弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第3回) 御社は大丈夫?ブラック企業と呼ばれないために

法・制度対応 ヘルスケア

公開日:2015.07.21

 2013年のユーキャン新語・流行語大賞にも選ばれた「ブラック企業」。最近では、ブラック企業と批判されたチェーン店が、労働環境改善に関する第三者委員会を設置し、調査報告書を提出させたことも話題となりました。このようなブラック企業に関する話題は後を絶ちません。

なぜブラック企業と呼ばれるのか?

 弁護士やジャーナリストなどの有識者が主催する「ブラック企業大賞」というものをご存知でしょうか。パワハラを行ったり、過労やサービス残業を従業員に強いる企業を“表彰”することで、ブラック企業の問題を世間にアピールするための大賞です。2012年から実施されており、今年で3回目となります。

 2014年の大賞ノミネート企業では、約半数の企業で長時間労働が問題となっていました。過去のノミネート企業でも長時間労働が選出の大きな理由となっており、また前述のチェーン店における調査報告書においても、長時間労働の常態化が指摘されていました。厚生労働省が平成25年12月17日に発表した『若者の「使い捨て」が疑われる企業等への重点監督の実施状況』においても、半数近くの企業に違法な時間外労働があったとされ、その25%近くの企業に1カ月80時間を超える時間外労働をする者が確認されています。

 このように、今、企業における長時間労働が、ブラック企業と判断される大きな要因となっていることは間違いありません。ブラック企業といわれないためには、最低でも労働時間について正しく認識している必要がありそうです。

労働時間の大原則を確認

 まずは、労働時間の大原則を確認しましょう。労働時間の大原則は、以下の3点です。

・労働は、1日8時間、1週間に40時間(注:これを法定労働時間といいます)まで
・休日は週1回以上必要
・労働時間は実労働時間で考える

 法定労働時間以上働いてもらう場合、企業は、労働者との協定(いわゆる36協定)と労基署への届出が必要となり、割増賃金を支払う必要があります。

 これらの大原則には、多くの例外があるのですが、その例外が、実は誤った理解をされていることが多いのです。以下に、その「誤解」の一例を紹介しましょう。

あなたの企業は大丈夫?実例から読み解く残業代の誤解

【Q1】報告書の作成を社員に指示をした。通常の社員であれば、営業時間内に完成するはずであった。しかし、その社員がダラダラと仕事を続けているため、残業となった。社員に問題がある場合なので、残業代は支払わなくてよいか?

【A1】残業代は支払う必要がある

 これは成果を強く意識する企業にありがちな誤解です。雇用契約は、一定の成果に対し報酬を支払う請負契約とは異なり、労務提供に対し報酬を支払うという契約です。そのため、成果が出ていなくても、労務提供を受けている(企業の指揮監督下にある)以上、残業代を支払う必要があります。

【Q2】前記の例で、残業時間が15分以内の場合、端数処理が認められ、残業代は不要ではないか?

【A2】たとえ1分の超過でも、原則として残業代の支払いが必要

 毎日の時間外労働は端数処理ができると勘違いしたことが原因の誤解です。労働時間は、実労働時間で算定するのが原則です。前述のチェーン店における調査報告書においても、このような端数処理が問題とされています。

【Q3】仮に前記社員が課長職であった場合、管理職であるため、残業代の支払いは不要ではないか?

【A3】実質的に経営者と同じ立場にある場合を除き、残業代を支払う必要がある

 労働基準法に「監督もしくは管理の地位にある者」には労働時間等の規制が適用されないとの規定があることから、「監督もしくは管理の地位にある者」と管理職を同じであるとする誤解も多いようです。ですが、課長が実質的にみて「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者」といえなければ、残業代を支払う必要があります。なお、この立場にあるか否かは、職務内容、権限、出退社などの自由や処遇の内容から判断されることになりますが、「経営者と一体的立場にある者」と認められる人は、一般的にはごく一部に限られます。

【Q4】その課長に役職手当が出ていた場合、残業代は役職手当に含まれているため、残業代の支払いは不要ではないか?

【A4】支払いは不要。ただし、役職手当に時間外労働の対価が含まれていると明確にいえない場合や実際の時間外労働分の賃金が役職手当を超える場合には、手当とは別に残業代を支払う必要がある

 役職手当に時間外労働の対価としての実態(規則、契約内容で明記されているなど)が認められ、実際の時間外労働分の賃金が役職手当の範囲内であれば、残業代の支払いは不要です。

 しかし、手当の実質が、たとえばその役職に対する責任を認識させるためや、やる気を起こさせるために支給されているものであるような場合や実際の時間外労働分の賃金が役職手当を上回るような場合には、手当とは別に残業代の支払いが必要となります。役職手当に時間外労働の対価が含まれることが明らかになっている企業は多いとは言えません。そのため、注意が必要です。

 このように、労働時間を正確に認識すると、長時間労働がいかにコストを増加させるかということが理解していただけると思います。また、残業代の未払いや違法な残業をさせた場合、付加金や刑罰等のリスクもあります。

 さらに、厚生労働省が平成23年12月26日に発表した「心理的負荷による精神障害の認定基準について(PDF)」や平成13年12月12日に発表した「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について(PDF)」を参考にすると、1カ月あたりの残業時間が80時間以上となるような場合には、疾患等と業務との因果関係が強く疑われることとなり、過労を原因とした損害賠償請求のリスクも負うことになると思われます。

 このようなリスクを負うよりも、一人一人が効率的な仕事ができるような体制を作ること、プライベートを充実させることにより、仕事へのモチベーションが上がるような体制を作ることのほうが、企業の発展に有益ではないでしょうか。

長時間労働・使い捨ての防止策

 長時間労働や使い捨てをなくすためには、まずは、経営者や管理職が労働時間管理について、意識的に取り組むことが必要です。具体的には、憲章を定める、ノー残業デーを設定するなどにより、残業をしにくい雰囲気、習慣を作ることが大切です。

 また、企業は労働者の労働時間、仕事内容を把握し、残業の理由を分析することが必要です。そのためには、パソコンの起動時間やタイムカードによって労働時間を管理したり、仕事内容の不可を点数化したりすることも有効です。さらに、残業は企業の許可制(残業理由等を申告させる)とするべきでしょう。これにより、必要性のない残業を排除し、必要な残業については、ノウハウ等の情報共有、改善のアドバイス、優先順位の指示、業務配分の見直しなどにより、効率化を図ることができます。

 これらの後押しをするため、労使間で労働時間や業務の効率化について定期的に意見交換をする場を設定する、人事考課において、業務の時間短縮のための取組姿勢などを積極的に評価することも有効だと思います。やむをえず長時間労働が必要となる場合であっても、本人の申し出がある場合や月80時間を超える残業をした場合には、健康確保のために産業医等による面接指導をさせ、場合によっては業務配分の見直し、休暇等を取得させるなどにより、過労死等のリスクを防ぐことも必要でしょう。

 このような防止策を企業が積極的に採用し、労働者が働き続けられる環境を作ることが労働者を大切にするということではないでしょうか。

ブラック企業と呼ばれてしまったら?

 これまでの企業は、トラブルになった後にその事件の対応のみを外部の専門家(特に弁護士)に依頼をするということが多かったように思います。しかし、今後は、トラブルになる前や労働基準監督署からの調査の段階から、外部の専門家を関与させ、対策や原因の解明をすることが必要でしょう。

 それでももし、ブラック企業と呼ばれるような事態になってしまったら、早急に外部の専門家を関与させ、上記のような対策・改善を講じるほかないでしょう。

 今回は主に労働時間の観点からブラック企業を見ていきましたが、世間から批判を受けるブラック企業は、長時間労働だけが問題ではありません。

 たとえば、前述のチェーン店における調査報告書を読むと、労働者が職場放棄をするほどの長時間労働を生んだ職場環境の原因として、経営幹部の考えや問題意識と現場労働者の実態とのギャップ、つまり、「現場労働者の意見の無視」があるように思えます。先ほど紹介した厚生労働省の発表にも「使い捨て」という言葉が使われていることからも、いわゆるブラック企業は、単なる労働基準関係法令等に違反しているだけではなく、労働者を大切にしないというところにも特徴があるようです。

 労働者を大切に扱うということは、ブラック企業と呼ばれないための最も基本的なことかもしれません。

 ※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年8月7日)のものです。

執筆=本間 由也

1982年生まれ。2004年明治学院大学法学部法律学科卒業、2007年明治学院大学法科大学院法務職研究科法務専攻卒業。翌2008年に司法試験合格。紀尾井町法律事務所での勤務を経て、2011年1月法テラス西郷法律事務所初代所長に就任。2014年2月こだまや法律事務所を東京都国分寺市に開所、現在に至る。

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