弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第74回) 速報!同一労働同一賃金の最新裁判例をチェック

法・制度対応

公開日:2020.11.09

 働き方改革の柱の1つに「同一賃金同一労働」があります。それをめぐってさまざまな裁判が行われていますが、2020年10月13日、15日、非正規社員(アルバイト、契約社員)と正社員との同一労働同一賃金に関する最高裁判決が相次いで出ました。

 今回は、同一労働同一賃金とそのガイドラインについて概観した上で、同一労働同一賃金を含む「働き方改革関連法」が成立する直前、2018年6月に出た2つの最高裁判例(ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件)と共に、非正規社員と正社員との同一労働同一賃金に関する最高裁判例を整理し、今後の実務上の留意点を解説します。

同一労働同一賃金とは

 同一労働同一賃金は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイムの正社員)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者といった非正規社員)の間の不合理な待遇差の解消をめざす制度です。

 同一企業内における正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差の解消の取り組みを通じて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにすることを目的としています(厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」)。

 これを受けて、短時間(パートタイム)・有期雇用労働法第8条では、事業主に、非正規社員と正社員との基本給、賞与その他の待遇の差について、それらの性質や支給の目的を踏まえて諸事情(「職務の内容」「職務の内容及び配置の変更の範囲」「その他の事情」)を考慮し、非正規社員に対して不合理な待遇をしてはならないとする「均衡待遇」について定めています。

 また、同法第9条では、事業主は、職務の内容および配置について通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対し、短時間・有期雇用であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて差別的取り扱いをしてはならないとする「均等待遇」について定めています。

 同一労働同一賃金に関する最高裁判例は、いずれも労働契約法第20条について争われたものですが、同条は「働き方改革関連法」の成立によって、短時間(パートタイム)・有期雇用労働法第8条に移植されています。したがって、今後は、同一労働同一賃金に関する争いは、同法8条や9条をめぐって展開されることになります。

同一労働同一賃金のガイドラインの内容を確認

 同一労働同一賃金に関する原則的な考え方や具体例は、ガイドライン(指針)で示されています(厚生労働省「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」)。

 例えば、基本給が、労働者の能力または経験に応じて支給される場合、通常の労働者と同一の能力または経験を有する短時間・有期雇用労働者には、能力または経験に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならないとされ、他方、能力または経験に一定の相違がある場合には、その相違に応じた基本給を支給しなければならないとされています。

 また、賞与が会社の業績などへの労働者の貢献に応じて支給される場合、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献度に応じた部分については、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならず、他方、貢献に一定の相違がある場合には、その相違に応じた賞与を支給しなければならない、とされています。

 さらに、ガイドラインに記載のない退職手当、住宅手当、家族手当などの待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消などが求められる、とされています。

 一連の最高裁判例を検討するには、これらガイドラインで示された考え方や具体例との整合性についても意識する必要があります。

同一労働同一賃金に関する最高裁の基本的な考え方

 働き方改革関連法成立直前、最高裁が同一労働同一賃金に関してそれまでの学説・裁判例の集大成として判断を示したのは、「ハマキョウレックス事件」(最判平成30年6月1日労判1179号20)と「長澤運輸事件」(最判平成30年6月1日労判1179号34頁)です。まずはこの2つをおさらいしましょう。

●ハマキョウレックス事件

本件は、運送会社において、配送ドライバーとして雇用されている契約社員が、作業手当などについて正社員との待遇差が不当であると訴えた事案です。

最高裁は、住宅手当を除く各種手当(皆勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当)は、ドライバーとしての職務内容が異ならなければ差異が生ずるものではないとして、正社員と差異を設けることは不合理であると判断しました。

 

●長澤運輸事件

本件は、運送会社において、定年後、有期労働契約にて継続雇用されたドライバーが、賃金が下がったことに対して不合理であると訴えた事案です。

最高裁は、賃金項目にかかる相違の不合理性の審査に当たっては、賃金総額の比較だけでなく、賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきとして、結論として、精勤手当および超過手当(時間外手当)を除く賃金項目(能率給、職務給、住宅手当、家族手当、役付手当、賞与)について、これを定年後継続雇用されたドライバーに支給しなくとも不合理ではないと判断しました。

 

 2つの判決はいずれも、複数の賃金項目における非正規社員と正社員との待遇差について、各賃金項目の趣旨を個別に考慮して、不合理か否かを判断しています。ただ、待遇差がどこまで許容されるかを個別に判断するとなると、その許容限度を明らかにするためには、司法判断の積み重ねが必要です。そのため、次なる司法判断が待たれていました。

同一労働同一賃金に関する最新の最高裁判例(最新事例)

 こうした状況の中、2020年10月13日と15日に相次いで同一労働同一賃金に関する最高裁の判決が出ました。具体的には、下記(1)と(2)が10月13日に第三小法廷にて、下記(3)~(5)が10月15日に第一小法廷にて、それぞれ判決が言い渡されました。その概要を解説しましょう。それぞれ判決文へのリンクを張りましたから、詳しく確認したい場合はご覧ください。

●(1)大阪医科大・地位確認等請求事件(令和元年(受)第1055号、第1056号)

本件は、元アルバイト職員が(正職員には支給される)賞与が支給されなかったことを不当であるとして争った事案です。

最高裁は、正職員へ賞与を支給する趣旨は労務の対価の後払いや一律の功労報酬、将来の労働意欲の向上などにあるとし、その目的は正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図ることにあるとしました。その上で、正職員と元アルバイト職員との業務には一定の相違があること(後者の業務は相当に軽易)、正職員は人事異動の可能性があることなどの事情を考慮し、アルバイト職員に賞与が支給されないことは不合理とまでは評価できないと判断しました。

 

●(2)メトロコマース・損害賠償等請求事件(令和元年(受)第1190号、第1191号)

本件は、元契約社員が(正社員には支給される)退職金が支給されなかったことを不当であるとして争った事案です。

最高裁は、退職金の性質を労務の対価の後払い、継続的な勤務の功労報償などを複合的な性質を有するとし、それが正社員に支給される目的を、職務を遂行し得る人材の確保や定着を図ることにあるとしました。その上で、正社員は、売店の販売員が不在の場合に早番・遅番をすること、複数の店を統括しエリアマネジャー業務に従事すること、配置転換を命じられる可能性があることなどの事情を考慮し、契約社員に退職金が支給されないことは不合理とまでは評価できないと判断しました。

 

●(3)日本郵便・未払時間外手当金等請求控訴、同附帯控訴事件(平成30年(受)第1519号)

本件は、元時給制契約社員が(正社員には与えられる)夏季冬期休暇が与えられなかったことを不当であるとして争った事案です。

最高裁は、夏季冬期休暇の目的は、労働から離れる機会を与えることで心身の回復を図ることにあるとし、その目的は契約社員にも当てはまるとして、これを契約社員に与えないことは不合理と判断しました。

 

●(4)日本郵便・地位確認等請求事件(令和元年(受)第777号、第778号)

本件は、時給制契約社員らが、(正社員には支給される)年末年始勤務手当が与えられず、また、(正社員には与えられる)有給の病気休暇が与えられないことを不当であるとして争った事案です。

最高裁は、年末年始勤務手当は、12月29日から1月3日の最繁忙期で多くの労働者が休日として過ごす期間に業務に従事したことへの対価という性質があるとし、かかる性質や支給要件、金額に照らせば、契約社員に支給しないことは不合理と判断しました。

また、病気休暇は、私傷病によって勤務できなくなった場合に生活保障を図り、療養に専念させることを通じて継続的な雇用を確保する目的があるとした上で、契約社員の中には有期契約の更新を繰り返し、相応に継続的な勤務が見込まれる者がいるとし、契約社員に有給の病気休暇を与えないことは不合理と判断しました。

 

●(5)日本郵便・地位確認等請求事件(令和元年(受)第794号、第795号)

本件は、時給制または月給制の契約社員らが(正社員には支給される)年末年始勤務手当、年始期間の勤務に対する祝日割増賃金、扶養手当が支給されないことを不当であるとして争った事案です。

最高裁は、年末年始勤務手当については、上記(4)と同様の判断をしました。

祝日割増賃金については、その趣旨は、多くの労働者が年始を休日として過ごすときに、最繁忙期のため勤務したことへの代償であるとして、契約社員に支給しないことは不合理と判断しました。

扶養手当については、扶養親族がいる者の生活設計を容易にして継続的雇用を確保する目的があるとし、この目的からすれば、扶養親族がいて、継続的雇用が見込まれる契約社員に支給しないことは不合理と判断しました。

 

実務上、どのような点に留意すべきか

 以上の最高裁判例を見たとおり、非正規社員と正社員との待遇の差がどこまで許容されるかは個別に判断されるため、一般化することはできません。上記判例の中でも、賞与や退職金の支給についても不合理とされる場合があることが明言されています。

 非正規社員と正社員との不合理な待遇差を解消する同一労働同一賃金を実現するためには、企業は、非正規社員と正社員とで待遇に差を設ける場合、その待遇の性質や目的を明確にした上で、職務の内容、職務の内容および配置の変更の範囲、その他の事情などの諸事情を考慮し、非正規社員に対して不合理な待遇をしないことが必要です。すべての待遇差について、その原則に合致しているかを、最新の裁判例およびガイドラインを踏まえて今一度確認しておくことが求められます。

執筆=上野 真裕

中野通り法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)・中小企業診断士。平成15年弁護士登録。小宮法律事務所(平成15年~平成19年)を経て、現在に至る。令和2年中小企業診断士登録。主な著作として、「退職金の減額・廃止をめぐって」「年金の減額・廃止をめぐって」(「判例にみる労務トラブル解決の方法と文例(第2版)」)(中央経済社)などがある。

【T】

あわせて読みたい記事

  • 弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第123回)

    自転車の「酒気帯び運転」が新たな罰則対象に

    法・制度対応

    2025.01.17

  • 弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第122回)

    「代表取締役」と「社長」の違い知っていますか?

    法・制度対応

    2024.11.21

  • 弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第121回)

    カスハラ対策に真剣に取り組もう

    法・制度対応

    2024.10.22

連載バックナンバー

弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話