおいて大きな変更はありませんでした。ただ、所得税額控除の適用や仮想通貨などに関しては改正がありました。また、これまでは添付が必要だった源泉徴収票などが添付不要になり、確定申告書作成時の負担が減ります。そうした項目を、簡単に説明しましょう。

給与などの引き上げおよび設備投資を行った場合などの所得税額の特別控除(所得拡大促進税制)
青色申告書を提出する中小事業者が、2019年から2021年までの各年において、国内雇用者に対して支払う給与などの支給額が適用年の前年支給額に対して一定割合以上増加した場合に、税額控除が認められます。税額控除額の限度額は、その年度分の調整前事業所得税額の100分の20相当額です。

中小事業者が機械などを取得・製作した場合の特別償却または所得税額の特別控除
機械など対象設備の取得・製作などをした場合、取得価額の30%の特別償却または7%の税額控除を適用できる期限が2年延長されました(個人事業主、あるいは資本金3000万円以下の法人が対象)。

源泉控除対象配偶者の控除適用および配偶者特別控除について
給与や公的年金などの源泉徴収における対象配偶者の控除適用については、夫婦のいずれか一方しか適用できなくなりました。

仮想通貨に関して
仮想通貨の売却または使用による利益は、事業所得などの各種所得に付随する場合を除き、原則として雑所得に区分されるので、所得税の確定申告が必要となりました。また、棚卸資産の贈与などの場合の総収入金額算入について、その対象となる棚卸資産に準ずる資産に、仮想通貨が加えられました。

確定申告書および修正申告書で添付が不要になった書類
(1)給与所得、退職所得および公的年金などの源泉徴収票
(2)オープン型証券投資信託の収益の分配に関する支払通知書
(3)配当などと見なす金額に関する支払通知書
(4)上場株式配当などの支払通知書
(5)特定口座年間取引報告書
(6)未成年者口座などにつき契約不履行などの事由が生じた場合の報告書
(7)特定割引債の償還金の支払通知書

スマートフォンでの電子確定申告について

 昨年からマイナンバーカードとID・パスワード方式でスマートフォンによる確定申告が始まりました。ただし、申告可能な項目が限定されていたため、あまり使い勝手が良くありませんでした。

 それに対して、2019年分の確定申告から入力項目が増え、利便性が向上しました。収入・所得の場合、昨年だと給与所得が年末調整済1カ所分のみ入力可能でしたが、2019年分からは年末調整未済などを含め2カ所以上の給与所得に対応するようになりました。さらに公的年金など、その他雑所得、一時所得まで入力できるようになりました。ダブルワークで2カ所の給与を得るなど複数の所得がある方も、スマートフォンだけで確定申告が完結できるようになりました。

 また、すべての所得控除と税額控除(政党等寄附金等特別控除、災害減免額)、ほかには予定納税額、本年分で差し引く繰越損失額、財産債務調書(案内のみ)も入力して作成できるようになりました。2019年分のスマートフォン申告は、国税庁のWEBサイトの中の「確定申告書等作成コーナー」をご覧ください。2020年1月31日からはe-Tax送信サービスが開始されます。

 スマートフォンではなく、パソコンで確定申告を行っている方は、OSのサポート終了でWindows 7が推奨環境外になっているので注意が必要です。

個人事業者の消費税確定申告経理

 最後に、個人事業者の消費税確定申告について説明しましょう。2019年10月1日からの消費税制改正に伴い軽減税率制度が導入されました。それにより経理の流れを次のように変える必要があります。

(1)区分経理(記帳)
売り上げや仕入れ(経費)を税率ごとに区分した請求書など(区分記載請求書など)を基に、帳簿などに記帳します。

(2)決算処理
決算書類(青色申告決算書または収支内訳書など)を作成します。

(3)課税取引金額計算表(事業所得用)の作成
決算書類を基に、課税取引金額計算表を作成します。

(4)消費税確定申告書、付表の作成
国税庁「令和元年分 消費税及び地方消費税の確定申告書作成コーナー」などの課税取引金額計算表を基に、消費税確定申告書を作成します。

 2019年の消費税および地方消費税確定申告書の提出期限・納付期限は、所得税の確定申告とは違って2020年3月31日までとなりますので注意してください。

 2019年分の税制改正はそれほど大きな項目はありませんでしたが、今後はかなりの改正が行われる見通しです。例えば、2020年分以降の所得税制改正では、給与所得控除額の引き下げ、基礎控除額の引き上げ、配偶者・扶養控除などの合計所得金額要件の見直し、所得金額調整控除の創設などが予定されています。

 青色申告特別控除も、現行の65万円から2020年分以降は55万円上限に引き下げられます(電子申告や電子帳簿保存を行えば、現行通り65万円上限で控除できます)。2020年分の確定申告を見据えて、事業所得や事業的規模の不動産所得がある人で、まだ電子申告などを導入していない方は、節税にもつながりますので検討してみてはいかがでしょうか。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年1月5日)のものです

執筆=並木 一真

税理士、1級ファイナンシャルプランナー技能士、相続診断士、事業承継・M&Aエキスパート。会計事務所勤務を経て2018年8月に税理士登録。現在、地元である群馬県伊勢崎市にて開業し、法人税・相続税・節税対策・事業承継・補助金支援・社会福祉法人会計等を中心に幅広く税理士業務に取り組んでいる。 https://namiki-kaikei.tkcnf.com/

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