弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第103回) ネット上の迷惑動画投稿による被害対策

法・制度対応

公開日:2023.04.27

 近頃、回転ずしチェーンなどにおいて、食器や調味料をなめまわしたり、すしに唾を付けたりする動画がSNSで拡散され、店側が被害を受けるといった事件が相次いで発生し、社会問題となっています。また、少し前には、「バイトテロ」と呼ばれる従業員による迷惑行為がSNSで拡散され、問題となっていました。

 SNSなどで瞬く間に情報が拡散してしまう世の中において、こうした迷惑行為による被害が発生した場合、企業はどのように対応していけばよいのでしょうか。

 まず、企業が迷惑行為を受けた動画がSNSなどで拡散されてしまった場合、企業としては、迷惑行為をした加害者に対して、刑事責任の追及や民亊による損害賠償請求を行うといった対応が考えられます。

 企業が迷惑行為の被害を受けた場合、さまざまな対応コストが発生します。例えば、食器や調味料をなめまわすといった被害を受けた場合、当然、消毒や洗浄、調味料の廃棄などを行う必要がありますし、場合によっては再発防止のために店内オペレーションの変更といった対応も必要になります。さらには、風評被害による客離れといった事態も生じる可能性があり、売り上げ減などの営業損害も想定されます。

 こうした損害を受ける以上、企業としては毅然(きぜん)とした対応で、刑事責任の追及や民亊の損害賠償請求を行うことはある意味当然ですし、迷惑行為が社会的に許されないものであると認知させ、模倣犯を防ぐといった効果もあると思われます。

 ただ、加害者が学生などの未成年者の場合、刑事責任の追及や損害賠償請求は大げさであり、加害者の将来を考えて、穏便に済ませた方がよいという意見もあり得るところです。企業としては、こうした意見も十分に考慮しつつ、事後対応により社会的評価が低下しないような方針の選択が重要だと思われます。

 刑事責任という面では、食器や調味料をなめまわしたり、すしに唾を付けたりする迷惑行為については、偽計業務妨害罪(刑法233条)に問われる可能性があります。偽計業務妨害罪に問われて有罪となった場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられることになります。

 同様に食器やすしについて、器物損壊罪(刑法261条)が成立する可能性があります。器物損壊罪に問われて有罪となった場合は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金若しくは科料に処せられることになります。

 企業としては、迷惑行為の加害者に厳正に対処したいと考える場合は、捜査機関に対し、偽計業務妨害罪や器物損壊罪で被害届の提出や刑事告訴をすべきであると考えられます。捜査機関としても、SNSで拡散されている動画という客観的な証拠があるため、被害届や告訴状をすんなり受理してくれる可能性が高いといえます。

民亊による損害賠償請求

 迷惑行為の映像をSNSに投降されたため企業が損害を被った場合、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)も考えられます。企業が被る損害としては、迷惑行為により必要となった備品の交換費用や清掃費、これらの対応を行った従業員の人件費などが想定され、相当な範囲で損害として認められる可能性が高いといえます。

 また、損害としては、迷惑行為により店舗を休業せざるを得なくなった場合、売り上げが減少しますから、休業損害の請求が考えられます。具体的な状況次第ですが、備品の一斉交換や食事場所の全面清掃などにより休業せざるを得なかったような場合も、損害として認められる可能性は高いと考えられます。

 これに対し、風評被害による損害については、加害者への請求は簡単ではありません。もちろん、迷惑行為により客足が遠のくといった出来事は大いにあり得る事態ですが、一般的に売り上げが減少する要因はさまざまであり、迷惑行為以外の要因で売り上げが減少した可能性も否定できないからです。簡単ではありませんが、迷惑行為によって売り上げが減少したと企業側が証明できるのであれば、損害として請求することも考えられます。

 企業にとっては加害者に対する責任追及も重要ですが、それだけで顧客の信頼を回復できるわけではありません。迷惑行為の再発防止のためには、具体的な対策も必要になります。

 迷惑行為が可能になってしまう原因を特定し、今後はオペレーションを見直したり、備品の配置を変更したりするなどの対応が必要になると考えられます。また、企業が取った具体的な再発防止措置をWebサイトやSNSで積極的に公表するなど、顧客への認知も有効であると思われます。

執筆=近藤 亮

近藤綜合法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属) 平成27年弁護士登録。主な著作として、『会社法実務Q&A』(ぎょうせい、共著)、『少数株主権等の理論と実務』(勁草書房:2019、共著)、『民事執行法及びハーグ条約実施法等改正のポイントと実務への影響』(日本加除出版:2020、共著)などがある。

【T】

あわせて読みたい記事

  • 弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第123回)

    自転車の「酒気帯び運転」が新たな罰則対象に

    法・制度対応

    2025.01.17

  • 弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第122回)

    「代表取締役」と「社長」の違い知っていますか?

    法・制度対応

    2024.11.21

  • 弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第121回)

    カスハラ対策に真剣に取り組もう

    法・制度対応

    2024.10.22

連載バックナンバー

弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話