最新セキュリティマネジメント(第52回) 長期休暇中のセキュリティ危機管理のヒント:初動対応と復旧に向けた備え

リスクマネジメント 働き方改革

公開日:2025.09.11

長期休暇中は企業のセキュリティ体制が手薄になりがちだ。弱点を狙うサイバー攻撃者にとって、セキュリティ担当者が不在の長期休暇中は、格好の攻撃機会になる。セキュリティ担当者としては、自分の不在時に代役を務めてもらう担当者が適切な判断や行動ができる体制を整えることで、トラブルを未然に防ぎ、万一のインシデント発生時も被害を最小限に抑えることができる。どんな対策が有効なのだろうか。

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長期休暇中の脆弱性に備えたマニュアル整備を

 セキュリティ担当者の長期休暇明けにセキュリティトラブルが多い理由は、その期間中にたまったメールを一気にチェックするため、ミスが発生しやすい状況が生まれるからだ。休暇中にフィッシングメールや標的型メールが届いている可能性に加え、セキュリティソフトの定義ファイル、ファームウエアやOSの修正プログラムが未更新の状態となり、攻撃を受けるリスクが高まる。

 さらに自分が不在中にセキュリティトラブルが発生した際、対応策が用意されていなければ初動対応に不備が生じ、被害が拡大する可能性もあるだろう。

 対策の第一歩として、不在時の初動対応マニュアルの準備が欠かせない。セキュリティインシデント発生を想定した具体的な対応策をマニュアル化して、代役を依頼する担当者に引き継いでおくようにしたい。マニュアルをまとめるにあたっては、不慣れな担当者でも対応できるよう、分かりやすい内容にまとめる必要がある。

 重要なのは、パソコンやサーバーの不審な動作が報告された際の対応手順だ。まず検知や診断のためには、外部の検知・診断サービスの導入も検討しよう。例えば、トレンドマイクロやF-Secure、ESETなどが提供するウイルス検知ツールや、横浜国立大学 情報・物理セキュリティ研究拠点 吉岡研究室が運営するマルウエア感染・脆弱性診断サービス「am I infected?」、その他にもセキュリティソリューション会社の提供する脆弱性ツールなどがある。マニュアルには、それらの利用手順なども含めておくとよいだろう。

検知後の適切な対応体制づくり

 前述したウイルス検知ツールなどでマルウエアを検知したら、直後の初動対応が最重要となる。まずあらかじめ決めたルートに従って、情報システム部門や経営企画部門、経営者へ迅速に報告する。担当者の判断を支援するため、マニュアルには関係部署や関係者の連絡先、セキュリティ対応体制図、報告範囲と社外公表のガイドラインなども含めておこう。

 次に重要なのが被害拡大の防止だ。マルウエアへの感染が疑われるパソコンなどのデバイスをWi-Fiや有線LANなどの社内ネットワークから隔離する。同時に類似現象が他のデバイスで発生していないかを確認し、感染が広がっている場合には、組織全体のネットワーク停止も検討する。これらの判断基準と実施手順もマニュアルに明記しておく。

 被害防止策の実施後は、セキュリティインシデントの影響範囲を見極める必要がある。想定される被害の影響範囲やビジネス上のリスクなど、判断すべき事項をマニュアルに記述する。また、担当者が自身で判断できない状況も想定して、関連部署や依頼可能な外部の専門業者の連絡先などを記載する。重大な被害が確認された場合には警察への被害届提出も必要となるため、その手順まで含めた準備が望ましい。

 セキュリティインシデントへの初動対応が完了したら、隔離したシステムやネットワークの復旧作業の検討段階に入る。ただし、代役を依頼する担当者には初動対応までを担当範囲とすることが望ましい。具体的な復旧作業は、セキュリティ担当者の休暇明け後に実施する方が安全である。代行者には、発生した事象と実施した対応について、時系列での記録と報告書の作成を依頼する。報告書には対応内容、判断の根拠、実施した対策を詳細に記録するようお願いしよう。

 ネットワークやシステムの本格的な復旧作業は、セキュリティ担当者が休暇から戻った後に行う。まず対応報告書を精査して状況を正確に把握し、セキュリティ診断サービスなどを使って現在のセキュリティレベルを確認する。その上でシステムの復旧手順を決定し、必要に応じて追加の対策を講じながら復旧を進める。

 さらに同様のインシデントの再発を防ぐため、マニュアルの見直しや従業員教育の実施など、より強固なセキュリティ体制の構築に向けた取り組みを進めよう。代役を依頼した担当者からのフィードバックを生かして初動対応マニュアルを改善することも、次の長期休暇へ向けた重要な課題となるだろう。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです。

執筆=高橋 秀典

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