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税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第119回) 事業承継税制の特例措置、期限延長でも先送りは禁物――経営者が今から確認すべき5つのポイント

業務課題 経営全般資金・経費

公開日:2026.08.31

 令和8年度税制改正により、法人版事業承継税制の特例措置に必要な「特例承継計画」の提出期限が2027年9月30日まで延長されました。期限まで約1年あるものの、後継者の選定や自社株評価、株主や家族との調整には時間がかかります。計画を提出すれば終わりではなく、実際の株式承継や税務申告、承継後の継続的な届出も必要です。要件を満たせなくなれば、猶予税額と利子税の納付が必要になることもあります。制度の基本と、経営者が今から確認すべきポイントを解説します。

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提出期限は2027年9月末、承継期限は同年末

 法人版事業承継税制の特例措置を利用するための入り口となる「特例承継計画」の提出期限は、令和8年度税制改正によって1年6カ月延長され、2027年9月30日となりました。

 2026年8月時点では期限まで約1年1カ月です。しかし、延長されたのは計画の提出期限であり、特例措置そのものの適用期限ではありません。特例措置の対象となる非上場株式の贈与または相続は、2027年12月31日までに行う必要があります。

 計画の提出期限と、実際に株式を承継する期限との間は、わずか3カ月です。期限直前に計画を提出してから、後継者の意思確認、自社株評価、株主間の調整、相続人への説明、資金計画などに着手したのでは、間に合わない恐れがあります。

 今回の期限延長は、「検討を先送りできる期間」ではありません。事業承継を具体化し、必要な手続を進めるための最終的な準備期間と捉えるべきです。

 なお、個人事業者を対象とする個人版事業承継税制では、個人事業承継計画の提出期限が2028年9月30日、対象となる事業用資産の贈与・相続等の期限が同年12月31日です。法人版とは期限が異なるため、混同しないよう注意が必要です。

株式承継時の税負担を猶予する「事業承継税制」

 法人版事業承継税制は、中小企業の後継者が非上場会社の株式を贈与または相続によって取得した場合に、一定の要件の下で贈与税または相続税の納税を猶予する制度です。その後、先代経営者や後継者の死亡、次の後継者への一定の贈与など、法律で定められた事由が生じた場合には、猶予されていた税額の全部または一部が免除されます。

 自社株の評価額が高く、株式を後継者に移す際の贈与税・相続税が事業承継の障害となる企業にとっては、有力な選択肢です。制度には、恒久的に設けられている「一般措置」と、2018年に創設された時限的な「特例措置」があります。

 特例措置では、対象となる株式数の上限がなく、贈与税・相続税とも納税猶予割合は100%です。最大3人までの後継者が対象となり、承継後5年間の雇用確保要件についても、一般措置より弾力的な取り扱いが設けられています。

 ただし、事業承継税制は「税金が最初からゼロになる制度」ではありません。一定の要件を満たし続けることを条件として、納税を猶予する制度です。

 特に、贈与税・相続税の申告期限の翌日から原則5年間の経営承継期間中は、後継者が代表者でなくなった場合や、対象株式を譲渡した場合などに、都道府県の認定取消しや納税猶予の期限確定につながることがあります。

 その場合、猶予されていた税額の全部または一部に加え、利子税の納付が必要になる可能性があります。目先の節税効果だけで制度を選ぶのではなく、承継後の経営計画や株式保有方針まで含めて判断することが重要です。

特例承継計画の提出だけでは納税猶予は始まらない

 特例承継計画には、会社、先代経営者、後継者に関する情報の他、株式を承継する予定時期、承継までの経営上の課題と対応策、承継後5年間の経営計画などを記載します。

 会社は、税理士、商工会議所、金融機関などの「認定経営革新等支援機関」から指導・助言を受け、その内容を記載した上で、会社の主たる事務所が所在する都道府県に提出し、確認を受けます。注意したいのは、特例承継計画について都道府県の確認を受けただけでは、贈与税・相続税の納税猶予は始まらないということです。その後、実際に株式の贈与または相続が行われた段階で、会社、先代経営者、後継者などが法律上の要件を満たしているかについて、改めて都道府県知事の認定を受ける必要があります。

 さらに、税務署に贈与税または相続税の申告書を提出し、原則として担保も提供しなければなりません。つまり、特例承継計画の提出、都道府県知事の認定、税務署への申告は、それぞれ別の手続です。計画の確認を受けただけで制度の利用が確定したと誤解しないようにしましょう。

 一方、特例承継計画を提出したからといって、必ず特例措置を利用しなければならないわけではありません。計画の確認後でも、後継者が実際に特例措置の適用を受ける前であれば、所定の変更手続によって後継者を変更・追加することができます。ただし、すでに特例措置の適用を受けた後継者を、適用後に別の者へ差し替えることはできません。

 制度を利用する可能性がある企業は、将来の選択肢を残すためにも、早めに専門家へ相談する価値があります。

経営者が今から確認すべき5つのポイント

1. 制度の対象となる会社かを確認する

 まず、自社が特例措置の対象となる会社かを確認する必要があります。上場会社や一定の資産管理会社などは対象外となります。また、会社の規模、先代経営者や後継者の役職・株式保有状況、議決権割合などにも細かな要件があります。株主名簿上の株主と実際の所有者が異なる名義株が残っている場合や、親族間で株式が細かく分散している場合には、その整理に時間を要します。

 過去の株式移動に関する契約書や贈与税申告書が残っていない場合もあります。まずは株主名簿、定款、法人税申告書、過去の株式譲渡・贈与に関する資料をそろえ、現在の株主構成を正確に把握することが出発点です。

2.後継者を税金だけで決めない

 特例措置では、最大3人までの後継者を対象にできます。ただし、複数の後継者へ株式を分散して承継すると、議決権も分散し、経営上の重要な意思決定が難しくなる可能性があります。

 親族間の公平を優先して株式を均等に分けた結果、会社の支配権が不安定になったり、将来の株式売却を巡って対立が生じたりすることも考えられます。

 誰に経営権を集中させるのか、株式を取得しない相続人にはどのような財産を渡すのか、遺留分への対応をどうするのかを併せて検討しなければなりません。事業承継税制は、後継者を決める制度ではありません。まず経営者として適切な後継者を選び、その後に税制の利用を検討するという順序が重要です。

3.自社株評価と将来の資金負担を把握する

 事業承継税制の利用を判断する前に、現在の自社株評価額と、贈与税・相続税の概算額を試算する必要があります。事業承継税制を利用しない場合、一般措置を利用する場合、特例措置を利用する場合について比較し、それぞれの税負担と手続負担を確認します。特例措置を利用すれば、当初の納税負担を大きく抑えられる可能性があります。

 一方で、将来、要件を満たせなくなった場合には、猶予税額と利子税を納付しなければならない点にも留意が必要です。会社や後継者に納税資金が残っているとは限りません。制度利用時には、猶予税額を把握するとともに、将来の資金負担に備えることも必要です。また、自社株以外に相続財産がほとんどない場合、後継者以外の相続人に渡す財産が不足することがあります。生命保険、不動産、退職金なども含め、相続財産全体の分割方針を検討しましょう。

4.承継後も報告・届出が続く

 事業承継税制は、株式を移転して税務申告を行えば終わりではありません。贈与税・相続税の申告期限の翌日から原則5年間の経営承継期間中は、都道府県への年次報告と、税務署への継続届出が原則として毎年必要です。経営承継期間の経過後も、税務署に対して継続届出書を原則3年ごとに提出しなければなりません。

 継続届出書を期限までに提出せず、その後も所定の期間内に対応しなかった場合には、原則として納税猶予の期限が確定し、猶予税額と利子税の納付が必要になります。担当者の退職、顧問税理士の変更、会社の移転などがあっても、届出期限は自動的には引き継がれません。会社、後継者、顧問税理士の間で、誰がどの期限を管理するのかを明確にし、長期間にわたって手続を継続できる体制を整える必要があります。

5.組織再編や株式譲渡を独断で進めない

 特例措置の適用後は、大きな経営判断を行う前に、納税猶予への影響を確認する必要があります。承継した株式の譲渡、後継者の代表者退任、資本金の減少、会社分割、合併、株式交換、事業譲渡などは、その内容によって都道府県知事の認定や納税猶予に影響する場合があります。会社が資産管理会社に該当するようになった場合や、一定の売り上げ・従業員要件を満たさなくなった場合にも注意が必要です。組織再編や株式売却を行ったからといって、必ず納税猶予が終了するわけではありません。しかし、取引の内容や実施時期によって取り扱いが異なります。再編や譲渡を決定した後で税理士に相談しても、対応できない場合があります。取締役会や株主総会に諮る前の段階から、事業承継税制への影響を確認する運用が必要です。

令和9年度税制改正で制度の将来像を検討

 法人版事業承継税制の特例措置による贈与・相続の期限は、2027年12月31日です。令和8年度与党税制改正大綱では、特例措置の適用期限到来後の制度のあり方について、課税の公平性なども踏まえて検討し、令和9年度税制改正で結論を得る方針が示されています。

 中小企業庁の検討会では、贈与による事業承継をより促す制度設計、対象とする後継者数、雇用人数だけでなく賃金なども考慮する要件、地域経済や生産性向上への貢献をどのように評価するかといった論点が挙げられています。ただし、現行の特例措置が、そのままの内容で延長されるとは限りません。

 今後は、制度の延長や恒久化、要件の見直し、別の支援策への移行など、複数の方向が検討対象となる可能性があります。将来の税制改正を待つという選択肢もありますが、その間に現行特例の適用期限が到来し、利用機会を失う可能性があります。

 自社の承継予定時期、後継者の準備状況、自社株の評価額、予想される税負担などを踏まえ、現行制度を利用するのか、今後の改正を見極めるのかを個別に判断する必要があります。

今から始めたい3つの確認

 まず、株主名簿、定款、決算書、法人税申告書、過去の株式移動に関する資料をそろえ、現在の株主構成と自社株評価額の概算を確認します。

 次に、後継候補者と承継時期について話し合い、経営権、財産分配、遺留分、個人保証、金融機関との関係など、税金以外の課題を洗い出します。その上で、事業承継税制に詳しい税理士や認定経営革新等支援機関に相談し、特例承継計画の作成から株式の移転、都道府県への認定申請、税務申告、承継後の継続管理までを含めた工程表を作成します。

 期限まで約1年ある今なら、制度を利用するかどうかを比較し、家族、役員、株主、金融機関などの関係者と調整する余地があります。期限が近づいてから書類だけを整えるのではなく、会社の次の10年を考える経営課題として、事業承継の準備に着手することが重要です。

※この記事は2026年8月時点の情報です

執筆=一般社団法人租税調査研究会
一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は56名。会員会計事務所は100事務所を超える。
主な著書は「一冊ですべてわかる! 暗号資産の税務処理と調査対応のポイント」(第一法規)、「国税OB税理士による 税務調査のすべて(改訂版)」(大蔵財務協会)、「加算税の最新実務と税務調査対応Q&A 判決・裁決・事例で解説」(大蔵財務協会)、「税目別ケースで読み解く!国際課税の税務調査対応マニュアル」(ぎょうせい)等多数。

監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。
株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。

【TP】

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