税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第54回) オンラインレンディングでスピーディーな資金調達を

資金・経費

公開日:2020.10.19

 新しい資金調達の方法として「オンラインレンディング」(オンライン融資)が、注目を集めています。今回は、このオンラインレンディングの特徴やメリット・デメリットについて解説します。

オンラインレンディングとは

 従来の融資サービスは原則、金融機関などの窓口に資料を持参し、申し込みや申請を行う必要がありました。それに対してオンラインレンディングは、オンライン上ですべての手続きが完結する融資サービスです。銀行口座の入出金記録などを基に人工知能(AI)が与信モデルを作るため、従来の融資サービスと比べてスピーディーに資金を借りられる点が特長です。

 オンラインレンディングが注目され始めた背景には、インターネットの普及により、さまざまなデータを収集し、分析できるようになったことがあります。さらにAIが進歩して、精度の高い与信分析を行える環境が整ってきたこと、オンライン決済やキャッシュレス化の流れが進んでいることも要因と言えるでしょう。

 これまでの融資サービスは、決算書による審査が一般的でした。一方、オンラインレンディングでは、銀行口座の入出金に関する履歴や、売買取引や決済状況、発注状況、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のデータなどを基にして審査を行います。決算書は審査に不要となりますが、銀行の場合は一定期間口座があり、融資契約をしていない法人が対象となるなど、利用に関して一定の制限を設けている場合があります。

オンラインレンディングのメリット

 オンラインレンディングのメリットは、従来の融資サービスと比較して、申し込みから融資実行までが非常に早い点にあります。銀行などが提供する融資制度では、審査のために多くの資料を用意しなければならない上に、融資実行までに数カ月かかることも珍しくありません。さらには、保証人や担保が必要となることもあります。対してオンラインレンディングで用意すべき資料は、日々の会計データや銀行の入出金記録など限られたもので、融資実行までの審査も早く、保証人や担保が不要になることもあります。

 また、従来の融資サービスは、設立後間もなく中長期の事業実績がない中小企業や個人事業主などの場合、審査が通りにくい傾向がありました。一方、オンラインレンディングでは日々の会計データや銀行の入出金記録などを基にAIが判断を行うため、設立からそれほどたっていなくても、その間に日々、しっかり実績を上げている中小企業や個人事業主にとっては資金調達の可能性が広がるでしょう。また、金融機関にとっても、審査のためのコストを削減できるというメリットがあります。

主なオンラインレンディング提供会社

 オンラインレンディングは、専門としている融資会社も含めて、さまざまな金融機関、企業がサービスを提供しています。専門としている融資会社としては、会計ソフト「弥生」で有名な弥生の子会社のアルトア、会計ソフト「freee」で有名なfreeeの子会社のfreee finance labなどがあります。金融機関としては、みずほ銀行三菱UFJ銀行といったメガバンクをはじめ、りそな銀行住信SBIネット銀行なども取り扱っています。身近なところでは、楽天カードアマゾン・キャピタル・サービスなどもサービスを提供しています。

 このように多くの企業が参入し、盛り上がるオンラインレンディングですが、利用には注意も必要です。中でも、一番注意しなくてはならないのが、金利設定がそれなりに高めになっている点です。中小企業向け金融機関である日本政策金融公庫の融資利率は0%台~3%程度ですが、オンラインレンディングは、審査の結果次第では金利が10%を上回ることもあります。

 オンラインレンディングは融資条件や業績などによって利率が決められるので一概に高金利とは言えませんが、利用に際しては、ある程度の金利の負担は覚悟しなければなりません。オンラインで簡単に審査は受けられますから、実際の金利の提示を受けてから融資を受けるかどうか判断してもよいでしょう。

 オンラインレンディングは、迅速性という大きなメリットがある半面、金利が高めになるというデメリットがあります。しかし、今後はこうしたサービスが拡大するにつれて事業者の競合が厳しくなれば、金利が下がることも考えられます。まずは、危機対応としてスピーディーに融資を受ける手段としての活用を検討しつつ、将来、金利が下がった際にはより積極的な活用を図るといいでしょう。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年9月25日)のものです。

執筆=河野 雅人

公認会計士・税理士 新宿区に事務所を構えている。主に中小企業、個人事業主を会計、税務の面から支援中。

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