弁護士が語る!経営者が知っておきたい法律の話(第89回) 3月で経過措置期間は終了!原料原産地表示に要注意

法・制度対応

公開日:2022.02.24

 加工食品を購入する際、その原材料の原産地をチェックして、購入の参考にされる方も多いのではないでしょうか。今まで一部の加工食品にのみ義務付けられていた原材料の産地表示が、2017年の食品表示基準の改正・施行により、その対象が全ての加工食品に拡大されました。この改正の経過措置期間は2022年3月末までとなっているため、食品事業者の皆さまは、2022年3月31日までに「新たな加工食品の原料原産地表示制度」への対応が必要です。

 本記事では、食品事業者の皆さまに向けて、原料原産地の義務表示の対象や方法のうち、特に重要な3つのポイントについて概説します。

①原料原産地の義務表示の対象となる加工食品・原材料とは
②求められる原料原産地の表示方法とは
③表示方法の例外としての「又は表示」、「大括り表示」とは

 なお、本記事は、消費者向けの最終製品となる「一般用加工食品」を対象とし、「業務用加工食品」「業務用生鮮食品」に関する説明は割愛します。

①原料原産地の義務表示の対象となる加工食品・原材料とは

 多くの輸入原材料が加工食品の原材料として用いられるようになった現代において、消費者への十分な情報提供の要請を充足すべく、輸入品(※)を除いた全ての加工食品が、原料原産地の義務表示の対象となりました。
※輸入品については原産国名の表示が必要です。

 具体的には、輸入品以外の加工食品について、その原材料のうち、使用した原材料に占める重量の割合が最も高い原材料(水および添加物を除きます)について、原産地を表示することが義務付けられます。

 ただし、以下に掲げる場合には、例外的に原料原産地の義務表示の対象外となります。

・設備を設けて加工食品を飲食させる場合(外食)
・容器包装に入れずに販売する場合
・食品を製造し、又は加工した場所で販売する場合
・不特定又は多数の者に対して譲渡(販売を除く)する場合
・他法令によって表示が義務付けられている場合(ワイン、米加工品など)

 また、容器包装の表示可能面積がおおむね30 ㎠以下である場合には、原料原産地名の表示を省略できます。

②求められる原料原産地の表示方法とは

 対象原材料の原産地が2つ以上ある場合は、国別重量順表示が原則とされています。そのため、対象原材料の原料原産地を、国別に重量割合が高いものから順に、表示することが求められます。

 例えば、ウインナーソーセージの原材料のうち豚肉が重量上位1位の場合で、豚肉の原産地がアメリカとカナダである場合、豚肉をカナダよりもアメリカから多く輸入したときは、「豚肉(アメリカ、カナダ)」のように表示します。なお、原料原産地が3カ国以上に及ぶ場合には、重量割合の上位3カ国目以降を「その他」と表示することも可能です。

 また、対象原材料が生鮮食品である場合は、その産地を表示します。ただし、国産の生鮮食品である場合、「国産である旨」の表示に代えて、以下の表示を用いることが認められています。

・農産物:都道府県名その他一般に知られている地名

・畜産物:最も飼養期間の長い場所が属する都道府県名その他一般に知られている地名

・水産物:生産(採取・採捕を含む)した水域名、水揚げした港名、水揚げした港又は最も養殖期間の長い場所が属する都道府県名その他一般に知られている地名

 他方、対象原材料が加工食品である場合、原材料の名称に対応した製造地(製品の内容について実質的な変更をもたらす行為がなされた場所)を表示することになります。例えば、「砂糖(国内製造)」のように表示します。ただし、以下のような例外も認められています。

・加工食品が国産品である場合、「国内製造」の代わりに、都道府県名その他一般に知られている地名を用いた表示ができます。

・加工食品につき、その用に供された生鮮原材料の産地まで遡って判明しており、客観的にこれを確認できる場合には、製造地表示に代えて、当該生鮮原材料の名称とその産地を表示できます。例えば、「砂糖(さとうきび(国産))」のように表示します。

 なお、加工食品が輸入品である場合でも、国内において、さらに製品の内容につき実質的な変更をもたらす行為がなされた場合には、「国内製造」と表示することになりますので注意が必要です。

「大括り」や「又は」などの表示が認められるケースも

③表示方法の例外としての「又は表示」、「大括り表示」とは

 上述の通り、対象原材料の原料原産地表示は、原料原産地が2カ国以上あるときは国別重量順表示が原則です。しかし、頻繁に原材料の産地が変動する場合などに、その都度表示の切り替えを要求したり、限られた表示スペースにあらゆる産地の表示を要求したりすることは酷です。

 そのため、今後1年間で国別の重量割合の順位変動や産地切り替えが見込まれ、国別重量順表示が困難である場合には、根拠資料の保管など一定の要件を満たした上で、例外的に以下のような表示を行うことが認められます。

・「又は表示」
今後重量割合の順位変動が起こり得る原産地、または切り替える予定のある原産地を、「又は」でつないで表示する方法です。過去の一定期間における使用実績または今後の一定期間における使用計画に基づき、対象原材料に占める重量割合の高い原産地から順に表示した旨を付記する必要があります(下記「大括り表示+又は表示」でも同様)。例えば、「豚肉(アメリカ又はカナダ)※豚肉の産地は、昨年度の使用実績順によるものです」のように表示します。

・「大括り表示」
これは、今後重量割合の順位変動が起こり得る原産地、または切り替える予定のある原産地が3カ国以上(外国に限る)存在する場合に、「輸入」などと大まか表示するやり方です。国産も混ぜて使用する場合には、「国産」と「輸入」とで、重量割合の高い順に「、」でつなぎ、表示を行います。例えば、「豚肉(国産、輸入)」のように表示します。

・「大括り表示+又は表示」
これは、対象原材料の原産地が、日本および3カ国以上の外国である場合で、かつ国産の重量割合と外国産の重量割合の間で順位変動が起こり得る場合に、「国産」と「輸入」を「又は」でつないで表示するやり方です。例えば、「豚肉(輸入又は国産)※豚肉の産地は、昨年度の使用実績順によるものです」のように表示します。

 以上、加工食品の原料原産地表示について、3つのポイントに絞って見てきました。より詳しい内容については、農林水産省のウェブサイトで公開されている「新しい原料原産地表示制度−事業者向け活用マニュアル−」を始めとする、各種の公開資料をご参照ください。

 表示すべき事項を表示しなかった場合は、行政指導、指示、命令、立入検査などをされる可能性があります。また、このような命令や立入検査などに違反した場合や、虚偽の表示をした場合には、刑事罰も用意されています。

 食品事業者の皆さまにおかれましては、「新たな原料原産地表示制度」に違反しないよう、くれぐれもご注意いただければと思います。

執筆=福原 竜一

虎ノ門カレッジ法律事務所 弁護士 2009年弁護士登録。企業法務及び相続法務を中心業務とする。主な著作として、「実務にすぐ役立つ改正債権法・相続法コンパクトガイド」(編著:2019年10月:ぎょうせい)がある。2019年8月よりWEBサイト「弁護士による食品・飲食業界のための法律相談」を開設し、食に関わる企業の支援に力を入れている。https://food-houmu.jp/

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