税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第17回) 経営力向上計画の認定制度で固定資産税が半分に!?

資金・経費

公開日:2017.08.22

 税金が安くなったり、融資が受けやすくなったりする中小企業向けの公的制度にはさまざまなものがあります。それら制度の中でも「経営力向上計画」の認定制度は、申請書類のボリュームが少ないため、ハードルが低く感じられる制度の1つです。この経営力向上計画の概要や申請方法を解説するとともに、実際にどのような認定事例があるのかを紹介します。

 経営力向上計画の認定制度は、中小企業が経営力を向上させるための人材育成、財務管理、設備投資などの取り組みを計画書という形にまとめ、その業種を所管する大臣に提出し、認定を受けると、固定資産税の軽減や金融機関から融資などの支援が受けやすくなるというものです。

 この制度は、2016年7月に施行された「中小企業等経営強化法」により定められました。中小企業等経営強化法が制定された目的は、労働力人口の減少や国際間競争の激化といった社会情勢の変化にさらされる中小企業への支援です。認定基準は所管する大臣が事業分野ごとに策定しているため、企業の業種によって異なってきます。

申請すれば税務上や融資を受ける際にメリットがある

 経営力向上計画に記載する内容としては、卸や小売りといった業種であれば、受発注におけるITシステムの活用により付加価値を生まない作業で省力化し、労働人口の減少に対応するといったことです。経営力向上計画を目に見える形で管理するため、労働生産性や利益率といった目標数値を計画書に盛り込むと具体性が高まり、認定を受けやすいといわれています。

 経営力向上計画が認定されると、一定の要件を満たす機械などを購入した場合には、固定資産税が3年間にわたって半額になるというメリットがあります。対象となる固定資産は、2018年までに取得した生産性を高める機械装置や設備などです。

 一定の設備では、即時償却や税額控除などの特例も認められています。即時償却とは、設備の取得に要した費用を毎年少しずつ減価償却費として経費にするのではなく、取得した年度に一括して経費に計上できるというものです。また、税額控除として、取得費用の7%あるいは10%といった一定割合を法人税や所得税から減額してもらえるようになっています。

 以上のような税務上の特典に加え、日本政策金融公庫や商工中金から低利融資が受けられるというメリットもあります。また、融資を受ける際に信用保証協会などから提供される保証について、通常とは別枠の保証額が設定されるという点も経営力向上計画を申請するメリットといえます。

多くの中小企業が対象となり申請手続きも難しくない

 この経営力向上計画を申請できる企業の条件は、資本金10億円以下などいくつかありますが、多くの中小企業が満たせる条件となっています。

 経営力向上計画の申請には、所定の申請様式が用意されており、中小企業庁の「経営サポート」のWebサイトからダウンロードできます。申請書類に必要事項を記載して事業所管大臣に申請するという手順です。

 申請書類への記入例はウェブサイトで紹介されていますので、作成時の参考になるでしょう。書類の枚数はA4形式で2枚程度なので、申請する側にとって取り組みやすい制度といえます。ただし、一定の優遇措置を受ける設備を取得する計画がある場合には、「工業会等による証明書」や「経済産業局による確認書」の添付が必要なので注意してください。

 経営力向上計画を策定する際にサポートが欲しいという場合には、国から認定を受けた商工会議所、金融機関、士業などの「経営革新等支援機関(認定支援機関)」に相談できます。併せて検討してみるとよいでしょう。

どのような認定事例があるのか?

 制度が開始してから1年ほどたちましたが、中小企業庁の発表によると、2017年6月30日現在で2万4331件の経営力向上計画が認定されています。同庁のウェブサイトから公表されている中小企業等経営強化法認定計画事例集では、地域特化型のクラウドファンディング事業を運営してきたインターネットサービス事業者であるサーチフィールドの取り組みが紹介されています。

 同社は、既存事業で培ってきた自治体とのネットワークやノウハウを生かして、ふるさと納税サイトを開設することを計画しています。また計画書には漫画特化型のクラウドファンディングの開設も盛り込んでいます。既存事業であるクラウドファンディングからの水平展開という形で取り組みを記載している事例として、経営力向上計画書を作成する際の参考になるでしょう。

 別の事例では、鉄鋼製品の製缶・設計を行ってきた共立工業が、クラウド型の顧客管理システムを導入して受注管理を「見える化」したり、最新のレーザー加工設備を導入することで生産効率を向上させたりする取り組みが紹介されています。レーザー加工設備の導入で、生産効率の向上に言及しているのは、税額軽減などの優遇措置を意識してのことと思われます。

 このように経営力向上計画は、2万5000件近くの企業が認定を受けている実績からも、認定を取りやすい制度といえます。税金の軽減や融資での優遇が魅力的な上に、計画書を作成する過程で自社が抱えている課題や対策が明らかになることも、大きなメリットです。設備投資などを予定している企業は、事業内容の自己診断を兼ねるので、申請を行ってみる価値はあるでしょう。

執筆=北川 ワタル(studio woofoo)

公認会計士/税理士。2001年、公認会計士第二次試験に合格後、大手監査法人、中堅監査法人にて金融商品取引法監査、会社法監査に従事。上場企業の監査の他、リファーラル業務、IFRSアドバイザリー、IPO(株式公開)支援、学校法人監査、デューデリジェンス、金融機関監査等を経験。2012年、株式会社ダーチャコンセプトを設立し独立。2013年、経営革新等支援機関認定、税理士登録。スタートアップ企業の支援から連結納税・国際税務まで財務・会計・税務を主軸とした幅広いアドバイザリーサービスを提供。

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