税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第22回) 人件費削減に効く、業務効率化はECRSで

資金・経費

公開日:2018.01.30

 会社の利益を確保するためには、売り上げを伸ばすとともにコストを可能な限り削減していくのが理想です。ただ、それは簡単に実現できるものではありません。知らぬ間に経費などの無駄は積み重なっていきます。利益が確保できなくなり人員整理という最悪のコスト削減に至らないように、適切なコスト管理は従業員全員が日々考えなければならない課題です。

 一般的に、会社のコストの中で高い比率を占めているのは人件費です。その削減を考える場合には、業務に投下されている人員数とその労働時間を見直してみましょう。特に従業員がどの業務に多くの時間を割いているのかを検証し、無駄を省くことは重要です。

 例えば、形骸化している会議や研修はないか、部門間で重複している業務はないかなどを洗い出してみましょう。あるいは、会議などで社員が作成している資料が多すぎないか、決済終了までに余計なプロセスはないかといったことも目の付け所です。こうした点を改善することで労働時間が減少すれば、残業の削減につながり、人件費を抑えられます。

無駄をなくすフレームワーク「ECRS(イクルス)」

 人件費削減につながる業務改善を行う際の指針の1つに、ECRS(イクルス)というフレームワーク(解決策)があります。4つのアルファベットが意味するのは、Eliminate(なくす)、Combine(まとめる)、Rearrange(変更)、Simplify(簡素化)です。各指針から導き出される具体的な例を紹介します。

Eに関するもの
・会議資料を少なくする
・会議や打ち合わせの時間を短縮する

Cに関するもの
・複数の会議や研修を1つにまとめる
・地域別に顧客をまとめて社員の移動時間を短縮する

Rに関するもの
・オフィスレイアウトを変更する
・フレックスタイム制度やリモートワークを導入する

Sに関するもの
・社内文書の様式を簡素化する
・承認フローを単純化する

 すぐに取り掛かれることをはじめ、容易には導入できないことまで多岐にわたりますが、人件費の削減に通じるものを見つけるために活用してください。

社員とコスト削減の意識を共有する

 ECRSによる業務改善を紹介しましたが、世界的に見れば、日本は労働時間が長く、労働生産性も低いといわれています。労働生産性に関してはOECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも低い順位という調査結果もあります。そのことを踏まえて自社の業務改善を検討する際には、労働時間の削減と生産性の向上という俯瞰的なものの見方が必要になってきます。

 経営者と従業員の双方で、業務改善に取り組む意識を全社に浸透させないと、労働時間の削減と生産性の向上は両立できないでしょう。例えば、新入社員研修の際に、業務効率化やコスト削減に関するカリキュラムを設けたり、その後も同様のカリキュラムを意図的に組み込むことで、従業員に意識させる施策も大切になってきます。

 人件費の削減手段は、従業員による業務改善だけではありません。業務の機械化・IT化による自動化、正社員とパート・アルバイトの業務範囲の見直し、一部業務のアウトソーシングといったより高次元の対策も考えられます。こうした対策の実施は経営者の決断にかかっています。従業員に生産性の向上を求める以上、経営者はものごとを多角的に捉え、スピーディに決断することが責務となります。

執筆=木村 聡(木村聡税理士事務所)(studio woofoo)

平成18年(2006年)に税理士事務所を開業し、現在に至る。 主に法人の決算・申告書作成業務を営む。顧問先へは節税対策を中心にアドバイスを送る。

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