税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第3回) 平成28年度税制改正、固定資産税半額もある!

資金・経費

公開日:2016.06.21

 4月から平成28年度の新しい税制が施行されました。中小企業の税制については現状維持が基本となっていますが、細かく見ていくと、おトクな税制がいくつかスタートしています。今回は中小企業庁が発表した新税制の中から、経営者が知っておくべきものについて取り上げます。

新規の機械購入なら固定資産税が半額になる制度がスタート!

 4月からスタートしたおトクな制度の1つが、新設された「生産性向上設備の固定資産税の減税」です。固定資産税というと、土地や建物にかかる税、または自動車税などを想像されるかもしれませんが、企業においてはビジネスに必要な設備などに対して「償却資産税」という固定資産税が課せられます。

 「償却資産税」を減税する試みとして打ち出されたのが、「生産性向上設備の固定資産税の減税」です。企業が業務を効率化し、売り上げの増加が見込める投資を援助しよう、という狙いがあります。

 具体的には、「中小企業が取得する新規の機械装置は、3年間、固定資産税を2分の1に軽減する措置」です。 史上初の固定資産税での設備投資減税になります。これは赤字中小企業にも大きな効果ある制度です。

 ではこの制度の適応を受けるにはどうすればいいのでしょうか。そのためには、償却資産税の対象となる機械装置を新たに導入することで、生産性が上がることを示す必要があります。

製造業の中小企業を対象にした制度

 まずは、新しく購入しようと検討している機械装置について、それを導入することによってどう生産性が上がるかを予測して、文書にまとめます。例えば、「新しい機械の導入により機械の計算能力が1.2倍以上上がり、事務量の削減ができる。事務量が減れば人件費を削減でき、その削減によりできたマージンで新しい事業を開始したら利益が増える。さらにその利益によって旧来の業務での営業を強化できる」などのように、生産性が上がる仕組みを具体的に示します。

 次に導入費用に関する見積書を取り寄せるとともに、導入時の効果を試算し数値として費用および生産性向上の根拠が示せる証拠書類をそろえます。

 2つの書類が準備できたら、認定支援機関(商工会議所や認定税理士・認定中小企業診断士)に持っていきます。書類の中身をチェックして認定支援機関が“生産性の向上が可能”だと認めると、その旨を記した書類をもらえます。最後はその書類を持って、最寄りの市町村(償却資産税担当)を訪問し、実際に税制が適応されるのか、確認を取ります。

 今回、減税の対象となるのは機械装置に限られます。つまり製造業の中小企業に恩恵のある制度といえるでしょう。

交際費が経費として全額計上できる!

 この制度以外で注目なのは「実効法人税率の引き下げ」、「中小法人の交際費課税の特例の延長」の2つです。

 「実効法人税率の引き下げ」については、マスコミでも大きく取り上げられました。2013年度の日本の実効法人税率は約37%でした。諸外国に比べ高いため近年段階的に引き下げが行われ、今回は2015年度には32.11%になっています。それが2016年度は30%を切る水準になります。

 「中小法人の交際費課税の特例」とは、「租税特別措置法により原則として損金不算入とされている法人が支出した交際費に関して、中小法人については、特例として定額控除限度額(800万円)までの損金算入を認める措置」です。これまで法人税法では、手土産、供花、香典、お祝いまたは1人当たり5,000円を超える交際費について、そのうち1割は経費として計上できないような措置がとられてきました。しかし近年の改正で、これらの交際費が、1企業につき800万円までの上限付きで、全額経費として計上できるようになり、今年度も継続されています。

遠距離通勤の方に朗報!

 細かい変更点としては、「通勤手当」の非課税となる額がアップしました。

 通勤手当は当然のように会社から支給されるものと考えている人も多いと思いますが、かなり以前は給与所得として支給されていて、課税の対象になっていたこともあります。当時の制度では「住む場所は自由に決めることができ、人によって通勤にかかる費用も異なる」という考えがあったためです。しかしその後、通勤費は通勤の用途以外に使い道がないことから非課税となりました。

 2015年度までは、月10万円以内の交通費が非課税として扱われていましたが、今回は月15万円までが非課税の対象となることが新たに定められました。つまり、これまで通勤手当が月額10万円以上かかっていた人は、手当の額がアップする可能性があるということになります。制度変更の理由としては、都市部の人口集中を避けるため、新幹線など遠方からの通勤を可能にしようという狙いがあるようです。

 ちなみにJRのグリーン車は、従来に引き続き課税の対象になります。グリーン車は「最も経済的かつ合理的な経路や方法」に逸脱しているからです。とはいえ、課税の対象としても構わなければ、会社が支給することもできますし、本人の給与の中でグリーン料金を支払う分には全く問題ありません。

 2016年度の税制改正でもう1つ押さえておきたいのが「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の延長」です。これについては7月5日公開予定の次回に詳しく説明します。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年6月9日)のものです。

執筆=神谷 拓摩(かみや会計事務所)

大阪府吹田市出身。2002年3月履正社高校卒業、2006年3月慶應義塾大学商学部卒業。その後6年間、税務会計事務所、税理士事務所にて税務、会計事務に従事する。2014年6月に独立、かみや会計事務所開業。

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