税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第2回) 売り上げは回収してナンボ!未回収は絶対に放置しない

資金・経費

公開日:2016.05.24

 請求書は出したものの、肝心の支払いを受けていない取引はありませんか。顧客から支払いを受けなかったら、払ってもらえなかった分は売り上げに計上せずに済み、税金の対象にはならない、なんてことはありません。

 売り上げを上げるための労力や経費はかけたものの回収はできず、しっかり税金もかかる……ということになっては大変です。売り上げ未回収のリスクを回避する方法を考えてみましょう。

まずは支払い能力を調べよう

 営業は売り上げを高めるため、日々、飛び込み営業や問い合わせ、他の顧客からの紹介など、さまざまなアプローチを取っています。しかし場合によっては、相手先の情報をよく知らずに取引を開始していることがあるかもしれません。その中に、支払う能力がない企業があったとしたら……。

 きちんと売り上げを回収するためには、まずは取引開始の前に相手先に支払う能力があるかないかを見極めることが重要です。例えば下記のような企業は、支払いがしっかり行われる可能性が比較的、高いと思いわれます。

(1)相手先の企業にWebサイトがある

 Webサイトがあるということは、基本的に継続した事業を行っている企業で、かつWebサイト作成のためのコストをかけられる企業であることが推測できます。

(2)Webサイトに信用情報が載っている。また財務内容から見て回収可能性が高い

 大きな企業の場合、WebサイトにIR情報が載っています。しかし中小企業については載っていない場合があります。このようなときは、直接相手先の企業に問い合わせたり、帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査会社のデータを参照したりする方法があります。財務情報を確認し、回収可能性の判断をします。

 こうした事前調査で問題なければ、明確な契約書を取り交わしましょう。取引が成立し、成果品を納期通りに納品すれば、請求の上、支払いを受けることができます。

 契約書を取り交わした後に注文書を受けるというのも、「相手方から注文を受けた」という重要な証拠になりますので、しっかり取っておきましょう。これらはもし回収に困った場合の証拠になるので、手間を省かず、きちんと保管しておきましょう。

支払ってくれない場合はどうすればよい?

 上記のように、取引前に売り上げの未回収リスクを減らしたとしても、いつ何時、相手先企業の業績悪化や倒産などで、回収不能になるか分かりません。

 回収が遅れた、または困難というときは、まずは期限が遅れている旨を相手方に通知しましょう。もう一度請求書を送り、電話などで連絡した上で、「督促」と書いて請求し、期限も短く設定します。

 それでも入金がない場合には、内容証明郵便で、再度督促します。大きな会社であれば法務部に、中小企業であれば弁護士や司法書士に相談するとスムーズに進められます。内容証明郵便は法的手段に出ることを意思表示する“宣戦布告”の通知となるので、送付の際には今後の取引などを見越して、自社の上司や経営者・役員としっかり相談してください。

 上記で書いたアクションを起こしても、また入金がないといった場合には、簡易裁判所に「支払督促」を申し立てに行きましょう。支払督促とは裁判所から支払いを命じてもらう手続きで、期間内に支払われない場合には、相手先の口座や財産などを差し押さえることができます。支払督促を取る際に相手先の口座情報を書いておけば、差し押さえの上、入金されることとなります。

最後の手段「債権放棄」って何?

 支払督促を取ったとしても、異議申し立てをされた場合や差し押さえ物件がない場合には、訴訟を行うか、債権放棄を行うということになります。

 訴訟については、弁護士、司法書士、会社の法務部の役割が重要ですから、今回は税理士としてよく見てきた債権放棄について詳しく述べます。

 債権放棄とは、未回収の債権を文字通り放棄するということです。心情的には、せっかく頑張って売り上げたものに対して回収できないことを認めるわけですから、無念だと思います。しかしながら、回収できなければいつまでたっても損失として計上することができません。

 債権放棄の具体的な方法は、まずは債権放棄通知書を作成して、先方に送ります。法的様式などは特になく、インターネットで広く公開されているものをそのまま使っても大丈夫です。

 ここでポイントなのが、債権放棄通知書を送っても「不在」ということで返ってきた場合です。その場合には、帰ってきた郵便を開封せずにそのまま保管しておいてください。保管しておくことで、損失に計上することができ、税務調査があったときでも、それで損失は認められます。

 とはいえ、債権放棄は最後の手段です。このような事態にならないためにも、まずは取引前に相手先情報をしっかり吟味し、契約してもよいか見極めるところから始めましょう。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年4月22日)のものです。

執筆=神谷 拓摩(かみや会計事務所)

大阪府吹田市出身。2002年3月履正社高校卒業、2006年3月慶應義塾大学商学部卒業。その後6年間、税務会計事務所、税理士事務所にて税務、会計事務に従事する。2014年6月に独立、かみや会計事務所開業。

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