弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第10回) サービス残業が会社を潰す?本当は怖い残業代の話

働き方改革 資金・経費

公開日:2015.09.09

 企業にとっても、労働者にとっても、重要な問題であるはずの労働時間。にもかかわらず、多くの企業が「社員には多少サービス残業をさせても大丈夫」と考え、労働者も「会社にはこの先もお世話になるので、黙ってサービス残業をする」という風潮がありました。

 しかし、厚生労働省が発表した「監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成24年度)」によると、それまで不払いになっていた残業代が是正指導により支払われた合計額 は約104億円、1企業での支払額が5億円を越える企業もありました。サービス残業は、いずれツケとして会社の首を締めることになるのです。

 今回は、残業代、つまり時間外労働や休日労働がどれだけ会社のリスクとなるかについて考えてみましょう。

時間外労働・休日労働は「法律違反」

 そもそも、時間外労働・休日労働とはどんなことをいうのでしょうか。本連載の第3回「ブラック企業」の回でも軽く触れましたが、改めて確認をしてみましょう。

 労働基準法では、最低の労働条件として、原則とし1日8時間まで、1週間で40時間までしか働けないとしています。これを法定労働時間といいます。この法定労働時間を超えて働くことを時間外労働といいます。また、原則として週1日以上休日がなければいけないとしています。この法律上認められた休日を法定休日といい、その休日に働くことを休日労働といいます。

 労働基準法では、原則として時間外労働・休日労働は認められていません。時間外労働・休日労働を行うためには、会社と労働者の過半数で組織する労働組合や過半数の代表者との間で、書面による労使協定(いわゆるサブロク協定)を締結し、労働基準監督署長に届け出ることが必要です。また、個々の労働者との労働契約においても、残業等が認められていることも必要です。このような規定がない場合、どんなに会社が忙しくても、原則として時間外労働・休日労働は法律違反となります。

どんなときに割増賃金が発生するの?

 時間外労働・休日労働に対しては、企業は割増賃金を支払う必要があります。これがいわゆる「残業代」というものになります。

 労働基準法では、原則として午後10時から午前5時までの間の労働(深夜労働)をした場合にも、法定労働時間の範囲内であっても割増賃金を支払う必要があるとしています。深夜労働の規制は、管理監督者であっても適用されるので、注意が必要です。

 働いている時間は、実際に労働者が明示または黙示で、会社の指揮命令下にあるかどうかで判断をします。就業規則などは関係ありません。そのため、事業場内での作業着への着替えを義務付けている場合に作業着などへの着替えるといった準備時間、会社からの指示を待っている状態の待機時間なども労働時間となります。そのため、これらの作業のために法定労働時間を超える場合にも、割増賃金を支払う必要があります。

 それでは、就業規則などで労働者が働かなければならないと定められた時間(所定労働時間)を超えて働いた場合にはどうなるのでしょうか。一般的には、この場合も残業といわれており、働いた分の通常の賃金は請求できます。しかし、所定労働時間を超えても法定労働時間は超えていない場合、就業規則等に定めがなければ割増賃金は発生しません。残業代は「法定労働時間を超えた労働かどうか」が一番のポイントとなります。

 また、週休二日制のように、企業が法定休日以外の休日(所定休日)を認めている場合、所定休日に働いた場合は通常の賃金は請求できますが、就業規則等に定めがなければ割増賃金は発生しません。働いた結果、週40時間を超えるような場合には、割増賃金を支払う必要があります。

 ここでよく問題となるのが、休日を振り替えた場合です。事前に休日を振り替えた場合、所定休日・法定休日に関係なく、原則として割増賃金は発生しません。しかし、 法定休日に労働をしたあと、後日その代わりとなる休日を取得する場合、法定休日に働いている事実には変わらないため、割増賃金を支払う必要があります。このように、事前の振替かどうかについてもしっかりと区別をする必要があります。

 このほかにも、残業についてよく誤解される実例については、本連載の第3回でも紹介しているので参考にしてください。

割増賃金の計算方法は?

 では、時間外労働・休日労働をした場合、どの程度の割増賃金を支払う必要があるのでしょうか。割増賃金とは、「通常の労働時間の賃金」を算出したうえで、一定の比率を乗じて算出されます。この「通常の労働時間の賃金」には、いわゆる家族手当、通勤手当など労働の対価とはいえず、個人的な事情によって異なるようなものは入りません。逆にいえば、それ以外のものはすべて賃金に含まれます。

 具体的に考えてみましょう。例えば月給の場合、まず年間の所定労働時間を計算し、12で割り、月の平均所定労働時間を算定します。次に、月給を月の平均所定労働時間で割った金額が、通常の労働時間の賃金となります(労働基準法規則19条参照)。その賃金に以下の割増率をかけたものが割増賃金となります。

・60時間までの時間外労働または深夜労働 25%以上
・60時間を超えた部分の時間外労働 50%以上
・深夜労働とならない休日労働 35%以上 
・60時間までの時間外労働かつ深夜労働 50%以上
・60時間を超えた部分の時間外労働かつ深夜労働 75%以上
・休日労働かつ深夜労働 60%以上

 細かい話ですが、この計算をする際に、1時間あたりの賃金額や割増賃金額、1か月における時間外労働などのそれぞれの割増賃金額の総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満を切り捨て、それ以上を1円に切り上げて処理をすることは認められています(昭63.3.14基発第297号)。

2倍以上の金額に!残業代不払いのリスク

 割増賃金は、企業にとって大きなコストになります。この割増賃金を支払わなかった場合、どのような不利益があるのでしょうか。

 まず、労働基準監督署より、是正勧告等がなされ、これまでの残業代(過去2年間分)をすべて清算することになるリスクがあります。一人分では大した金額とはならなくても、全従業員の残業代となると、高額になることも予想されます。不払いが悪質であるなどと判断された場合などには、送検され、刑事事件に発展する可能性もあります。

 また割増賃金には、使用者が営利企業の場合は年6%の遅延損害金が、退職した労働者に対し不払いであった場合には年14.6%の遅延損害金が、それぞれ発生します。

 さらに、割増賃金が裁判所に請求されるときには、未払額と同額の付加金(最大2年分)も請求される可能性もあり、その付加金には判決確定後の翌日から年5%の遅延損害金が発生します。加えて、裁判で固定残業代(残業の有無に関係なく、毎月定額を残業手当として支給すること)の主張をしていた場合、その主張が認められなかった場合には、固定残業代も通常の労働時間の賃金に含まれることになるため、残業代が会社の認識よりも高くなります。

 このように、残業代を適切に支払っていない場合、実際の残業代以上の金銭を支払うことになるリスクがあります。それだけではなく、本連載で繰り返し指摘してきたように、会社としての社会的な評価の低下、労働災害のリスクなどもあります。

残業対策を考える

 このような不利益を被らないためには、そもそも残業をなくすにはどうすればよいのか考えてみましょう。まずは、就業時間内に無駄がないかどうかの点検から始めるべきです。就業時間中に、業務とは無関係なことをしないように適宜注意をしたり、業務の指揮系統を明確にし、従業員の一日の業務内容を把握するだけでも、作業効率は上がります。研修制度やITを導入することにより、無駄を省くこともできます。

 また、従業員が勝手に残業をすることがないように、残業を申告制にすることも考えられます。タイムカードも労働時間と合うようにして、労働時間を管理すべきです。働き方によっては、変形労働時間制やフレックスタイム制などの導入も場合によってはありうるでしょう。

 残業はさまざまな原因により発生し、その対応もさまざまです。まずは専門家に相談をしながら対策を考えることが最も効率的でしょう。

 ※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年11月19日)のものです。

執筆=本間 由也

1982年生まれ。2004年明治学院大学法学部法律学科卒業、2007年明治学院大学法科大学院法務職研究科法務専攻卒業。翌2008年に司法試験合格。紀尾井町法律事務所での勤務を経て、2011年1月法テラス西郷法律事務所初代所長に就任。2014年2月こだまや法律事務所を東京都国分寺市に開所、現在に至る。

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