弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第37回) 休憩時間中の電話番は労働?拘束時間の基準を知る

法・制度対応

公開日:2017.07.28

 働き方改革を政府が強力に推進する中、労働時間の削減が急務になっています。その際に、同時に注目されているのが休憩時間などを含む拘束時間です。労働時間と拘束時間の関係や取り扱いについては、業種や勤務形態、あるいは企業独自の慣習などもありますが、トラブルを招かないように、しっかり整理しておくことが重要です。

 拘束時間には作業していない時間も含まれます。この作業していない時間を休憩時間か、手待(待機)時間と解釈するかで賃金問題が発生します。解釈の違いによって労働時間が変わるため、賃金などの算出方法が変わり「ただ働き」や「残業代不払い」というトラブルに発展する可能性があるのです。トラブルを未然に防ぐために、拘束時間、労働時間の定義と、休憩時間、手待(待機)時間の解釈について説明します。

拘束時間、労働時間とは?

 拘束時間と労働時間は何が違うのでしょうか。拘束時間は始業時刻から終業時刻までの全時間のことで、休息時間を含んでいます。これに対し、労働時間は業務を行っている時間のことです。つまり、拘束時間から休憩時間を除いた時間のことになり、実労働時間ともいいます。そして休憩時間は、拘束時間の途中で、労働から完全に開放されることが法律で保障されている時間のことをいいます。言い換えれば、心身ともに休憩している時間のことです。

 もし作業をしていなくても、電話が鳴れば応対しなければいけない、お客さまの来訪があれば接客をするというような状況は休憩時間と見なされません。このように業務を行っていない時間を、手待時間(待機時間)といいます。手待時間とは、指示があればすぐに作業をしなければいけない時間なので、労働義務を負っていると見なされるのです。手待時間は労働から完全に開放されないので労働時間に加算されます。作業を行っていない時間を手待時間、休憩時間のどちらと解釈するかにより労働時間が変わるので、残業代などの賃金計算では重要なポイントになります。

労働時間と休憩時間の違い

 前述のように電話応対や接客をしなければならない時間は手待時間となります。では、会社の制服に着替える時間は労働時間になるのでしょうか。

 労働時間は、会社の始業時間や終業時間だけでは決まりません。会社の指揮監督下で業務に従事しているかどうかが、労働時間と判断するポイントです。会社の指示で制服に着替えなければ業務は行えないとするなら、着替える時間も労働時間になります。

 始業時間前の朝礼や研修は労働時間になるのでしょうか。自発的でなく、参加が義務付けられているような場合は、会社の指揮監督下で業務に従事していると見なされるので、労働時間となります。

 終業後に上司が主催する親睦会への参加はどうでしょう。その親睦会への参加が強制されているような事情(不参加の社員は給与が減額になるなど)があれば、労働時間と見なされる可能性があります。ただし、単なる上司主催の親睦会というだけでは、労働時間には見なされません。

 出張のための移動時間は、もし会社の指示により運搬・管理している荷物などがあれば、移動自体が会社からの指揮監督下で行われているものといえます。その場合は移動時間も労働時間に見なされます。ただし移動中はどこで何をしていても構わない、というように経路や立ち寄りなどに制限がないケースでは労働時間にはならないことがあります。

 このように、労働時間(手待時間を含む)かどうかは、自主的なものか、会社の指揮監督下で行われたものかが判断をする上でのポイントになります。

手待時間と見なされれば残業代が発生!?

 休憩時間、手待時間の解釈を取り違えると、労働時間や賃金計算でトラブルが起きることも考えられます。それを防ぐには、管理者が社員の労働時間を正確に認識し、労働時間内にどのような行動をさせるかを具体的に指示することによって、ある程度は防止できるでしょう。もしも社員の行動と労働時間と実情に食い違いがあるようであれば、管理者は労働時間とのずれがなくなるように業務状況や賃金を見直す必要があります。

 賃金を見直すと、採算が合わなくなるといった懸念があるかもしれません。その場合は、例えば手待時間などの賃金を、本給や残業代とは別に手当を設けるなどの対策も考えられます。労働時間と賃金にずれが生じていなければ、社員も気持ちよく働けるでしょう。

 経営者としては休憩時間と考えていた時間が実態は、手待(待機)時間だった場合には、その分の賃金支払いを余儀なくされるだけでなく、法律で定められた休憩時間を与えていないと判断されることにもなりかねません。休憩時間を形式的に決めただけでは不十分です。勤務実態を正確に把握することが非常に大切なのです。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年7月21日)のものです

執筆=本間 由也

1982年生まれ。2004年明治学院大学法学部法律学科卒業、2007年明治学院大学法科大学院法務職研究科法務専攻卒業。翌2008年に司法試験合格。紀尾井町法律事務所での勤務を経て、2011年1月法テラス西郷法律事務所初代所長に就任。2014年2月こだまや法律事務所を東京都国分寺市に開所、現在に至る。

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