ビジネスWi-Fiで会社改造(第48回)
中堅・中小企業のためのビジネスWi-Fi投資最適化ガイド
公開日:2025.10.16
国税庁では現在、税務行政のDX化を進めており、基幹システム「国税総合管理(KSK)システム」を2026年(令和8年)9月から次世代システム「KSK2」に全面移行する計画です。税務調査では、AIの活用が試験的に進められていますが、個人情報の外部漏えいリスクが最大の課題となっており、その対策を検討している段階にあります。
「KSK2」の本格稼働により、少子高齢化に伴う労働者人口の減少下でも、税務調査の効率化と人員の適正配置が可能になります。将来的には、調査先の選定をAIを中心とした判断に基づいて行い、抽出された問題点などを基に調査官が実地調査を実施する流れが想定されます。
調査先の選定基準自体に大きな変更はないものの、AIが細かな部分までチェックしていくことが想定されるため、企業は税務調査のリスク軽減を図る必要があります。特に、従業員の経費処理などの日常的な経理業務については、日ごろからの教育や指導の徹底が重要になってくるでしょう。
国税庁の現行の「KSK」システムでは、確定申告の内容や金融情報などを基に、所在地域や業種、規模、売り上げなどから総合的に判断し、異常値を発見して、問題があれば調査先に選定しています。現状、税目ごとに情報が管理され、法人税であれば法人税部門以外の者は閲覧できない他、システムとしても連動していません。これに対し「KSK2」では、税目横断の情報統合や政府共通インフラ「GSS」との連携により、個人と法人の関連情報も一元管理され、調査の精度がさらに高まります。
このような環境下では、従業員の経費処理における不自然な傾向や誤った申請もAIによって検知される可能性が高まり、金額的には大きくなくとも、経理処理のミスなどによって申告内容の誤りを指摘されるケースも考えられます。大企業では、一定のルールのもと、部門ごとに厳しく経理処理の管理が行われていますが、中小企業ではこうしたバックオフィス業務の管理・指導が十分でないことが少なくない点に注意が必要です。
税務調査は通年で実施されていますが、特に7月から12月末にかけては、より厳格な調査が行われる傾向にあります。これは国税当局の事業年度(7月から翌年6月末)や人事評価の時期と関連しており、企業はこの時期に調査依頼を受けた場合、特に迅速かつ丁寧な対応が求められます。
実地調査の具体例を挙げると、まず領収書や請求書の真偽について厳密な確認が行われます。特に注意すべきは、適格請求書(いわゆるインボイス)のない領収書です。この場合、消費税の仕入れ税額控除が認められないため、取引先のインボイス登録状況について、現場の従業員に十分な確認を徹底させる必要があります(なお、現在は経過措置として、インボイスに登録していなくても一定割合の仕入れ税額控除が認められています)。対策としては、契約書にてインボイス登録の有無を記載しておく他、国税庁ホームページでもインボイスが登録されているか確認させましょう。これらの確認作業には手間がかかりますが、消費税率が10%である現状では、仕入れ税額控除が認められないことは実質的に10%の売り上げ減少と同様の影響があるため、慎重な対応が必要です。
また、取引先の領収書に以下の特徴がある場合、架空・仮装取引の疑いが持たれる可能性があることにも留意しましょう。
・市販の領収書で汚れや折り目がない
・ゴム印による領収書名
・領収者印が摩耗していない
・発行番号や割り印がない
企業の経理部門や従業員は、経費精算時にこれらの項目をチェックし、証憑(しょうひょう)の真正性を確保する体制を整えるべきです。日常業務で注意すべき点は以下の通りです。
項目 | 注意点 |
領収書・請求書 | 発行元の明確性、印影の有無、発行日・金額の整合性 |
接待交際費 | 参加者・目的・場所・金額の記録を残すこと |
交通費・出張費 | 経路・目的地・訪問先の記録、ICカード履歴との整合性 |
消耗品費 | 使用目的と数量の妥当性、定期的な棚卸しとの照合 |
仮払金 | 精算期限の管理、未精算の長期化を防ぐ仕組みづくり |
その他、調査で指摘されやすいのが「社内飲食費」です。この点は、経理担当者自身が誤った認識を持っているケースが多く、さらには一般社員の理解も不十分な場合が少なくないため、特に注意しましょう。
例えば、経理担当者の中には「飲食費であれば、参加者や目的を問わず、1人当たり1万円以下なら交際費から除外して『会議費』で処理してよい」と誤解している例があります。最近は、外に飲みに行かず、社内でのデリバリーを利用した"飲み会"が増えていますが、単に1人当たり1万円以下という基準のみで会議費処理してしまうケースが見受けられます。実はこれは大きな誤りです。
飲食費のうち「社内飲食費」は、1人当たり1万円以下であっても、原則として、交際費等の範囲に含まれます。ただし、会議に付随する飲食費については、交際費等の範囲から除外される場合があります。なお、「社内飲食費」とは、法人の役員もしくは従業員またはこれらの親族に対する接待等のために支出する飲食費をいいます。
社内飲食費の判定において、接待する得意先等が1人でも参加し、その飲食に自社従業員等が業務上必要な人数を参加させた場合は、社内飲食費には該当しません。ただし、得意先等の従業員を形式的に参加させているとみなされる場合には、社内飲食費として扱われることがあります。飲食費から社内飲食費が除かれる趣旨は、接待の相手方が社外の者である場合の飲食費を対象とするためです。そのため、100%資本関係にある親会社の役員等や、連結納税を適用している各連結法人の役員等であっても、社外の者とみなされ、これらの者との飲食費は社内飲食費に該当しません。
同業者パーティーに出席して自己負担分の飲食費相当額の会費を支出した場合、または得意先等と共同開催の懇親会に出席して自己負担分の飲食費相当額を支出した場合でも、互いに接待し合う関係にあることから、その飲食費は社内飲食費に該当しません。これらの場合、帳簿書類には、「飲食費に係る飲食等に参加した得意先」「仕入先その他事業に関係のある者等の氏名又は名称及びその関係」を記載する必要があります。これは、その支出が社内飲食費に該当しないことを明確にするためです。
飲食等を行った相手方である社外の得意先等に関する事項は、原則として、「○○会社・□□部、△△◇◇(氏名)、卸売先」というように、相手方の氏名や名称の全てを記載します。ただし、相手方の氏名の一部が不明の場合や多数の参加者がいた場合には、その参加者が真正であることを前提として、「○○会社・□□部、△△◇◇(氏名)部長他10名、卸売先」という記載であっても構いません。
AIによる分析が進む一方で、実地調査では調査官の経験と直感が生かされます。企業の経理部門は、形式的な整合性だけでなく、実質的な妥当性を意識した経費処理を徹底することが重要です。特に以下の点は、調査官の重点確認項目となります。
・棚卸資産の評価と記録(業種別に異なる)
・売掛金の計上漏れや貸倒損失の妥当性
・未成工事支出金や未成業務支出金の処理
税務行政のDX化は、企業にとっても経理業務の質を問われる時代の到来を意味します。AIと調査官の両方が「不自然さ」を見抜く体制が整いつつある今、企業は日常の経費処理において、透明性と説明力を備えた運用を徹底することが、税務リスクの回避につながります。
執筆=一般社団法人租税調査研究会
一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は55名。会員会計事務所は約100会計事務所。
主な著書に「一冊ですべてわかる! 暗号資産の税務処理と調査対応のポイント」(第一法規)、「国税OB税理士による 税務調査のすべて」(大蔵財務協会)、「加算税の最新実務と税務調査対応Q&A 判決・裁決・事例で解説」(大蔵財務協会)、「税目別ケースで読み解く!国際課税の税務調査対応マニュアル」(ぎょうせい)等多数。
監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。
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