弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第26回) まさかの課徴金も!知っておくべき「広告」のルール

法・制度対応

公開日:2016.08.15

 消費者が商品やサービスを選ぶ際には、広告に表示された内容を元に判断をすることが多いと思います。そのため企業は、商品やサービスをより良く見せるために、消費者に向けて広告宣伝を行います。

 その広告の内容に嘘があったり、誤解を招いたりすれば、消費者は合理的な選択ができません。そこで、企業が広告において、消費者に嘘をついたり、誤解を与える表示をしないように、いくつかの法律で不正確な表示をしないように制限を設けています。

 そんな法律の中から、最近改正された「不当景品類及び不当表示防止法」、いわゆる「景品表示法」にて規定されている、広告のルールを確認してみましょう。

「特別価格!」なのに通常と変わらない場合は法律違反

 景品表示法では、以下の3点を基準に不当な広告を規制しています。

 1つ目は、商品やサービスの内容が、実際の商品や競業企業の商品よりも著しく優良であると不当に示すことを禁じる「優良誤認表示」。2つ目が、商品やサービスの価格などの取引条件が、実際よりも著しく有利であると示すことを禁じる「有利誤認表示」。3つ目が、上記2点以外でも一般消費者の合理的な選択を妨げる表示を規制する、「内閣総理大臣が指定する不当な表示」です。

 優良誤認表示とは、例えば修復歴がある中古自動車であるのに「修復歴なし」と表示をしたり、“この技術は当社だけ”と広告しているにもかかわらず、実はそうではなかったという場合の表示のことです。品質が実際のものより良いと誤解させる表示は禁止されているのです。

 有利誤認表示とは、通常の取引よりもお得だと誤解させる表示のことです。例えば「特別価格」と表示されているのに、実際は通常価格と変わらない場合や、「地域最安値」と表示しているが、実は他店よりも割高といった表示のことです。これもまた禁止されています。

 有利誤認表示でよく問題となるのが「二重価格」です。二重価格とは、通常の価格とセール時の価格を表示し、現在の取引がお得であることを示すケースです。例えば、「通常価格の半額でご提供」という広告を見かけることがあると思います。

 この場合でも、セールの直前に通常の価格を2倍に設定しておけば、セール時に値上げ前の価格で売ったとしても「半額」という表示も全くの嘘ではなくなってしまいます。しかしそれでは消費者は通常の取引よりもお得だと誤解してしまうでしょう。

 この規制に該当しないようにするには、「通常価格」をどのように考えるのかがポイントです。消費者庁のガイドラインによると、セール時から8週間前までの期間のうち、その半分以上の期間において販売されていた価格を通常価格とすれば、問題となる可能性は低くなります。

 最後の内閣総理大臣が指定する不当な表示は、商品の原産国の偽装や、実際には購入できないものを購入できるかのように見せる「おとり広告」が該当します。原産国の表示に関しては、仕入れ先が誤った情報を提供するケースも見られます。

広告の正しさを証明しないと、課徴金を支払うことに

 景品表示法に違反すると、行政から違反した事実を一般消費者に周知徹底すること、再発防止策を講じることを命じる措置命令が下されます。その結果、企業の信用が落ちてしまうことになるでしょう。

 この措置命令は、違反をしたという確たる証拠がなくても下されることがあります。優良誤認表示の疑いがある場合、行政は事業者に対し期限(約2週間)を定め、表示の裏付けとなる根拠を示す資料の提出を求めることができます。その期限までに資料が提出されない場合、または資料が合理的なものと認められない場合には、優良誤認表示をした、つまり「景品表示法に違反した」と認定されてしまいます。これが、「不実証広告規制」と呼ばれるルールです。

 そのため、広告で表示する内容は、あらかじめ試験や調査による結果や専門家の見解など、客観的な裏付けを準備しておかなければ、仮に表示が真実であったとしても、優良誤認表示と認定され、措置命令を出される可能性があるということです。

 さらに2016年4月に行われた法改正では、優良誤認表示違反、有利誤認表示違反の場合には、課徴金が課せられることになりました。従来はこのような制裁はなかったことから、大きな変化といえます。

 課徴金の額は、不当な表示の対象となった商品の売り上げの3%(最長3年)が基本です。不当な表示と認定された内容によって、課徴金の前提となる商品が変わり、売上金額も変化することから、予想以上の負担となることもありえます。

 課徴金の手続きに関しては、資料提出の期限後であっても、不当表示でないことの反論が可能です。また、不当表示について知らなかったことに過失が認められない企業には、課徴金は課されません。

 とはいえ、課徴金の支払いから免れるためには、書面で情報を確認・共有化し、広告の表示の正しさを検証できるようにしておくこと、表示についての担当者を定めることが、これまで以上に重要となります。

課徴金を通常の半額に抑える方法とは

 改正された景品表示法では、課徴金を減額する方法についても規定されています。その方法は2つあり、1つ目は優良誤認表示・有利誤認表示をしたことについて自主申告をするというものです。課徴金は半額まで減額されます。

 もう1つは、購入者に対して購入額の3%以上の現金を返金することによって、返金額を課徴金から控除することができるというものです。金銭的な損得のみを考えると、さほどメリットはないようにも感じられますが、消費者に対し直接返金をすることで、消費者からの信頼を取り戻すという効果が期待できます。購入者が特定できれば検討に値するでしょう。

 広告を打つ以上は、顧客の目に留まり、心を揺さぶるようなインパクトが求められます。しかし、景品表示法に課徴金という制度が新たに盛り込まれたことは、表示について行政の監視が強化されていることの表れといえるでしょう。もし、「この広告で大丈夫かな……」と不安になった際は、法律の専門家に相談し、盤石の検討を加えた上で実施することをお勧めします。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年7月26日)のものです。

執筆=本間 由也

1982年生まれ。2004年明治学院大学法学部法律学科卒業、2007年明治学院大学法科大学院法務職研究科法務専攻卒業。翌2008年に司法試験合格。紀尾井町法律事務所での勤務を経て、2011年1月法テラス西郷法律事務所初代所長に就任。2014年2月こだまや法律事務所を東京都国分寺市に開所、現在に至る。

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