ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
事業を行うに当たっての帳簿や書類は、所得税法や法人税法などの各税法において、帳簿については備え付けて記帳し原則7年間保存、その記帳の基となった書類についても原則7年間保存しなければなりません。原則は紙で保存することになっていますが、紙に代えて電子で保存する場合には、改ざん、修正、すり替えなどが容易で痕跡も残らないため、一定の保存要件の下で保存する必要があります。また、メールなどを通じて請求書をやり取りするなどの電子取引を行った場合は、その請求書などの電子取引情報を一定の保存要件の下で保存しなければならないとなっています。これを定めているのが電子帳簿保存法という法律です。
電子取引を行った場合の取引情報の保存については、所得税(源泉徴収によるものを除く)、法人税の保存義務者が保存しなければなりません。従来は紙に出力して保存すればよかったものが、2022年1月1日以後の電子取引からは、やり取りした電子の請求書などを電子データのまま、一定の要件の下で保存しなければならなくなりました。
2021年9月1日にデジタル庁が発足しました。政府の方針として、社会全体のデジタル化を進め、暮らしを便利に変えていくとともに「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」をめざし、デジタル社会の実現に向けて取り組んでいくとしています。そして、デジタル庁が成長戦略の柱となり、思い切ったデジタル化を進めなければ、日本を変えることができないという決意の下、着実に成果を上げ、日本全体のデジタル改革を進めていきたいとしています。
2021年6月1日に決定された骨太の方針(「経済財政運営と改革の基本方針 2021」)でも、ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環を実現するとともに、税体系全般の見直しなどを進めるとしています。適正・公平な課税の実現による税に対する信頼の確保、社会全体のコスト削減、企業の生産性向上などの観点から、適切な所得などの把握のための環境整備、記帳水準の向上、税務手続きの電子化の促進など、制度および執行体制の両面からの取り組みを強化するとされています。
2021年6月11日には国税庁から「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション―税務行政の将来像2.0―」が公表され、デジタルを活用した、国税に関する手続きや業務の在り方の抜本的な見直しに取り組んでいく方針を明らかにしました。着実かつ継続的な実施により、国民にとって利便性が高く、かつ、適正・公平な社会の実現に貢献していきたいとしています。
その一環として2021年度税制改正でも大胆な税務手続きのデジタル化が推し進められました。電子帳簿等保存制度の抜本的見直しをはじめとする改正が行われ、2022年1月1日から施行されます。これまでの改正とは明らかに質の違う、デジタル化時代における税務調査、税務行政の在り方に変革をもたらすインフラといえるもので、今後も時代の変化に応じ、税務行政と共に絶えずバージョンアップしていくものです。
制度利用開始に当たっての負担が大きく軽減され、今後もさまざまなデジタル化がスピード感を持って進化し続けると考えられる中、この流れに後れを取らないためにも、今こそ企業経理の電子化を進められる絶好の機会だといえます。
2021年度改正では、帳簿保存制度は、「最低限の要件を満たす電子帳簿」と「優良な電子帳簿」の2種類の保存制度から構成されています。
モニター、説明書の備え付けなどの「最低限の要件を満たす電子帳簿」は、安価で使い勝手のよいクラウド会計ソフトを活用すれば、制度の利用が進んでいない中・小規模事業者でも容易に利用できます。これにより、正規の簿記の原則による記帳が普及して記帳水準が向上するとともに、紙での帳簿保存が不要になり、事業者全体のペーパーレス化も大きく進みます。
一方、信頼性の高い「優良な電子帳簿」についてはインセンティブを設けることで記帳水準の向上を図ることとしています。
このインセンティブ措置である「優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置」については、あらかじめその旨の届出書を提出した一定の国税関係帳簿(個人・法人の青色申告者、消費税事業者の備え付ける帳簿)の保存を行う者については、一定の要件の下で過少申告加算税を5%軽減することとされました。
「最低限の要件を満たす電子帳簿」は、税務調査において帳簿のダウンロードの求めがあった場合はこれに応じることも保存要件とされています。顧問税理士においても、対応を求められると予測されます。
また、事前承認制の廃止により電子帳簿が容易に開始できるため、制度を利用する場合には、保存要件を満たす帳簿となっているかしっかりと確認し、利用開始後も継続的に保存要件を満たしているか確認しておく必要があるでしょう。税務調査で保存要件を満たしていない電子データの場合は、証拠資料として認められない可能性があります。
執筆=松崎 啓介(まつざき けいすけ)
松崎啓介税理士事務所 税理士、一般社団法人租税調査研究会主任研究員。昭和59年~平成20年 財務省主税局勤務 税法の企画立案に従事(平成10年~平成20年 電帳法・通則法規等担当)。その後、大月税務署長、東京国税局 調査部特官・統括官、審理官、企画課長、審理課長、個人課税課長、国税庁監督評価官室長、仙台国税局総務部長、金沢国税局長を経て税理士登録。
主な著書に「国税通則法精解」「国税徴収法精解」(大蔵財務協会)、「コンメンタール国税通則法」(第一法規)、「電子帳簿保存法がこう変わる!~DXが進む経理・税務のポイント」(税務研究会)、「税理2021.4月臨時増刊号 税務手続のデジタル化ーその実務と課題」、「税理2021.9月号 改正電子帳簿保存法は企業経理の電子化を推し進める好機~その全体像と事前対策」(ぎょうせい)等書籍や記事を多数執筆。
監修=宮口 貴志
株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、一般社団法人租税調査研究会常務理事。元税金専門紙編集長。会計事務所ウオッチャーとして活動。
【TP】
税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ