税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第58回) 国税庁がテレワーク手当で税務上の判断を示す

経営全般 資金・経費

公開日:2021.03.11

 新型コロナウイルスの感染拡大や政府の緊急事態宣言の発令を受け、多くの企業が在宅勤務(テレワーク)を採用しています。従業員が自宅で仕事をするためにはパソコンなどの事務用品が必要になることに加え、通信費や電気料金などの費用もかかってきます。こうしたテレワークのための費用を会社が負担した場合の税務上の取り扱いが課題となっていましたが、2021年1月に国税庁から「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ」(源泉所得税関係)が公表されました。今回は、このFAQのポイントを解説します。

企業が「在宅勤務手当」を支給した場合

 在宅勤務では、自宅で仕事をするための諸経費がかかることから、在宅勤務手当を支給する企業も少なくありません。従業員に在宅勤務手当を支給した場合、FAQでは在宅勤務に通常必要な費用の実費相当額を精算する場合には、従業員に支給した手当については給与課税されないことが示されました。

 すなわち、「実費精算」であるかどうかが重要となります。もし、社員に毎月5000円など一定額を渡し切りで支給し、従業員が在宅勤務に必要な費用として使用しなかったとしても企業に返還する必要がない場合には、「実費精算」には当たらないため従業員への給与として課税対象となります。

事務用品などを支給した場合

 自宅で仕事をするためには、通常パソコンなどの事務用品が必要となります。そこで企業が従業員にパソコンを支給する場合がありますが、支給の仕方によっては給与課税されてしまう可能性があるので注意が必要です。

 基本的に、企業が所有する事務用品などを従業員に「貸与」する場合には、従業員に対する給与として課税する必要はありません。しかし、事務用品などの所有権が従業員に移転する場合は、従業員に対して現物の給与を支給したとして所得税の課税対象となります。

 この「貸与」については、例えば、企業がテレワーク用に事務用品などを「支給」という形で配布し、その配布を受けた事務用品などを従業員が自由に処分できず、業務に使用しなくなったときは返却するという形態も「貸与」とみなされ、給与課税の対象とはなりません。

費用の精算方法

 在宅勤務に要した費用を会社が負担する場合、給与課税されないためには「実費精算」の方法によることとなりますが、この実費精算のやり方としては、次のような方法があります。

(1) 企業が従業員に対して金銭を仮払いした後、従業員が事務用品などを購入し、その領収証などを企業に提出してその購入費用を精算する方法
(2) 従業員が立て替え払いにより事務用品などを購入した後、領収証などを企業に提出してその購入費用を精算する方法

 通信費や電気料金の場合は、通常、私的利用の部分と業務利用の部分が混在するため、業務のために使用した部分を合理的に計算し、その計算された金額に基づいて精算することになります。

通信費や電気料金の業務使用部分の計算

 従業員が負担した通信費や電気料金については、業務のために使用した部分を合理的に計算する必要がありますが、この業務使用部分の計算方法について、FAQでは具体的な計算方法が示されています。

1 通信費の場合

 電話料金のうち、「通話料」については、通話明細書などで業務のための通話料金が確認できるため、その金額を企業が負担する分には、従業員に対する給与として課税されることはありません。

 一方、電話料金の基本使用料やインターネット接続に係る通信料については、次の算式で算出したものを企業が負担する場合には、給与として課税しなくてよいとしています。

 なお、業務のための通話を頻繁に行うような場合には、通話料についても、次の算式により業務利用分を計算してもよいとされています。

 すなわち、月額料金を日割り計算し、在宅勤務の日数分の「半額」を業務のために利用した実費と見なすというものです。

 例えば、従業員が9月に在宅勤務を20日間行い、通信料などの月額料金が1万円であった場合、業務利用部分は次のように計算されます。

2 電気料金の場合

 電気料金の業務使用部分の計算方法については、次の算式で算出したものを企業が負担する場合には、給与として課税しなくてよいとしています。

 このように、電気料金の場合には、在宅勤務の日数に加え業務に使用した部屋の床面積も考慮して業務利用部分を計算することになります。

 なお、FAQで示されたこれらの算式は、いずれも概算での計算方法であるため、より精緻な方法で業務利用部分を算出している場合には、その方法で算出された金額を企業が支給したとしても給与課税されることはありません。

レンタルオフィスの費用負担

 自宅に在宅勤務をするスペースがない場合、自宅近くのレンタルオフィスなどで在宅勤務をすることを認めている企業もあります。このような場合に、企業がレンタルオフィス代などの経費を従業員に支給するときは、次のいずれかの方法によれば従業員に対する給与とはなりません。

(1) 従業員がレンタルオフィス代などを立て替え払いし、その領収書などを企業に提出してその代金を精算する方法
(2) 企業が従業員に金銭を仮払いし、従業員がレンタルオフィス代などに係る領収証などを企業に提出し精算する方法

 ここでも「実費精算」が原則となります。

執筆=多田 恭章

税理士・社会保険労務士 (一社)租税調査研究会主任研究員。TOP総合会計事務所所長。元東京国税局調査部移転価格事前確認・調査担当、都内税務署国際税務専門官、東京国税局法人課税課、国税庁国際業務課(情報交換担当)を歴任。

【T】

あわせて読みたい記事

  • 知って得する!話題のトレンドワード(第22回)

    ポイント解説!スッキリわかる「イクボス」

    業務課題 経営全般

    2025.02.04

  • 税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第110回)

    厳しさ増す消費税調査、AI導入と体制見直しが影響か

    業務課題 経営全般資金・経費

    2025.01.16

  • 中小サービス業の“時短”科学的実現法(第26回)

    業務を抜本的に見直して労働生産性を向上

    業務課題 スキルアップ経営全般

    2025.01.07

連載バックナンバー

税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ