税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第11回) テレワーク初期費用と経費は補助金で

資金・経費

公開日:2017.02.28

 政府では現在、「地方創生」をスローガンとして掲げており、“東京一極集中”の是正は、重要なテーマとなっています。実現するためには、都会から地方への人の流れを生み出し、地方が一層活気づくための有効な施策が必要となります。

 施策として注目されているのが、時間や場所の制約を受けない「テレワーク」の活用です。テレワークの活用を促すために、国および地方自治体が、さまざまな補助事業や助成事業を行っています。今回は、テレワークを導入する際に補助を受けることができる有意義な制度を紹介します。

「ふるさとテレワーク」採択なら4000万円までの補助金が

 テレワークの補助事業で注目したいのは、総務省が実施する「ふるさとテレワーク推進事業」です。地方でも都会と同様に働ける環境を実現するテレワークを「ふるさとテレワーク」と位置づけ、その普及を推進している事業です。

 平成27年度に全国15地域で先行的に「ふるさとテレワーク」の実証が行われ、その実証結果を踏まえて、平成28年度から補助事業が開始されました。本制度では、公募により採択された対象事業における一定の経費について補助が受けられます。平成29年度予算案でも補助事業の予算として6億3000万円が計上されています。

 ふるさとテレワークに採択されることによる最も大きなメリットは、テレワーク拠点を整備するための初期投資や経費負担といった支出に対し、補助金が交付される点です。

 補助金の交付は定額方式(上限4,000万円)です。補助対象となる費用としては、(1)テレワーク拠点の整備に直接必要となる初期費用(イニシャルコスト)(2)パソコンなどの機器、LAN、ウイルス対策ソフトウエア、業務用ソフトウエア、オフィス什器などの購入費用(3)上記の機器、備品などにかかるリース料やレンタル費用(4)補助事業の実施に直接従事する事業担当者の人件費などが挙げられます。

どのような事業が採択されているか?

 実際にどのような事業が採択されているのか事例を見てみましょう。平成28年度は北海道から宮崎県まで23件が採択されました。そのうち2件の採択事例を紹介します(団体名は代表機関)。

 1つ目は、和歌山県白浜町へ新たに先進的サテライトオフィスを整備したNECソリューションイノベータ(東京都江東区)の取り組みです。和歌山県および白浜町と連携し、柔軟な発想に基づいた新しいクラウドビジネスを創出する拠点を作り、継続可能なビジネスの実現をめざしています。段階的に4人の社員の移住もしくは⻑期派遣を⾏い、パブリック・クラウドを活用したテレワークによるサポート業務などを実施しています。

 もう1つはテラスカイ(東京都中央区)の例です。同社は新潟県上越市(城下町である高田中心市街地)に町家を再⽣したサテライトオフィスを整備しました。上越市の支援や上越教育大学との連携を通じ、東京都内のオフィスで勤務している社員を配属または派遣しています。なお、テラスカイは「Why Japanese people!?」の決めぜりふで親しまれている米国出身の芸人「厚切りジェイソン」氏が所属していることでも知られています。

 ふるさとテレワーク推進事業に選ばれるためには、総務省へ申し込む必要があります。平成29年度の応募要項は、今年1月時点では発表されていないので、平成28年度に実施済みの公募要領を参考に対象事業や応募方法を見てみましょう。

 地方公共団体、民間企業など(都市部から地方への人の移動を担う企業、地場産業などの民間法人、NPO法人、大学など)からおのおの1社以上が参加してコンソーシアム(共同事業体)を構成し、その代表機関が応募することが要件になっています。

 対象となる事業は、ICT技術を利活用するなどして、柔軟な働き方の実現、ワーク・ライフ・バランスの向上、地域の活性化などに貢献する事業となります。事業を取りまとめる際には、都市部と地方間のコミュニケーションや都市部から地方への人的移動を円滑に行うことが必要であるため、地方公共団体などとの連携が重要なポイントです。

 応募方法としては、資金計画書、提案概要を添付した「提案書」を作成し、拠点の設置場所となる都道府県を管轄する総合通信局に持参するか郵送で提出します。ちなみに平成28年度の場合、応募期限は6月10日でした。その後、6~7月に審査および採択候補先の選定、7月下旬頃に交付決定、平成29年2~3月に実績報告書の提出と補助額の確定というスケジュールで実施されています。

 注意しておきたいのが、補助対象とはならない経費がある点です。具体的には、(1)建物施設の建設など公共事業に分類される経費(2)補助事業の目的遂行に直接必要と認められない経費(3)一般的に合理的と認められる範囲を超える経費(4)テレワーカー自体や事務にかかる人件費(5)補助期間外の諸経費などです。

 補助事業の経理処理に当たっては、補助金の交付対象となる経費と、それ以外の経費を、明確に区別して処理することが必要となります。そのため、基本的には「ふるさとテレワーク推進事業 経理処理解説(総論編)」などのガイドラインに沿った処理が求められます。

補助金や助成金をテレワーク導入のきっかけに

 テレワークを後押しする政府や自治体の施策は、ふるさとテレワーク事業以外にも存在します。

 例えば、厚生労働省所管の助成金として「職場意識改善助成金(テレワークコース)」というものがあります。これは、在宅またはサテライトオフィスにおいて就業するテレワークに取り組む中小企業事業主に対し、実施に要した費用の一部を助成する制度です。支給額は1企業当たり最大150万円(平成28年度)となっています。この助成金制度も平成29年度予算案に盛り込まれています。

 地方自治体が実施している施策としては、例えば東京都の「女性の活躍推進等職場環境整備助成金」という制度があります。「女性」という名の付いた制度ですが、テレワークの場合には男性の職場環境整備にも適用されます。その場合の限度額は200万円(助成率1/2)です。

 政府の「ふるさとテレワーク推進事業」は都市と地方そして産官学を巻き込んだ事業となっています。また、地方自治体が他にも助成金制度を設けている状況を見れば、テレワークの活用が現在、大きな注目を浴びているといっても過言ではないでしょう。このような時流にうまく活用することが企業経営においては重要でしょう。

執筆=北川 ワタル(studio woofoo)

公認会計士/税理士。2001年、公認会計士第二次試験に合格後、大手監査法人、中堅監査法人にて金融商品取引法監査、会社法監査に従事。上場企業の監査の他、リファーラル業務、IFRSアドバイザリー、IPO(株式公開)支援、学校法人監査、デューデリジェンス、金融機関監査等を経験。2012年、株式会社ダーチャコンセプトを設立し独立。2013年、経営革新等支援機関認定、税理士登録。スタートアップ企業の支援から連結納税・国際税務まで財務・会計・税務を主軸とした幅広いアドバイザリーサービスを提供。

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