弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第11回) 登録して終わりじゃない!知的財産の上手な使い方

法・制度対応 増収施策

公開日:2015.09.14

 2002年に国家戦略として打ち出された「知的財産立国(知財立国)」構想をご存知でしょうか。特許権や著作権といった知的財産権を保護し活用することで、製品やサービスを高付加価値化し、経済・社会の活性化を図る取り組みのことです。既に10年以上経過していますが、あなたの企業では活用されているでしょうか?

 今回は、知的財産権を活用した企業戦略を考えてみましょう。

知っているようで意外と知らない? 知的財産権とは

 知的財産権とは、人の活動により生まれた財産的な価値がある技術、アイデア、ノウハウ、情報などを保護するための権利のことです(知的財産基本法2条2項参照)。有名なものとしては、特許権実用新案権意匠権商標権著作権などが挙げられます。

 これらの権利を聞いたことがある人は多いと思います。しかし、実際にどのように活用するかを考えたことがある人は意外と少ないかもしれません。そこで、まずはこれらの有名な知的財産権の内容を簡単に確認してみましょう。

 特許権や実用新案権は、技術やアイデアを保護します。特許権は、原則出願から20年間、実用新案権は、出願から10年間保護されます。

 意匠権は、デザインを、登録から10年間保護します。

 商標権は商品やサービスの名前やマークを登録から10年間保護します。商標権は更新により登録期間を延長することができます。

 著作権は、美術、コンピュータープログラムなどの精神的創作物を保護します。原則創作時から著作者の死亡後50年(法人著作の場合は公表から50年間)保護されます。

 これらの知的財産権が認めらえると、その権利により保護されたものを独占的に利用できます。つまり、模倣等の侵害行為に対し、差止請求、損害賠償請求などができます。そのため、これらの権利を上手に活用することによって、競業企業による模倣等を排除することができるのです。

 また、知的財産権を主張するには基本的に特許等などの登録が必要となりますが、たとえば特許登録されている商品ということで信頼度が上がったり、世界初の特許技術を使っている商品として特許等の登録がされていること自体が宣伝になるという効果もあります。

 知的財産権はすべての企業に平等に認められます。そのため、知的財産権は、中小企業にとっては大企業と対等に渡り合うための武器として、是非注目してほしいものなのです。

 もっとも知的財産権の登録にはそれぞれ一定の費用がかかります。また、権利の保護期間や技術等の公開時期、登録手続きもそれぞれ異なりますので、各権利の特徴を理解したうえで運用することが重要になります。

 なお、知的財産を侵害する行為を規制している法律として、不正競争防止法というものがあります。同法ではさまざまな行為が禁止されています。営業秘密やノウハウなどの知的財産権は基本的にはこの法律によって保護されますので、本連載の第2回「営業秘密」を不当に持ち出されてしまう前にも参考にしてください。

知的財産権を意識した事業計画を考える!

 一度知的財産権として認められると、模倣した企業に対し差止請求が認められるなど、非常に強力な効果が認められます。そのため、知的財産の調査をせずに企業活動をしてはいけません。場合によっては、知的財産権を侵害しているとして、その市場から撤退を余儀なくされうるからです。うっかりしていたでは済まされません。少なくとも自社の事業活動にはどのような知的財産権が障害となりうるかを事前に調査をしておくべきでしょう。

 逆に、知的財産権を自社で保有すれば、強力な武器となります。このようなことを言うと、とりあえず知的財産権として登録できるものはすべてしておこうという発想が出てくるかもしれません。しかし、前述のように権利の登録・維持には一定の費用がかかります。さらに、特許技術などは公開されてしまいますので、公開技術のアイデアをベースに別の発明をされてしまうなどといった影響も考えられます。そのため、漫然と知的財産を登録することはおすすめできません。

 ではどうすればよいのでしょうか。答えは簡単です。「事業計画を踏まえ」何のために知的財産権を取得するのか、または取得せずに営業秘密として秘匿するのかなどを検討すればよいのです。

 たとえば、1886年に誕生したコカ・コーラは、その成分等について特許を取得せずに、営業秘密として秘匿するという選択をしました。あくまで想像ですが、コカ・コーラの味は他社に絶対真似できないという自信があったのでしょう。その戦略は成功し、コカ・コーラは、100年以上たった今でも有力な商品としての地位を保持しています。もし仮に特許を取得していれば、成分等が公表されるため、保護期間経過と同時に、企業の有力商品としての価値がなくなっていたでしょう。

 他方でコカ・コーラは、ブランドイメージのために、飲み物容器の意匠登録や名前の商標登録を行っています。しかも飲み物容器は、意匠登録だけではなく、登録期間の更新ができる立体商標としても登録しています。これも想像ですが、消費者が飲み物容器でコカ・コーラを識別していると考え、飲み物容器を他社に永久に真似されないようにすることにより、差別化を維持したかったのでしょう。

 このように、消費者の目線で自社の特徴、強みなどを考え、あわせて自社の事業計画をふまえ権利を取得し、その権利を事業で生かすことが知的財産権を「活用」するということです。

 成長していない市場で基本となる技術を発明し独占してしまえば、その市場は独占できます。しかしその場合、市場の成長は期待できず、「こんなことであればライセンス契約などを積極的に行い、市場全体を成長させたほうがよかった」となるかもしれません。

 また、権利の登録が消費者の考えるニーズと無関係でもいけません。珍しい名前だとして商標をとっても、消費者目線で目を引くものでなければ現実的に意味がありません。

 さらに、権利を登録しても、実際に行使しなければ事業活動にはほぼ役立ちません。知的財産権を保有できたことで満足しては無意味なのです。権利侵害を発見した場合には、積極的に排除等の対策をする必要もあります。

 知的財産権の活用方法を考えるためには、数多くの活用例を知ることが近道です。特許庁が公開している知的財産権活用事例集2014なども参考にしてみましょう。

知的財産権を手に入れるには

 どんな素晴らしい発明等の知的財産であっても、それが知的財産であると気が付き、登録をしなければ原則として無意味です。そのため、従業員への知的財産教育は必要不可欠でしょう。

 また、知的財産権の入手先は、自社に限られません。他社からライセンスを受けたり、譲渡してもらうことも可能です。そのため、あらかじめ自社の事業と関係する分野の知的財産権の調査をしておけば、新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれません。使われていない技術というのも相当数あります。海外の公表されている情報から技術情報を入手することも考えられます。

 さらに、知的財産権の出願状況は公表されているため、調査をすれば競業企業の動向・方向性が判明し、事業の方針に反映(たとえば同じ分野での研究開発を避ける、クロスライセンスを検討するなど)させることもありえます。

 このように、知的財産権を活用することは、企業の成長に直結します。無関心は、企業に損害を与えることになりかねません。自社の知的財産権について一度考えてみてはいかがでしょうか。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年12月4日)のものです。

執筆=本間 由也

1982年生まれ。2004年明治学院大学法学部法律学科卒業、2007年明治学院大学法科大学院法務職研究科法務専攻卒業。翌2008年に司法試験合格。紀尾井町法律事務所での勤務を経て、2011年1月法テラス西郷法律事務所初代所長に就任。2014年2月こだまや法律事務所を東京都国分寺市に開所、現在に至る。

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