税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第112回) 2025年ボーナスは平均で166万円。昨年より5.5万円アップ

業務課題 経営全般資金・経費

公開日:2025.06.12

 日本労働組合総連合会(以下、連合)から2025年春闘(春季生活闘争)の第5回回答集計結果 が5月8日に発表され、賃上げ・夏季一時金いずれも高い水準となりました。

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回答集計結果の役割

 今後、この集計結果は月に1回更新され、7月まで発表されます。このように回答集計結果を複数回にわたって行う理由は、賃上げの全国的な傾向や水準を示し、現在継続中の労使交渉の交渉材料になる他、政府の経済政策にも影響を与えるためです。

 また、この結果は公務員の賃上げ(人事院勧告)に反映されます。公務員の給与は、春(*1)に従業員50人以上の民間企業を対象として人事院が職種別民間給与実態調査を行い、その取りまとめた結果を8月上旬に「人事院勧告」として内閣と国会へ提出します。その後、秋の国会での決議を経て、公務員の給与改定が正式に決定されます。

第5回回答集計結果の概要

 平均賃金方式(*2)による月額賃金の集計結果では、回答を得た3809組合の加重平均は1万6749円で前年同時期比1133円増となりました。同様に、従業員300人未満の中小企業2520組合においては、加重平均が1万3097円で同1208円増となり、こちらも昨年同時期を上回っています。

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出典:連合による「2025 春季生活闘争 第5回回答集計結果」プレスリリースp3より抜粋

一時金は年間ベースで5.12カ月分

 一時金については、正社員が年間ベースで166万1113円で前年同時期比5万5421円増、非正規雇用者については、短時間労働者が同13万2004円で同4万4365円増、非正規の契約社員が同40万7731円で同16万8239円増と、いずれも前年を上回る結果となっています。この一時金は夏のボーナスに反映されるので、今年の夏は例年以上の支給額が期待できます。

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出典:連合による「2025 春季生活闘争 第5回回答集計結果」プレスリリースp4より抜粋

ここで、賃上げと一時金が企業側に与えるメリットについて見ていきます。

1.優秀な人材の確保と定着

 少子高齢化が進む中、若手人材の採用が困難な状況が続いていますが、2025年卒の大卒求人倍率は1.75倍と、企業の採用意欲が高まっています。若くて優秀な人材を集めようとしたら、賃上げは必須であるといっても過言ではないでしょう。

2.従業員のモチベーション

 賃上げや一時金アップは、従業員のモチベーションアップにつながり、仕事への満足度や生産性の向上が期待できます。

3.企業イメージ・ブランド力の向上

 現在、国を挙げて賃上げが推進されている中で、全国的な知名度のある企業や地域の有力企業による賃上げ実施は、社会的責任を果たす取り組みとなり、イメージアップにつながります。もちろん、求職者や顧客からの信頼向上にも寄与するでしょう。

賃上げ税制の活用で経営にも大きなメリット

 企業は賃上げ促進税制などの制度を活用すれば、賃上げ額に応じた税額控除を受けられ、法人税や所得税の負担軽減が可能となります。さらに、厚生労働省が認定する「くるみん」(子育てサポートに積極的に取り組む企業への認定制度)や「えるぼし」(女性の活躍推進に積極的に取り組んでいる企業への認定制度)を併せて活用すれば、さらなる税制上の優遇措置を受けられるようになっています。

 また企業にとって一時金の支給は、業績に応じて検討できるため、業績好調時に従業員へ利益を還元できます。実際に、近年の一時金の支給状況を見ると、社会全体の景気の好調さが分かります。このように、売り上げが伸びている企業にとって賃上げや一時金の支給は、利益の適切な圧縮による節税にもなるため、大きな意味を持っています。

 一方で労働者側のメリットは、以下の通りです。

1.可処分所得の増加

 給与や一時金の上昇により手取り額が増えれば、家計にゆとりが生まれ、消費活動の拡大につながります。

2.物価高対策

 物価上昇が続く現状において、収入の増加は一定程度の生活水準の維持、さらには向上が期待できます。

3.モチベーションの向上

 企業側のメリットでも触れましたが、賞与や給与の増加は、働く意欲につながり、「もっと頑張りたい」というモチベーションの向上にもつながってくるでしょう。

4.将来への備えがしやすい

 一時金の増加により、貯蓄や投資、教育・レジャーなど将来への備えや自己投資に充てる余裕が生まれます。

賃上げ、一時金の支給以外で検討すべきこと

 労使の交渉では、賃金に関する事項だけでなく、労働条件に関する交渉も行っています。例えば、60歳以降の高齢者の雇用や処遇、男女間の賃金格差の是正、生活関連手当の支給基準の見直しなどについて、労使双方で交渉している組合もあります。

 生活関連手当の支給基準に関する取り組みとしては、福利厚生の一部は一定条件下で非課税扱いとなるため、企業側にとっては現物給付や福利厚生の充実という形で「第3の賃上げ」とも言われます。従業員の実質手取りの増加が見込める仕組みを双方で考える場であり、法人税や社会保険料の負担軽減にもつながります。

 今回は、第5回回答集計結果から、賃上げや一時金が企業・従業員双方にもたらすメリットについて解説させていただきました。私見もありますが、共に転換期の日本経済にとって大きな意味を持つものと思っています。

 支給する側も受け取る側も、それぞれの立場で有意義に活用し、より良い職場環境や生活の向上につなげていきたいところです。

(*1:今年は令和7年4月23日~6月13日)
(*2:労働者一人ひとりの賃金合計額を労働者の数で割った「平均賃金」を基準に、賃上げや労務コストの引き上げ額を交渉・要求する方式)

執筆=清水太一
東京国税局では情報処理部門に所属し、国税庁の基幹システムである国税総合管理システム(KSK)に関するSE業務をはじめ、資料調査課(料調)で公益法人調査、調査部で連結法人、大規模法人の調査に従事。その後、国際取引に関する部門で国際税務専門官」として海外取引、移転価格などに関する調査、相互協議などに携わり、令和6年6月辞職。同年8月税理士登録。一般社団法人租税調査研究会主任研究員。

監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。
税務・会計・税理士をテーマにニュースサイト運営や雑誌作成・編集などを手掛ける株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役社長CEO。元税金の専門紙・税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。

*一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身税理士の研究員・主任研究員が、会員の会計事務所向けに税務判断及び適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。現在、在籍する研究員・主任研究員は56名。会員会計事務所は約100会計事務所。

【TP】

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